『祝福の子供』(まさきとしか)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2024/01/07 『祝福の子供』(まさきとしか), まさきとしか, 作家別(ま行), 書評(さ行)

『祝福の子供』まさき としか 幻冬舎文庫 2021年6月10日初版

親になること、その奇跡、その幸福 - その重圧。私はこの子を愛せるだろうか

虐待を疑われ最愛の娘と離れて暮らす柳宝子。私は母親失格 - 。悩み続けたある日、二十年前に死んだはずの父親の遺体が発見される。遺品には娘への手紙と猟奇事件の切抜き記事。父の過去を探り事件を追う宝子だったがそれが愛する家族の決死の嘘を暴くことに。父の手紙の意味は? 母が犯した罪とは? 愛に惑う “元子供たち” を描く感動ミステリ。(幻冬舎文庫)

親と子の関係というのは一筋縄ではいきません。親は子を、子は親を、選んで生ったわけではないのですから。

あなたに質問です。

あなたは子供の頃、親に愛されていたと思いますか? 思いませんか? もちろんのこと愛されていたのでしょうが、ではそう思うに足る理由は何ですか? それを教えてください。

反対に、愛されてなどいなかったとしたらどうでしょう? だとしたら、これまであなたは何を糧に生きてきたのでしょう? 父を父と、母を母とも思えなかったあなたは、誰を頼りに生き延びてきたのでしょう? 

大人になり、子を持つ身となった今、あなたはわが子に対し、親として十分な愛をもって接していると断言できますか? 自分の感情が制御不能になり、子供につらく当たったりはしなかったですか?

その時、子供は泣きましたか? あなたにしがみついて、それでも好きだと言ってくれたでしょうか?

極めてシンプルな質問をしましょう。その子は、あなたの子供ですか? 母は、あなたを産んでくれた母ですか?

さて、小説の話をしましょう。この物語には主客織り交ぜて大勢の人物が登場します。人と人との関係は複雑で、話は行きつ戻りつします。まず、その関係を整理しましょう。

1.柳宝子と両親
母は、10年前に死亡。生前看護師として働いていた。母は子連れで結婚したので、21年前に焼死した父と宝子には血の繋がりはない。

2.柳宝子と離婚した元夫と二人の娘
夫は、勤めていた会社が倒産し伯父の経営する会社に就職するため実家がある函館に引っ越した。その際に、宝子は仕事を辞めるつもりはなく別居し、娘と生活する道を選ぼうとしたが上手くいかず離婚。現在小学3年生になった娘とは2か月に一度面会の場を設けているが、話題も乏しく会話も進まない。元夫とかつての姑は、宝子が幼い娘を虐待したと責め立てる。元夫の再婚話が進行中。

3.柳宝子と仕事関係の人たち
希望していた社会部ではなく文化部となったが、勤務先である新聞社の人間関係は、良好の様子。突然の父死亡の知らせにより、思わぬ事態に陥るが、上司が対処してくれる。フリーライターの蒲生という青年が宝子の父のことに興味を持っている。

4.柳宝子の元恋人とその家族
黄川田という刑事は、宝子の元恋人である。宝子の父が新聞記事の切り抜きを持っていた猟奇的殺人事件の現場で再会する。黄川田には妻と乳児がいるが、子どものことをかわいいと思うことができずにいる。自分の子どもかどうか妻の不貞を疑っている。

5.母親たちと、何も知らない赤ん坊たち
プロローグで誘拐事件を思わせる女の行動が描かれる。赤ん坊、赤ん坊の母親、誘拐した女、この三者は誰なのか。(解説より)

最大の読みどころは、昔死んだはずの父の遺体が発見され、その謎に迫るため、宝子が奔走する場面です。

父の遺骨はすでに母の遺骨と一緒に、二つ揃ってお寺のお墓にきちんと納められています。そこへまた、新たな父の遺骨を納めようと出向いた時のことでした。あるはずの古い父の遺骨が、きれいさっぱり消えてなくなっています。何者かによって、持ち去られています。

この本を読んでみてください係数 85/100

◆まさき としか
1965年東京都生まれ。北海道札幌市育ち。

作品 「夜の空の星の」「完璧な母親」「いちばん悲しい」「途上なやつら」「熊金家のひとり娘」「ゆりかごに聞く」「屑の結晶」「あの日、君は何をした」他

関連記事

『死刑について』(平野啓一郎)_書評という名の読書感想文

『死刑について』平野 啓一郎 岩波書店 2022年6月16日第1刷発行 死刑を存置

記事を読む

『くっすん大黒』(町田康)_書評という名の読書感想文

『くっすん大黒』町田 康 文春文庫 2002年5月10日第一刷 三年前、ふと働くのが嫌になって仕事

記事を読む

『想像ラジオ』(いとうせいこう)_書評という名の読書感想文

『想像ラジオ』いとう せいこう 河出文庫 2015年3月11日初版 この物語は、2011年3

記事を読む

『さよなら、ビー玉父さん』(阿月まひる)_書評という名の読書感想文

『さよなら、ビー玉父さん』阿月 まひる 角川文庫 2018年8月25日初版 夏の炎天下、しがない3

記事を読む

『屑の結晶』(まさきとしか)_書評という名の読書感想文

『屑の結晶』まさき としか 光文社文庫 2022年10月20日初版第1刷発行 最後

記事を読む

『スクラップ・アンド・ビルド』(羽田圭介)_書評という名の読書感想文

『スクラップ・アンド・ビルド』羽田 圭介 文芸春秋 2015年8月10日初版 今回の芥川賞の

記事を読む

『オールド・テロリスト』(村上龍)_書評という名の読書感想文

『オールド・テロリスト』村上 龍 文春文庫 2018年1月10日第一刷 「満州国の人間」を名乗る老

記事を読む

『絶叫』(葉真中顕)_書評という名の読書感想文

『絶叫』葉真中 顕 光文社文庫 2019年3月5日第7刷 - 私を棄てたこの世界を騙

記事を読む

『村上龍映画小説集』(村上龍)_書評という名の読書感想文

『村上龍映画小説集』村上 龍 講談社 1995年6月30日第一刷 この小説は『69 sixt

記事を読む

『姑の遺品整理は、迷惑です』(垣谷美雨)_書評という名の読書感想文

『姑の遺品整理は、迷惑です』垣谷 美雨 双葉文庫 2022年4月17日第1刷 重く

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『オーブランの少女』(深緑野分)_書評という名の読書感想文

『オーブランの少女』深緑 野分 創元推理文庫 2019年6月21日

『揺籠のアディポクル』(市川憂人)_書評という名の読書感想文

『揺籠のアディポクル』市川 憂人 講談社文庫 2024年3月15日

『海神 (わだつみ)』(染井為人)_書評という名の読書感想文

『海神 (わだつみ)』染井 為人 光文社文庫 2024年2月20日

『百年と一日』(柴崎友香)_書評という名の読書感想文

『百年と一日』柴崎 友香 ちくま文庫 2024年3月10日 第1刷発

『燕は戻ってこない』(桐野夏生)_書評という名の読書感想文

『燕は戻ってこない』桐野 夏生 集英社文庫 2024年3月25日 第

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑