『鏡じかけの夢』(秋吉理香子)_書評という名の読書感想文

『鏡じかけの夢』秋吉 理香子 新潮文庫 2021年6月1日発行

鏡じかけの夢 (新潮文庫)

このゾクゾクがたまらない

その鏡は、磨く者の願いを叶えるという。会いたい、羨ましい、妬ましい、もっと欲しい、憎い・・・・・・・。願えば願うほど、心に秘めた黒い欲望は醜く膨れ上がり、全てを呑み込む。看護婦の羨望。鏡研ぎ師の嫉妬、踊り子と富豪の禁忌の愛。戦争孤児と奇術師の絆。ヴェネツィアの双子姉妹の過ち - 。鏡に魅入られた人々が陥る、束の間の甘美な愉悦と残酷な結末を描いた、五つの物語。解説・飯豊まりえ。(新潮文庫)

[目次]
1.泣きぼくろの鏡
2.ナルキッソスの鏡
3.スタアの鏡
4.奇術師の鏡
5.双生児の鏡

いつの時代の話なのかはわかりません。しかし、確かに昔何かで読んだことがあるような、どこか懐かしい感じがします。少年の頃、恐怖とエロスに慄きながら、息を潜めて読んだ江戸川乱歩の推理小説のような。それに似た気配が漂っています。

一枚の鏡をめぐる物語 - 全身が映るほどの大きさの、木枠に豪奢な装飾が施された古い一枚の鏡がありました。その鏡は、嘘か実か、磨く者の願いを叶えるといいます。

鏡はめぐりにめぐり、幾人もの人の手に渡ります。それと同時に、鏡にまつわる噂もめぐりにめぐり、鏡を手にした者は半ば疑いつつも、一縷の望みに賭けて、皆が熱心に鏡を磨きます。彼らには、そうするに足る “理由” がありました。

さて。

折々の持ち主たちが手にしたものとは、畢竟何だったのでしょう? 願いは叶い、事は思い通りに運んだのでしょうか? 

彼らが当初願ったことは、ほんの小さな夢でした。小さいながら、彼らにとってはそれこそが “夢” であり “願い” であったはずです。

何処で道を間違えたのでしょう? もしも、はじめ願った 「願いごと」 だけだったとしたら、それだけなら - ひょっとしたら、鏡なしでも叶えることができたかもしれません。

哀しいかな、やるせないかな、彼らはそれ以上のことまで願ったのでした。

そして 「魔性の鏡」 の虜となって、狂気の果てに、残酷なまでの結末を迎えることになります。そうなったのは、全部自分のせいだと、気付くことになります。

教訓:一度味を占めれば、大抵はもう元へは戻れません。「その鏡に、願ってはいけない」 - それは、端から承知のはずでした。甘い話には、必ず、罠があります。

※あくまで私の好みですが、「奇術師の鏡」 と 「双生児の鏡」 をお勧めします。(意外性) にあっと驚き、何気にホロっときます。

この本を読んでみてください係数  80/100

鏡じかけの夢 (新潮文庫)

◆秋吉 理香子
兵庫県育ち、大阪在住。
早稲田大学第一文学部卒業。カリフォルニア州ロヨラ・メリーマウント大学大学院にて、映画・TV番組制作修士号取得。

作品 「雪の花」「暗黒女子」「婚活中毒」「ジゼル」「サイレンス」他

関連記事

『カウントダウン』(真梨幸子)_書評という名の読書感想文

『カウントダウン』真梨 幸子 宝島社文庫 2020年6月18日第1刷 カウントダウン (宝島

記事を読む

『くっすん大黒』(町田康)_書評という名の読書感想文

『くっすん大黒』町田 康 文春文庫 2002年5月10日第一刷 くっすん大黒 (文春文庫)

記事を読む

『崩れる脳を抱きしめて』(知念実希人)_書評という名の読書感想文

『崩れる脳を抱きしめて』知念 実希人 実業之日本社文庫 2020年10月15日初版 崩れる脳

記事を読む

『吉祥寺の朝日奈くん』(中田永一)_書評という名の読書感想文

『吉祥寺の朝日奈くん』中田 永一 祥伝社文庫 2012年12月20日第一刷 吉祥寺の朝日奈くん

記事を読む

『切羽へ』(井上荒野)_書評という名の読書感想文

『切羽へ』井上 荒野 新潮文庫 2010年11月1日発行 切羽へ (新潮文庫) &nbs

記事を読む

『夢に抱かれて見る闇は』(岡部えつ)_書評という名の読書感想文

『夢に抱かれて見る闇は』岡部 えつ 角川ホラー文庫 2018年5月25日初版 夢に抱かれて見る

記事を読む

『買い物とわたし/お伊勢丹より愛をこめて』(山内マリコ)_書評という名の読書感想文

『買い物とわたし/お伊勢丹より愛をこめて』山内 マリコ 文春文庫 2016年3月10日第一刷

記事を読む

『賢者の愛』(山田詠美)_書評という名の読書感想文

『賢者の愛』山田 詠美 中公文庫 2018年1月25日初版 賢者の愛 (中公文庫) 高中真由

記事を読む

『花や咲く咲く』(あさのあつこ)_書評という名の読書感想文

『花や咲く咲く』あさの あつこ 実業之日本社文庫 2016年10月15日初版 花や咲く咲く (実業

記事を読む

『少女奇譚/あたしたちは無敵』(朝倉かすみ)_朝倉かすみが描く少女の “リアル”

『少女奇譚/あたしたちは無敵』朝倉 かすみ 角川文庫 2019年10月25日初版 少女奇譚

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『生命式』(村田沙耶香)_書評という名の読書感想文

『生命式』村田 沙耶香 河出文庫 2022年5月20日初版発行

『中尉』(古処誠二)_書評という名の読書感想文

『中尉』古処 誠二 角川文庫 2017年7月25日初版発行

『犬のかたちをしているもの』(高瀬隼子)_書評という名の読書感想文

『犬のかたちをしているもの』高瀬 隼子 集英社文庫 2022年9月1

『殺人者』(望月諒子)_書評という名の読書感想文

『殺人者』望月 諒子 新潮文庫 2022年11月1日発行

『緑の我が家』(小野不由美)_書評という名の読書感想文

『緑の我が家』小野 不由美 角川文庫 2022年10月25日初版発行

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑