『夫婦一年生』(朝倉かすみ)_書評という名の読書感想文
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最終更新日:2024/01/07
『夫婦一年生』(朝倉かすみ), 作家別(あ行), 書評(は行), 朝倉かすみ
『夫婦一年生』朝倉 かすみ 小学館文庫 2019年7月21日第2刷発行
新婚なった夫婦の、最初の約一年間が描かれています。過不足なく丁寧に、”ありていに幸せな様子” が綴られています。但し、この “ありてい” こそが問題で、ただただ甘いだけの話なら本にはなりません。
とても読み心地がいいのだ。のろけ話だがベタベタしすぎず、適度な生活感はあるが、所帯じみてはいない。主人公夫婦の人となりにもくせがない。太田青葉と太田朔郎は、ともに三十三歳。結婚は早くもないが遅すぎるということもなく、美男美女というわけではないがお互いにほどほどの恋愛経験はあり、職業も青葉は筆記具メーカーの事務員、朔郎は百貨店の営業企画担当。すべてにおいて、まんなかのイメージだ。プロポーズのきっかけは朔郎の転勤で、結婚後、青葉は専業主婦になった。ごく普通のふたりが、ごく普通の恋をし、ごく普通の結婚をした。奥様は魔女だったのです・・・・・・・ということもない。(解説より)
では、この小説が言わんとするところは一体何なのか?
実は、それは (新装なった現在の) 表紙に細々と書いてあります。そして、そこで気になるのが、
『平場の月』 の後にこの物語を読むと、どうして涙が出るのだろう。
という文章です。『平場の月』 を未読の方には何やら意味深な、既に読んだという方は慌てて見直さなくてはならないような -
そこで、以前私が書いた 『平場の月』 についてのブログに載せたある記事を紹介したいと思います。この小説と 『平場の月』 とが、憎からず思う男女の関係の表裏、正反対の局面を極めて鮮明に描き出しているのがわかります。
五十歳の再会 『平場の月』 朝倉かすみ
五十歳というとまだまだ若い。でも、自分の人生のこの先に大きな前進があるとも思えない。身体だって衰えてきている。時には死の訪れが近いと感じることだってあるかもしれない。その時に人は、周囲はどんなことを思うのか。
朝倉かすみ 『平場の月』 は、五十歳の男、青砥健将が主人公だ。都内で妻子と暮らしていたが六年前に父親を亡くし、一人残された母の近くで暮らそうと地元の埼玉に中古マンションを購入。その後妻子と別れ、三年前には卒中で倒れた母親の面倒を見るために都内の製本会社から地元の印刷会社に転職。最近になって身体の不調を感じて検査に訪れた病院の売店で、中学時代の同級生、須藤葉子に再会する。どこかどっしりと構えたところのある須藤は、実は青砥がかつて告白してフラれた相手だ。二人で酒を飲む仲となり、現在一人で暮らす彼女に、波瀾万丈の人生を歩んできたことを聞かされる。そして現在、彼女自身も身体の不調を感じ、検査を受けたことも。果たしてその結果は - 。
このまま静かに老いていくのだと思われた日常に訪れた、かつての思いをくすぐる出会い。でもそれは情熱的な恋の再燃とはちょっと違う。一人は病と闘いながら自分の気持ちを密かに整理し、一人はそんな相手を淡々と支える。若い頃の恋愛とはまた違う、人間同士の慈しみが二人の関係を育んでいく。おのれの孤独を引き受けながらも誰かを求める大人の寂しさと優しさが、じわじわと行間から伝わってくる。二人の関係の結末は冒頭ですでに明かされており、だからこそ、読者は彼らの緩やかな歩みの一歩一歩を愛おしく感じるはずだ。思いやりを与え合えた二人の時間が、胸に沁みてくる。(瀧井朝世/光文社 小説宝石 2019年1月号掲載)
- と、こんな内容の作品です。本作の主人公の青葉と朔郎、晴れて夫婦となった二人の人生と、(できれば読んで) 『平場の月』 に登場する青砥健将と須藤葉子のそれを思い比べてみてください。感じるものがきっとあるはずです。
この本を読んでみてください係数 85/100
◆朝倉 かすみ
1960年北海道小樽市生まれ。
北海道武蔵女子短期大学教養学科卒業。
作品 「肝、焼ける」「田村はまだか」「夏目家順路」「玩具の言い分」「ロコモーション」「恋に焦がれて吉田の上京」「たそがれどきに見つけたもの」「満潮」「平場の月」他多数
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