『ぬばたまの黒女』(阿泉来堂)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2024/01/07 『ぬばたまの黒女』(阿泉来堂), 作家別(あ行), 書評(な行), 阿泉来堂

『ぬばたまの黒女』阿泉 来堂 角川ホラー文庫 2021年6月25日初版

人に言えない秘密がある人はご用心ください -
ナキメサマ著者による、ホラーエンタメド直球のどんでん返し第2弾!

妻から妊娠を告げられ、逃げるように道東地方の寒村・皆方村に里帰りした井邑陽介。12年ぶりに会う同窓生たちから村の精神的シンボルだった神社が焼失し、憧れの少女が亡くなったと告げられた。さらに焼け跡のそばに建立された神社では、全身の骨が砕かれるという異常な殺人事件が起こっていた。果たして村では何が起きているのか - 。異端のホラー作家、那々木悠志郎が謎に挑む。罪と償いの大どんでん返し! (角川ホラー文庫)

たまたま読んだ 『ナキメサマ』 が面白かったので、読んでみました。特徴は、前作以上に “怪異現象” に重きが置かれている点だと思います。そのため少々リアルさには欠けますが、それでも十分楽しめて、最後は 「あっ! 」 と驚くことになります。

別津町は札幌市から電車で五時間ほどの距離にある酪農と林業が盛んな町で、そこからさらに十数キロ先の山の麓にあるのが皆方村。陽介が十二年ぶりに訪れた彼の生まれ故郷であり、この物語の舞台となる集落です。

事件はまるで陽介の帰郷に合わせたようにして起こります。そして、その現場にいたのが 「黒衣を纏った謎の女」 でした。

女の横顔や首筋、袖の先からのぞく両手はぞくりとするほど白かった。腰まで達する長い黒髪を夜風になびかせながら俯いている。片方の手には柄が短く頭の部分が人間の頭部ほどもある木槌を、もう一方の手には柄の先が三叉に分かれた鐘を所持していた。そして足元には、大型犬ほどの黒い塊が転がっている。

地面の上に横たわり、手や足があらぬ方向を向いて歪に折れ曲がった黒い 何か。皮膚を突き破った白い骨があちこちからのぞき、本来頭があるべき場所にはそれらしいものがなく、アスファルトの地面にはすり潰されたような肉片が散らばっていた。凄惨さを物語るかのように、あたり一面が黒く濡れている。(本文より)

女が身に着けていた闇より深い漆黒の着物 - 陽介は、その着物に見覚えがありました。皆方村を去る最後の日、三門神社の境内で目にした (神社の娘の) 霧絵の姿でした。何も言わずに立ち去ろうとする陽介に気付き、寂しげな表情をした霧絵。その時の彼女の服装を今、唐突に思い出したのでした。

小袖、袴、祭祀の際に羽織る千早に至るまですべてが漆黒の和装 - 謎の女の黒衣は十二年前に霧絵が着ていたものと同じ、まごうことなき三門神社の巫女の装束でした。

深夜の皆方村は混乱を極めていた。
忙しなく行き交う警察関係者を横目に、僕たちはいまだ冷めやらぬ不快な興奮に翻弄されつつ事情聴取に応じていた。数人の警察官に代わる代わる同じ質問をされ、そのたびに一から話をするのだが、まともな受け答えなど出来るはずもなかった。

また、さまよい歩く作業着姿の男たちや遺体の傍に佇んでいた黒衣の女について話したところで、信じてくれる警察官は一人もいなかった。もちろん、信じろと言う方が無理な話だということくらい分かってはいたが。(本文より)

意外だったのは、那々木でした。彼は警察に対し、「助けを求める男が何者かによって殺され、傍らには異様な風貌の女がいた。その女は目を離した隙に逃げてしまった」 という、なぜか、最低限の証言しかしません。

※「黒装束を纏った謎の女」 をイメージしたのが表紙の絵で、女は目から血の涙を流す骸骨を手にしています。但し、それはここで書いた箇所の情景ではありません。もっとあとで、出てきます。

この本を読んでみてください係数 80/100

◆阿泉 来堂
北海道在住。会社員。

作品 『ナキメサマ』 (受賞時タイトル 「くじりなきめ」) で第40回横溝正史ミステリ&ホラー大賞 (読者賞) を受賞してデビュー。本作は第二作。

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