『噛みあわない会話と、ある過去について』(辻村深月)_書評という名の読書感想文

『噛みあわない会話と、ある過去について』辻村 深月 講談社文庫 2021年10月15日第1刷

あなたの過去は、大丈夫?

美しい 「思い出」 として記憶された日々 - 。
その “裏側” に触れたとき、見ていた世界は豹変する。
無自覚な心の内をあぶりだす “鳥肌” 必至の傑作短編集! (講談社文庫)

とても大事に思う、貴方にとってかけがえのない昔あった出来事を思い出してください。人に良くしたこと。人に感謝されたと思うこと。人のためにと、やったこと。人を差別しなかったこと。何でも構いません。

あの時よかれと思い、または、悪気なくした発言や行動が、もしもです。もしも・・・・・・・、

あなたの一方的な思い込みに過ぎずに、その発言や行動が、相手を深く傷付けていたとしたらどうでしょう? 何年も経ち、はじめてそうと知らされた時、貴方はどんな気持ちになるのでしょう。

動揺し、相手の言い分を理不尽に感じ、腹が立つかもしれません。どこで鍵をかけ間違えたのか、自分の何が相手をそこまで追い込んだのかがわからずに、途方に暮れるかもしれません。激しく後悔し、何も考えられなくなるかもしれません。そんな話が書いてあります。

第一話 「ナベちゃんのヨメ」 - 大学の部活で仲のよかった男友達のナベちゃんが結婚するという。しかし、紹介された婚約者はどこか変で、何かがズレています。

第二話 「パッとしない子」 - 国民的アイドルになったかつての教え子がやってくる。小学校教諭の美穂は、ある特別な思い出を胸に、大いに再会を喜んでいます。

第三話 「ママ・はは」 - スミちゃんの母は独りよがりで、子育てについても固い信念があります。しかし、それはスミちゃんの思うところとまるで噛み合ってはいません。

最終話 「早穂とゆかり」 - 県内情報誌のライターをしている早穂と、今や学習塾のカリスマ経営者と呼ばれているゆかり。二人は小学校の同級生で、成長し社会人となり、立場を変えて、久しぶりに出会うことになります。

*解説より (東畑開人/臨床心理士)

密室に幽霊が出る

密室に幽霊が出る - 「噛みあわない会話」 という幽霊である。

と、古い思想家の言葉をついついもじりたくなってしまうのは、この短編集が本質的には怪談であったからだ。そう、これはホラーだ。死者が蘇り、生者を呪い殺そうとする物語なのだ。
そうはいっても、本物の幽霊が登場するわけではない。お岩さんとかキョンシーとかゾンビみたいに、医学的な意味で生命を絶たれた死者が問題になっているわけではない。

違うのだ。この本に登場するのは、心理学的な意味での死者だ。かつて深く傷ついて、非業の死を遂げた心の一部分。それが密室に立ち現れ、陰惨な復讐を遂げようとする。

続けて縷々説明があり、最後はこんなふうに結ばれています。

密室に幽霊が出る - 噛みあわない会話という幽霊である。
ただし、この噛みあわない会話は、噛みあわせを調整するためになされる。
幽霊の専門家として、そう思うのだ。

この本を読んでみてください係数 85/100

◆辻村 深月
1980年山梨県笛吹市生まれ。
千葉大学教育学部卒業。

作品 「冷たい校舎の時は止まる」「凍りのくじら」「ツナグ」「太陽の坐る場所」「鍵のない夢を見る」「朝が来る」「ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。」「かがみの孤城」「傲慢と善良」他多数

関連記事

『境界線』(中山七里)_書評という名の読書感想文

『境界線』中山 七里 宝島社文庫 2024年8月19日 第1刷発行 『護られなかった者たちへ

記事を読む

『夜蜘蛛』(田中慎弥)_書評という名の読書感想文

『夜蜘蛛』田中 慎弥 文春文庫 2015年4月15日第一刷 芥川賞を受賞した『共喰い』に続く作品

記事を読む

『賢者の愛』(山田詠美)_書評という名の読書感想文

『賢者の愛』山田 詠美 中公文庫 2018年1月25日初版 高中真由子は、編集者の父と医師の母のも

記事を読む

『ジミ・ヘンドリクス・エクスペリエンス』(滝口悠生)_書評という名の読書感想文

『ジミ・ヘンドリクス・エクスペリエンス』滝口 悠生 新潮文庫 2018年4月1日発行 東北へのバ

記事を読む

『とにかくうちに帰ります』(津村記久子)_書評という名の読書感想文

『とにかくうちに帰ります』津村 記久子 新潮社 2012年2月25日発行 「家に帰る以上の価

記事を読む

『カンガルー日和』(村上春樹)_書評という名の読書感想文

『カンガルー日和』村上 春樹 平凡社 1983年9月9日初版 村上春樹が好きである。 私が持っ

記事を読む

『くらやみガールズトーク』(朱野帰子)_書評という名の読書感想文

『くらやみガールズトーク』朱野 帰子 角川文庫 2022年2月25日初版 「わたし

記事を読む

『買い物とわたし/お伊勢丹より愛をこめて』(山内マリコ)_書評という名の読書感想文

『買い物とわたし/お伊勢丹より愛をこめて』山内 マリコ 文春文庫 2016年3月10日第一刷

記事を読む

『さんかく』(千早茜)_なにが “未満” なものか!?

『さんかく』千早 茜 祥伝社 2019年11月10日初版 「おいしいね」 を分けあ

記事を読む

『切り裂きジャックの告白』(中山七里)_書評という名の読書感想文

『切り裂きジャックの告白』中山 七里 角川文庫 2014年12月25日初版 東京・深川警察署の

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『孤蝶の城 』(桜木紫乃)_書評という名の読書感想文

『孤蝶の城 』桜木 紫乃 新潮文庫 2025年4月1日 発行

『春のこわいもの』(川上未映子)_書評という名の読書感想文

『春のこわいもの』川上 未映子 新潮文庫 2025年4月1日 発行

『銀河鉄道の夜』(宮沢賢治)_書評という名の読書感想文

『銀河鉄道の夜』宮沢 賢治 角川文庫 2024年11月15日 3版発

『どうしてわたしはあの子じゃないの』(寺地はるな)_書評という名の読書感想文

『どうしてわたしはあの子じゃないの』寺地 はるな 双葉文庫 2023

『死神の浮力』(伊坂幸太郎)_書評という名の読書感想文

『死神の浮力』伊坂 幸太郎 文春文庫 2025年2月10日 新装版第

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑