『虚談』(京極夏彦)_この現実はすべて虚構だ/書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2024/01/07 『虚談』(京極夏彦), 京極夏彦, 作家別(か行), 書評(か行)

『虚談』京極 夏彦 角川文庫 2021年10月25日初版

*表紙の画をよく見てください。現実ではあり得ないものが描かれています。

元デザイナーで小説家の 「僕」 は、知人友人からよく相談を受ける。「ナッちゃんはそういうの駄目な口やろ」 と笑いながら、デザイン学校の時代の齢上の同輩、御木さんは奇妙な話を始めた。13歳のとき山崩れで死んだ妹が、齢老い、中学の制服を着て、仕事先と自宅に現れたというのだ。だが彼の話は、僕の記憶と食い違っていた (「クラス」)。家に潜む 〈誰か〉。祀られたキンゴロー様。夢の中の殺人 - 。この現実と価値観を揺るがす連作集。(角川文庫)

解説より、選んで二つを紹介します。

「ハウス」。勘のいい読者なら冒頭の一声で、ああこれは人間を、あるいは幽霊を飼っている話だなと察しがつくだろう。いってみればこれは倒叙形式の (犯人が最初からわかっているタイプの) 怪談である。様々の伏線が、木村さんのそれと知れる嘘が、結末へきれいに収斂していく様は快感でさえある。第一級の怪談とはこのようなものを指すのだ。

最終話 「リアル」。夢で殺人を犯したことがある人がどのくらいいるか分からないけれども、覚えのある人は、微に入り細を穿ったあの家の描写で、きっと嫌な予感がするはずである。僕は夢の中で三人ほど人を殺めている。事後だったらまだいいのだが、そのうち二人は犯行直前からで、実に悍ましい夢であった。であるから、件の描写が出た際に 「うわーっ来たぞ! 」 とすぐに合点がいった次第である。これは夢で犯行に及んだ同志にしか分らない感覚であろう。

リアル、である。夢なのに。虚構なのに。
取り返しがつかない、何度僕もそう思ったことだろう。悔恨の念、罪の意識は起きている間も胸の底に澱のようにあり、何ものかから逃げなくてはいけないという気持ちも、意識の片隅に常にうっすらとある。

虚を作り出し、虚に苛まれ、現実と虚の狭間で揺れ動くばかりだ。リアルとは何なのか。虚はありありとリアルを描き出すし、一方現実は虚が積み重なっただけのもの、嘘といえなくもない。我々を虚の真ん中にぽつんと置き去りにして、虚談は終わる。

bonus trackを含め、全10話。どこまでが本当で、どこからが嘘なのか。夢か幻か、それとも、それこそがまごうことなき真実なのか。幽霊か否か - それは今に至って何を為そうというのでしょうか。

※漫才の掛け合いに似た会話が面白く、中にどんでん返しもあって、読む手が止まりません。解説の和嶋慎治氏の言う通り、第一級品の怪談です。

この本を読んでみてください係数 85/100

◆京極 夏彦
1963年北海道小樽市生まれ。
北海道倶知安高等学校卒業。専修学校桑沢デザイン研究所中退。

作品 「鉄鼠の檻」「魍魎の匣」「嗤う伊右衛門」「百鬼夜行-陰」「覘き小平次」「後巷説百物語」「邪魅の雫」「西巷説百物語」「死ねばいいのに」「オジいサン」他多数

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