『変半身/KAWARIMI』(村田沙耶香)_書評という名の読書感想文 

『変半身/KAWARIMI』村田 沙耶香 ちくま文庫 2021年11月10日第1刷

変半身 (ちくま文庫)

残酷にまわり続ける世界で生きる
ニンゲンたちを描く
哄笑と恐怖に満ちた村田ワールド。最新文庫版、いざ降臨!

青春は蹂躙され初恋は汚染され真実は歪曲されて、

狂信と不信、秘史と偽史、
人間と人外の境界を越えて見えるのは、原始の真相か、深層の幻視か -
最高の周章狼狽を味わえ!  李琴峰
(作家・第165回芥川賞受賞)
※周章狼狽:大いにあわてふためくこと。うろたえ騒ぐこと。

「だって、私たちって、家畜じゃない」 (「変半身」) 「僕たちの身体には奇跡が眠っているんだ」 (「満潮」)- 若者が贄となる孤島の秘祭 「モドリ」 の驚愕の真相から恐るべき世界の秘密が明かされる 「変半身」、「潮を吹きたい」 という夫に寄り添う妻がふたりで性の変容を探求する 「満潮」、ニンゲンの宿命と可能性を追求して未知の世界を拓く村田ワールドの最新の到達点を見よ! (ちくま文庫)

目次
変半身かわりみ) 原案=松井周 村田沙耶香
満潮

「潮を噴いてみようと思うんだ」
「・・・・・・・潮? 」
夫が何を言っているのかわからなかった。

言葉を失くした私と対照的に、夫はさっきまでもごもごしていたのが嘘のように、身を乗り出して熱心に話し始めた。
「去年の年末、忘年会でそんな話を聞いたんだ。男でも噴けるという話を先輩が楽しそうに話していたんだよ。そのときはくだらなく思えたけれど、だんだんと気になってきて。自分の身体にもそんな可能性があるのかって、どうしても試してみたくなったんだ」

「そんなの、専門のお店に行けば、すぐにできるんじゃないの? 」
と投げやりに言った。

「佳代さんまでそんな短絡的なことを言わないでよ。それじゃだめなんだよ。僕が出したいのは、そんなふうに汚れた潮じゃないんだ。自分だけの力で辿りつきたいんだ。僕の潮は僕のものだ

宣言通り、翌日から夫は潮にチャレンジし始めた。二人での夕食を終え、私が風呂から出てくると、入れ替わるように浴室へ向かい、そのまま何時間も籠るようになった。

「それで今日はどうだったの? 」
夫は苦笑いをして首を横に振った。
「駄目だったよ。インターネットで調べたのだけれど、ある程度の痛みを乗り越えないといけないらしい。辛い挑戦になりそうだけれど、だからこそがんばりたいんだ」

「そう」
尋ねておきながら 「潮」 という言葉を耳にしたくなくて、夫がその言葉を言う前に背を向けて布団に潜り込んだ。
私もそんなものは噴いたことがないので、想像するしかないが、一体それが出たからといって何だというんだろう。夫の気持ちがさっぱりわからなかった。

それよりもう一度夢精を味わいたい。夢精は汚れていないから。するりと脳の中で呟いた言葉が、夫がこの前、潮に対して使っていた言葉と同じだということに気が付いた。(「満潮」 より抜粋)

はじめ、妻の佳代は夫の直行からの突然の申し出に上手く反応することが出来ません。夫がやりたいようにやらせてあげればいいと理屈ではわかっていても、自分の感情がコントロールできません。佳代は 「潮」 という言葉をひどく忌み嫌っています。

ところが、それがあるきっかけで、佳代も (噴いてみようかな) と思うようになります。

※人か、人とは違う生き物か。男か女か。誰のためにすることか - そんなこととは関係なしに、およそ異なる次元に立って眺めてみれば、そこに何が見えるのか。与えられた宿命と可能性に、どう対処すべきかが問われています。

この本を読んでみてください係数 80/100

変半身 (ちくま文庫)

◆村田 沙耶香
1979年千葉県印西市生まれ。
玉川大学文学部芸術学科芸術文化コース卒業。

作品 「授乳」「ギンイロノウタ」「ハコブネ」「殺人出産」「しろいろの街の、その骨の体温の」「消滅世界」「コンビニ人間」「地球星人」他多数

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