『第8監房/Cell 8』(柴田 錬三郎/日下三蔵編)_書評という名の読書感想文
公開日:
:
最終更新日:2024/01/06
『第8監房/Cell 8』(柴田 錬三郎/日下三蔵編), 作家別(さ行), 書評(た行), 柴田錬三郎
『第8監房/Cell 8』柴田 錬三郎/日下三蔵編 ちくま文庫 2022年1月10日第1刷
さあ、殺されておいで
剣豪小説の大家が残した 〈狂気〉 のミステリ短篇
巧みなストーリーテリングと衝撃のラスト シバレンの現代小説、幻の傑作!!!剣豪小説の大家として知られる著者は、現代もののミステリも多数残した。本書は表題作 「第8監房」 を筆頭に、主に1950年代に発表され現在は入手困難な短篇を集めたオリジナル作品集。東京の裏社会、スパイ工作、連続猟奇殺人、禁断の愛 - 巧みなストーリーテリングと衝撃の結末で贈る 〈狂気〉 ほとばしる作品群。幻の 『盲目殺人事件』 を完全収録し、日下三蔵氏による詳細な解説も併録。(ちくま文庫)
知っていたのは、名前だけ。時代小説専門の作家さんだと思っていました。昔の人というイメージで、おそらく読むことはないだろうと。「柴田錬三郎」 だから読んだわけではありません。表紙の画と 「第8監房」 というタイトルに、つい手が伸びました。
ミステリアスな短篇が計8篇、収められています。「実話」 をヘースに、それを著者が自在に色付けして完成させた作品群、とでも言えばよいのでしょうか。事実と虚構を織り交ぜて、(読み物として) 巧みに工夫されているのがわかります。
著者曰く、
私は、もともと、フィクションとノンフィクションを、劃然と区別するのはおかしいと思っている。いかなる小説も、作家の目的あるいは耳に入った素材が土台になっている。ただ、その素材の使用量の多少のちがいにすぎない。いかなる実話も、筆者の想像が加えられない筈はない。そしてまた、遺された記録もそうであるとすれば、それを写すことは必ずしも真相をつたえることにはなるまい。
いってみれば、本書の各篇は、実話的小説乃至は小説的実話ということになりそうである。したがって、「これは本当にあったことか」 と訊ねられては当惑するし、反対に、「まるっきり出鱈目なんだろう」 ときめつけられるのも困る。
明治年間に、無名の平凡な夫婦が幾百万組も存在したことが事実としても、それは殆んど無意味であるかわりに、かの貫一お宮が架空の人物であるにも拘わらず、実在した以上の意味をもっているということを、私は、疑わないのである。(『妃殿下と海賊』 より 鱒書房 1956年)
まこと、その通りだろうと。後は読むこちら側の問題、想像力の如何だろうと。
※本書に収めた作品は、いずれも昭和二十年代後半から昭和三十年代前半にかけて発表されたものであるため、作中に登場する語句や表現、登場人物たちの人権感覚などにも、当然ながら、執筆当時のものが反映されている。時代の変化によって、現在では不適当とされるものも多く、特に癩病 (ハンセン病) の描写については、科学的に誤りであると判明しているので、その旨ご留意いただきたい。
語句の改変は行っていないので、発表年代を考慮しながら、ストーリー自体の面白さを楽しんでいただければ幸いである。(解説より)
この本を読んでみてください係数 80/100
◆柴田 錬三郎
1917-78年。岡山県備前市生まれ。
慶応義塾大学支那文学科卒業。
作品 52年、「イエスの裔」 で第26回直木賞を受賞。以後、時代小説を中心に創作。代表作に「眠狂四郎無類控」「三国志 英雄ここにあり」など。本作は、著者には珍しい現代小説である。
関連記事
-
『君の膵臓をたべたい』(住野よる)_書評という名の読書感想文
『君の膵臓をたべたい』住野 よる 双葉社 2015年6月21日第一刷 主人公である「僕」が病院で
-
『老老戦記』(清水義範)_書評という名の読書感想文
『老老戦記』清水 義範 新潮文庫 2017年9月1日発行 グループホームの老人たちがクイズ大会に参
-
『月』(辺見庸)_書評という名の読書感想文
『月』辺見 庸 角川文庫 2023年9月15日 3刷発行 善良無害をよそおう社会の表層をめく
-
『きみの友だち』(重松清)_書評という名の読書感想文
『きみの友だち』重松 清 新潮文庫 2008年7月1日発行 わたしは「みんな」を信
-
『盤上に散る』(塩田武士)_書評という名の読書感想文
『盤上に散る』塩田 武士 講談社文庫 2019年1月16日第一刷 唯一の家族だった
-
『正しい女たち』(千早茜)_書評という名の読書感想文
『正しい女たち』千早 茜 文春文庫 2021年5月10日第1刷 どんなに揉めても、
-
『欺す衆生』(月村了衛)_書評という名の読書感想文
『欺す衆生』月村 了衛 新潮文庫 2022年3月1日発行 詐欺の天才が闇の帝王に成
-
『滅茶苦茶』(染井為人)_書評という名の読書感想文
『滅茶苦茶』染井 為人 講談社 2023年5月8日第1刷発行 こんな目にはあいたく
-
『展望塔のラプンツェル』(宇佐美まこと)_書評という名の読書感想文
『展望塔のラプンツェル』宇佐美 まこと 光文社文庫 2022年11月20日初版第1刷
-
『誰にも書ける一冊の本』(荻原浩)_書評という名の読書感想文
『誰にも書ける一冊の本』荻原 浩 光文社 2011年6月25日初版 この小説は複数の作家に