『正体』(染井為人)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2024/01/06 『正体』(染井為人), 作家別(さ行), 書評(さ行), 染井為人

『正体』染井 為人 光文社文庫 2022年1月20日初版1刷

罪もない一家を惨殺した死刑囚はなぜ脱獄したのか!? その488日を追うミステリー!
WOWOW連続ドラマW2022年3月12日、放送・配信開始!
主演・亀梨和也/黒木瞳 市原隼人 貫地谷しほり 上川隆也

埼玉で二歳の子を含む一家三人を惨殺し、死刑判決を受けている少年死刑囚が脱獄した! 東京オリンピック施設の工事現場、スキー場の旅館の住み込みバイト、新興宗教の説教会、人手不足に喘ぐグループホーム・・・・・・・。様々な場所で潜伏生活を送りながら捜査の手を逃れ、必死に逃亡を続ける彼の目的は? その逃避行の日々とは? 映画化で話題沸騰の注目作! (光文社文庫)

事件が起きたのは2017年10月13日、現場は埼玉県熊谷市にある民家。殺されたのは当時29歳だった夫の井尾洋輔、妻の千草27歳、二人の息子である俊輔2歳。
犯人の少年は、まだ日も高い16時頃、井尾夫妻の住む一軒家に侵入し、まず妻の千草を台所にあった出刃包丁で腹部を突き刺し殺害し、続いて息子の俊輔を同じように殺害したという。そこにちょうど仕事を終えた夫の洋輔が帰宅し、今度は背中を突き刺して殺害。結局少年は、争う物音を聞いた隣人の通報で駆けつけた警察官によってその場で逮捕されたとのこと。
家には同居していた洋輔の母がいたようだ。50代のこの女性は殺されなかったようなので、皆殺しではなかったのだ。

坊主頭の若者が口を真一文字に結んで写っていた。くっきりした二重まぶたで、鼻筋が綺麗に通っている。ふうん、わりとイケメンじゃん。女子にモテそうなのに、なんで犯罪なんて犯しちゃうかな。舞はそんな感想を抱いた。
名前は鏑木慶一。年齢は当時18だから、今は・・・・・・・19歳か20歳だ。舞よりも一つ、もしくは二つ年上だ。
経歴を見ると、この少年はどうやら児童養護施設というところで育ったらしい。ということは両親がいないのだろうか。その点に関しては同情するけれど、だからといって人を殺していいわけがない。(「プロローグ 脱獄から一日」 より抜粋)

平成最後の少年死刑囚となった鏑木慶一は、収監されていた神戸拘置所から脱獄をはかります。逮捕されてから約1年半後の2019年3月3日のことでした。

彼はその日、夕食を摂った後の21時過ぎ、刑務官を房に呼びつけ、体調不良を訴えます。演技ではないと判断した刑務官は拘置所内にある医務室へと連れて行き、常勤医による診察を受けさせました。そこで39度を超える高熱が確認されたため、しばらくベッドに横にして様子を見ていたところ、鏑木慶一はいきなり吐血し、また、それが間欠的に複数回見られたため、その場にいた常勤医や刑務官らは大いに慌てふためき、結果、彼は3人の刑務官に付き添われ、市内にある総合病院へと緊急移送されることになります。

総合病院で改めて診察を受けている最中、鏑木慶一は便所に行かせてほしいと申し出ます。そこで3人の刑務官の内の1人が付いて行くこととなったのですが、ここで彼が蛮行に出ます。いきなり刑務官の顔面に頭突きを食らわせたのでした。
戻りが遅いため、不審に思った刑務官2人が便所に様子を見に行くと、大便用の個室で同僚が気を失った状態で倒れているのを発見します。

少年死刑囚・鏑木慶一は、こうして姿を消したのでした。それから数えること488日もの間、彼は逃げ続けます。工事現場で働く作業員に、メディア会社の在宅ライターに、長野の旅館の住み込みに、新興宗教の信者に、我孫子のグループホームで働く介護士に、姿形を変え名前を変えて、現れてはやがて去ることを繰り返します。

鏑木慶一は、何が目的で逃げ続けていたのでしょう。身分を偽り、整形までして逃走する先に、何があったのでしょう? プロローグに続き、彼の逃避行の軌跡は、

一章 脱獄から455日
二章 脱獄から33日
三章 脱獄から117日
四章 脱獄から283日
五章 脱獄から365日
六章 脱獄から488日
そして、
七章 正体
エピローグ - へと連なっていきます。

この本を読んでみてください係数 85/100

◆染井 為人
1983年千葉県生まれ。

作品 2017年、『悪い夏』 で第37回横溝正史ミステリ大賞優秀賞を受賞し、デビュー。他に「正義の申し子」「震える天秤」等

関連記事

『実験』(田中慎弥)_書評という名の読書感想文

『実験』田中 慎弥 新潮文庫 2013年2月1日発行 最近、好んで(という言い方が適切かどう

記事を読む

『また次の春へ』(重松清)_書評という名の読書感想文

『また次の春へ』重松 清 文春文庫 2016年3月10日第一刷 終わりから、始まる。厄災で断ち切

記事を読む

『呪文』(星野智幸)_書評という名の読書感想文

『呪文』星野 智幸 河出文庫 2018年9月20日初版 さびれゆく商店街の生き残りと再生を画策す

記事を読む

『人生相談。』(真梨幸子)_書評という名の読書感想文

『人生相談。』真梨 幸子 講談社文庫 2017年7月14日第一刷 父が遺してくれた家に、見知らぬ家

記事を読む

『静かな雨』(宮下奈都)_書評という名の読書感想文

『静かな雨』宮下 奈都 文春文庫 2019年6月10日第1刷 行助は美味しいたいや

記事を読む

『JR高田馬場駅戸山口』(柳美里)_書評という名の読書感想文

『JR高田馬場駅戸山口』柳 美里 河出文庫 2021年3月20日新装版初版 夫は単

記事を読む

『KAMINARI』(最東対地)_書評という名の読書感想文

『KAMINARI』最東 対地 光文社文庫 2020年8月20日初版 どうして追い

記事を読む

『しゃもぬまの島』(上畠菜緒)_書評という名の読書感想文

『しゃもぬまの島』上畠 菜緒 集英社文庫 2022年2月25日第1刷 それは突然や

記事を読む

『沙林 偽りの王国 (上下) 』 (帚木蓬生)_書評という名の読書感想文

『沙林 偽りの王国 (上下) 』 帚木 蓬生 新潮文庫 2023年9月1日発行 医

記事を読む

『殺人鬼フジコの衝動』(真梨幸子)_書評という名の読書感想文

『殺人鬼フジコの衝動』真梨 幸子 徳間文庫 2011年5月15日初版 小学5年生、11歳の少

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『悪逆』(黒川博行)_書評という名の読書感想文

『悪逆』黒川 博行 朝日新聞出版 2023年10月30日 第1刷発行

『エンド・オブ・ライフ』(佐々涼子)_書評という名の読書感想文

『エンド・オブ・ライフ』佐々 涼子 集英社文庫 2024年4月25日

『アトムの心臓 「ディア・ファミリー」 23年間の記録』(清武英利)_書評という名の読書感想文

『アトムの心臓 「ディア・ファミリー」 23年間の記録』清武 英利 

『メイド・イン京都』(藤岡陽子)_書評という名の読書感想文

『メイド・イン京都』藤岡 陽子 朝日文庫 2024年4月30日 第1

『あいにくあんたのためじゃない』(柚木麻子)_書評という名の読書感想文

『あいにくあんたのためじゃない』柚木 麻子 新潮社 2024年3月2

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑