『Blue/ブルー』(葉真中顕)_書評という名の読書感想文

『Blue/ブルー』葉真中 顕 光文社文庫 2022年2月20日初版1刷

※本作は書下ろし作品です。また、この物語は平成30年間の文化・風俗を俯瞰しながら、児童虐待、子供の貧困、無戸籍児、モンスターペアレント、外国人の低賃金労働など、様々な社会問題をテーマとした作品ですが、フィクションであり、実在の人物、団体、事件とは一切関係がありません。

平成15年に発生した一家殺人事件。最有力容疑者である次女は薬物の過剰摂取のため浴室で死亡。事件は迷宮入りした。時は流れ、平成31年4月、桜ヶ丘署の奥貫綾乃は 「多摩ニュータウン男女二人殺害事件」 の捜査に加わることに。二つの事件にはつながりが・・・・・・・!? 平成という時代を描きながら、さまざまな社会問題にも斬り込んだ、社会派ミステリーの傑作! (光文社文庫)

ブルーはBlue の主人公だ。彼は平成が始まった日に生まれ、平成が終わった日に死んだ。プロローグの記述によれば 母親が生まれたばかりの彼を抱いたとき、ふと見ると、窓の向こうに青空が広がっていたという。しかし 平成が始まった1989年1月8日、東京は一日中雨模様であり、青空など見えるはずもなかったのだ

なぜ見えるはずもない青空が見えたのか考えたとき、ザ・ブルーハーツの名曲 (『青空』) が思い浮かんだ。ブルーの人生も、平成という時代を体験した人々を問いつめる。こんなはずじゃなかっただろ?と。

物語の中心になるのは、ブルーが14歳のときに発生した 〈青梅事件〉 だ。平成15年12月24日、青梅市で教員一家が惨殺された。最重要容疑者と見られる次女・篠原夏希は、合法ドラッグを飲んで風呂に入り死んでいた。現場にはSMAPのヒット曲 『世界に一つだけの花』が流れていた。

昭和のまま時が止まったような部屋に引きこもっていたはずの夏希が、どうやって薬物と壁に貼られた異国の青い湖の写真を手に入れたのか。ブルーとは何者なのか。警察の捜査と関係者の証言、「For Blue」 と題した断章の語り手によって、少しずつ明らかになっていく。

平成15年、西暦で言えば2003年は、イラク戦争が勃発した年だ。日本では子供のふりをして老いた親から大金を騙し取る 「オレオレ詐欺」 が社会問題になり、白装束で各地を移動する集団がワイドショーを賑わせていた。格差社会の元凶といわれる 「改正労働者派遣法」 も成立した。そんな時代の空気が、登場人物の造形に反映されている。

一人ひとりが事件やブルーについて語りながら、自らの内面にあるブルー (=憂鬱) に向き合う。青にも紺から水色までさまざまな色があるように、その人物だけのブルーを描きだすところが本書の大きな魅力だ。(解説より)

青梅市で起きた一家殺人事件は、被疑者死亡により、一応の解決をみています。それから15年の時を経て発生した多摩ニュータウン男女二人殺害事件を捜査するうち、まるで違う事件に思えた二つが、ある事実をきっかけに、実は繋がっているのではないかという疑問が浮上してきます。

では、そこにこの物語の主人公・ブルーは如何に関わっているのでしょう? もしも。もしも彼が二つの殺人事件の実行犯だとしたら、動機は? それぞれの被害者との関係は? 何人もの人間を殺害するに至ったブルーにとっての、抜き差しならぬ 「Blue」 とは、いったい何だったのでしょう。

※巻末に掲載してある主要参考文献の一冊に、『誰もボクを見ていない なぜ17歳の少年は、祖父母を殺害したのか』 山寺香 (ポプラ社) があります。この本は、母親からの執拗な脅迫により、実の祖父母を殺害。金品を奪ったとして逮捕された当時17歳の少年について、彼が犯した罪の実相に迫り、その背景にある闇を暴いた渾身のノンフィクションです。ぜひ併せて読んでみてください。二つに共通するテーマは、「毒親」 です。

この本を読んでみてください係数 85/100

◆葉真中 顕
1976年東京都生まれ。
東京学芸大学教育学部中退。

作品 「絶叫」「ロスト・ケア」「ブラック・ドッグ」「コクーン」「政治的に正しい警察小説」「凍てつく太陽」「灼熱」他

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