『カエルの小指/a murder of crows』(道尾秀介)_書評という名の読書感想文

『カエルの小指/a murder of crows』道尾 秀介 講談社文庫 2022年2月15日第1刷

道尾秀介がもう一度会いたかったカラスの親指 のあいつらが帰ってきた!
最高のラスト!! 絶対に騙される 大逆転劇!

「久々に、派手なペテン仕掛けるぞ」 詐欺師から足を洗い、実演販売士として生きる道を選んだ武沢竹夫に、訳ありの中学生・キョウからとんでもない依頼が。母親が残酷な詐欺被害にあったのを境に、厳しい現実を生きることになったキョウ。武沢は彼女を救うため、かつての仲間を再集結、大仕掛けを計画する。(講談社文庫)

はじめに - この小説のもととなった作品 『カラスの親指』 はと言いますと、

ベテラン詐欺師のタケこと武沢竹夫は、あることをきっかけにテツという男と出会います。そして二人はコンビを組んで様々な仕事 (詐欺) を重ねていくのですが、ある日二人のもとにまひろという少女が現れ、その姉のやひろ、その恋人の貫太郎の三人がタケとテツが住んでいる家に転がりこみ、それから五人の奇妙な共同生活が始まります。しかし、五人はそれぞれ心に闇を抱えており、それらを払拭するべく、人生逆転のための大規模な詐欺を企てる - というお話です。ちなみに、この本に付いた惹句が、

他人同士なのに、
詐欺師なのに、
なんで泣けるんだろう。

です。

以上を踏まえ、本作品を紹介すると、

物語は 『カラスの親指』 から十年以上経った世界のお話で、前作ではまだまだ幼かったまひろもすっかり大人になっています。前作の後、二度と詐欺には手を染めないと誓ったタケですが、ある日、キョウという中学生と出会い、事態は一転します。

キョウ曰く、キョウの母親は詐欺に遭って人生に絶望し、テラスの柵を乗り越えて建物の三階から身を投げてしまったらしいのです。父親も生まれた頃からいませんでした。そんなキョウに 「あるお願いごと」 をされたタケは怒りに震え、人生でもう一度だけ、かつての仲間と共に詐欺を働くことを決意するのです。(解説より)

となります。

最後に。(PALM/A murder of crowsより) この物語を象徴するような、とても印象深いセンテンスを紹介しておきたいと思います。

手のひらにのせた石を、叶と二人で見下ろす。
最初にこの石を拾ったとき、武沢はヤドクガエルを思い出した。水たまりに放たれたオタマジャクシたちが共食いをはじめ、そこへカエルを一匹入れてやると、みんな我先にその背中へ逃げようとする。どんな種類のカエルを入れても、オタマジャクシは同じように、必死でそこへ乗っかろうと頑張る。赤の他人である自分の背中でも、少しは役に立ったのだろうかと、あのとき武沢は溜息まじりに考えた。(以下略)

あのときとは? 武沢は誰のために何を為したのか? 紆余曲折ではありますが、本作にはそれが書いてあります。

この本を読んでみてください係数 80/100

◆道尾 秀介
1975年兵庫県芦屋市生まれ。
玉川大学農学部卒業。

作品 「手首から先」「背の眼」「向日葵の咲かない夏」「月と蟹」「カラスの親指」「龍神の雨」「光媒の花」他多数

関連記事

『砕かれた鍵』(逢坂剛)_書評という名の読書感想文

『砕かれた鍵』逢坂 剛 集英社 1992年6月25日第一刷 『百舌の叫ぶ夜』『幻の翼』に続くシリ

記事を読む

『劇場』(又吉直樹)_書評という名の読書感想文

『劇場』又吉 直樹 新潮文庫 2019年9月1日発行 高校卒業後、大阪から上京し劇

記事を読む

『風の歌を聴け』(村上春樹)_書評という名の読書感想文(書評その1)

『風の歌を聴け』(書評その1)村上 春樹 講談社 1979年7月25日第一刷 もう何度読み返した

記事を読む

『星々の悲しみ』(宮本輝)_書評という名の読書感想文

『星々の悲しみ』宮本 輝 文春文庫 2008年8月10日新装版第一刷 喫茶店に掛けてあった絵を盗み

記事を読む

『殺人者』(望月諒子)_書評という名の読書感想文

『殺人者』望月 諒子 新潮文庫 2022年11月1日発行 連続する猟奇殺人、殺害さ

記事を読む

『陰日向に咲く』(劇団ひとり)_書評という名の読書感想文

『陰日向に咲く』劇団ひとり 幻冬舎文庫 2008年8月10日初版発行 この本が出版されたのは、も

記事を読む

『本を読んだら散歩に行こう』(村井理子)_書評という名の読書感想文

『本を読んだら散歩に行こう』村井 理子 集英社 2022年12月11日第3刷発行

記事を読む

『くらやみガールズトーク』(朱野帰子)_書評という名の読書感想文

『くらやみガールズトーク』朱野 帰子 角川文庫 2022年2月25日初版 「わたし

記事を読む

『寡黙な死骸 みだらな弔い』(小川洋子)_書評という名の読書感想文

『寡黙な死骸 みだらな弔い』小川 洋子 中公文庫 2003年3月25日初版 息子を亡くした女が洋菓

記事を読む

『グ、ア、ム』(本谷有希子)_書評という名の読書感想文

『グ、ア、ム』本谷 有希子 新潮文庫 2011年7月1日発行 北陸育ちの姉妹。長女は大学を出た

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『ついでにジェントルメン』(柚木麻子)_書評という名の読書感想文

『ついでにジェントルメン』柚木 麻子 文春文庫 2025年1月10日

『逃亡』(吉村昭)_書評という名の読書感想文

『逃亡』吉村 昭 文春文庫 2023年12月15日 新装版第3刷

『対馬の海に沈む』 (窪田新之助)_書評という名の読書感想文

『対馬の海に沈む』 窪田 新之助 集英社 2024年12月10日 第

『うたかたモザイク』(一穂ミチ)_書評という名の読書感想文

『うたかたモザイク』一穂 ミチ 講談社文庫 2024年11月15日

『友が、消えた』(金城一紀)_書評という名の読書感想文

『友が、消えた』金城 一紀 角川書店 2024年12月16日 初版発

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑