『カエルの小指/a murder of crows』(道尾秀介)_書評という名の読書感想文
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最終更新日:2024/01/06
『カエルの小指/a murder of crows』(道尾秀介), 作家別(ま行), 書評(か行), 道尾秀介
『カエルの小指/a murder of crows』道尾 秀介 講談社文庫 2022年2月15日第1刷

道尾秀介がもう一度会いたかった 『カラスの親指』 のあいつらが帰ってきた!
最高のラスト!! 絶対に騙される 大逆転劇!「久々に、派手なペテン仕掛けるぞ」 詐欺師から足を洗い、実演販売士として生きる道を選んだ武沢竹夫に、訳ありの中学生・キョウからとんでもない依頼が。母親が残酷な詐欺被害にあったのを境に、厳しい現実を生きることになったキョウ。武沢は彼女を救うため、かつての仲間を再集結、大仕掛けを計画する。(講談社文庫)
はじめに - この小説のもととなった作品 『カラスの親指』 はと言いますと、
ベテラン詐欺師のタケこと武沢竹夫は、あることをきっかけにテツという男と出会います。そして二人はコンビを組んで様々な仕事 (詐欺) を重ねていくのですが、ある日二人のもとにまひろという少女が現れ、その姉のやひろ、その恋人の貫太郎の三人がタケとテツが住んでいる家に転がりこみ、それから五人の奇妙な共同生活が始まります。しかし、五人はそれぞれ心に闇を抱えており、それらを払拭するべく、人生逆転のための大規模な詐欺を企てる - というお話です。ちなみに、この本に付いた惹句が、
他人同士なのに、
詐欺師なのに、
なんで泣けるんだろう。
です。
以上を踏まえ、本作品を紹介すると、
物語は 『カラスの親指』 から十年以上経った世界のお話で、前作ではまだまだ幼かったまひろもすっかり大人になっています。前作の後、二度と詐欺には手を染めないと誓ったタケですが、ある日、キョウという中学生と出会い、事態は一転します。
キョウ曰く、キョウの母親は詐欺に遭って人生に絶望し、テラスの柵を乗り越えて建物の三階から身を投げてしまったらしいのです。父親も生まれた頃からいませんでした。そんなキョウに 「あるお願いごと」 をされたタケは怒りに震え、人生でもう一度だけ、かつての仲間と共に詐欺を働くことを決意するのです。(解説より)
となります。
最後に。(PALM/A murder of crowsより) この物語を象徴するような、とても印象深いセンテンスを紹介しておきたいと思います。
手のひらにのせた石を、叶と二人で見下ろす。
最初にこの石を拾ったとき、武沢はヤドクガエルを思い出した。水たまりに放たれたオタマジャクシたちが共食いをはじめ、そこへカエルを一匹入れてやると、みんな我先にその背中へ逃げようとする。どんな種類のカエルを入れても、オタマジャクシは同じように、必死でそこへ乗っかろうと頑張る。赤の他人である自分の背中でも、少しは役に立ったのだろうかと、あのとき武沢は溜息まじりに考えた。(以下略)
あのときとは? 武沢は誰のために何を為したのか? 紆余曲折ではありますが、本作にはそれが書いてあります。
この本を読んでみてください係数 80/100

◆道尾 秀介
1975年兵庫県芦屋市生まれ。
玉川大学農学部卒業。
作品 「手首から先」「背の眼」「向日葵の咲かない夏」「月と蟹」「カラスの親指」「龍神の雨」「光媒の花」他多数
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