『私以外みんな不潔』(能町みね子)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2024/01/06 『私以外みんな不潔』(能町みね子), 作家別(な行), 書評(わ行), 能町みね子

『私以外みんな不潔』能町 みね子 幻冬舎文庫 2022年2月10日初版

他の子供に、私のなかに入ってこられるのはごめんである。
か弱くも気高い五歳児を描いた、著者初の私小説。

北海道から茨城に引っ越した五歳の 「私」。好きなことはペンちゃんの漫画を描くことと、家で遊ぶこと。新しい幼稚園は、うるさくて、トイレに汚い水があって、男の子が肩を押してきて、どこにいても身の危険を感じる場所だった。ある日、おゆうぎの部屋が誰も来ない安全な場所だと知り - 。卒園までの半年間を幼児の目線で描く、著者初めての私小説。解説・ジェーン・スー(幻冬舎文庫)

わずか五歳のときの出来事や、その時々に感じた心の在り様を、詳細かつ適確に、(そしてここが最も評価すべき点であろうと思うのですが) あくまで幼い子供目線で、ありのままを晒してみせているのに、いたく感心します。

思い返せば、私の幼稚園時代というのは悲惨そのものでした。一年の内、行ったのはおそらく三分の一ぐらいだったと思います。朝、家を出る時間が近づくと、決まって行きたくないと駄々を捏ねました。両親は辟易し、さぞかし嘆いたことだろうと思います。

同じクラスに誰と誰がいたのか、誰と何をしていたのか - 昼食後にした “昼寝” 以外、何一つはっきりと覚えていません。

その、昼寝が嫌でした。寝ろと言われて、すぐに寝られるわけがありません。まんじりともせず時間をやり過ごし、昼寝が終わると次は決まって、先生は 「外で遊んできなさい」 と言います。

日々のパターンがそうで、その都度私は、(おそらくは子供らしからぬ) 違和感を抱いていました。食べて、寝て、遊ぶ - だけなら、何も (幼稚園になど) 来なくていいのではないか。意味がないし、理由がわからない、と。

もりなつきは、五感をフルに稼働させ、自分の外の世界を受信します。視覚や聴覚は好意的な描写に使用されることもありますが、触覚、味覚、嗅覚といった体内への侵入度合いが高い感覚に関しては、主にネガティブな表現に用いられます。

知らぬうちに穿かされていたおむつ然り、幼稚園の汁っぽい給食然り、幼稚園の不潔なトイレの視覚情報が、すぐさま口内に溜まる唾液に交換されるさま然り。皮膚感覚を通して途切れることなく綴られる生々しい嫌悪感こそが、能町さんが海の底深く潜ってきた証しだと思います。

もりなつきの、自分だけが俯瞰の目を持っていると信じてしまうような幼稚さは、未熟という意味で子どもじみている。おもらしをしてもおかしくない年齢の子どもなのだから未熟で当然ですが、彼は子どもらしからぬ観察力や集中力、創作表現力を備えていることも確かなので、早熟でもあります。

早熟であるがゆえに、未熟さが際立つ。際立った己の未熟さを、大人顔負けの観察力で認知する。もりなつきは過度にアンバランスで、自身のそれを許せるほど大人ではない。周囲を見下しながら、ペンちゃんのようにはコントロールできない他者を恐れてもいます。

能町さんはそこを十分に理解した上で、小さな、しかし彼にとってのすべてである世界を注意深く観察するもりなつきを、同じように観察し描いているように感じます。(解説より)

北海道から茨城に引っ越しし、新しく入り直した幼稚園は、もりなつきに少なからぬ違和感を抱かせます。それでも、彼は幼稚園へ行くことをやめません。行くだけ行って、自分なりの方法でやり過ごす、強い子どもでした。

それに引き換え、私は、早く小学生になればいいと思っていました。小学校には昼寝や遊戯の時間といったものはなく、時間割に従って粛々と授業が繰り返され、僅かばかりの休み時間だけがあります。好き勝手は許されず、規則通りに毎日を過ごすことになります。

そんな日々が待ち遠しく、そんな日々なら嫌がらず、休まず通ってみせる - 不思議と私にはそんな確信があり、そしてそれは、その通りになりました。

この本を読んでみてください係数 80/100

◆能町 みね子
1979年北海道生まれ、茨城県育ち。
東京大学教養学部広域科学科人文地理分科卒業。

作品 「お家賃ですけど」「逃北 つかれたときは北へ逃げます」「結婚の奴」「雑誌の人格 3冊目」「そのへんをどのように受け止めてらっしゃるか」等

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