『廃墟の白墨』(遠田潤子)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2024/01/06 『廃墟の白墨』(遠田潤子), 作家別(た行), 書評(は行), 遠田潤子

『廃墟の白墨』遠田 潤子 光文社文庫 2022年3月20日初版

今夜王国に男たちが集められる  ここは牢獄か、それとも楽園か?

和久井ミモザは、死の床にある父親に届いた薔薇の絵の写真と不可解な手紙に導かれ、大阪に赴く。指定された廃墟のようなビルにいたのは正体不明の三人の男。ここを 「王国」 と呼ぶ男たちは、父の過去を話し始める。かつて 「王国」 で起きた忌まわしい事件が語られるうち、ミモザ自身の真実もまた明らかになり - 。愛と罪、贖罪が重なり合う、哀切と衝撃の傑作長編。(光文社文庫)

序章で綴られるのは、母親と子どものいる風景。母親は子どもをミモザと呼んでいる。彼女の宝物は、ロルカ詩集とチョーク入れとカスタネット。あともうひとつ大切にしているのは、彼女の母親が初恋の人からもらったという古い船員手帳。遠くへ行きたい と繰り返し語り、ロルカの詩を口ずさみ、カスタネットを鳴らす母。胸が痛くなるほど美しいイメージだが、いったいどんな物語なのかはまだわからない。

本書では、白墨自身が関係しているらしい事件や、ミモザの持つ母親の記憶についての疑問など、複数の謎が複雑に絡み合っている。少しずつ解決に向かっているかにみえても、そこからまた二転三転し、最後まで物語がどこへ向かうのかわからない。彼らが共有していた密度の濃い時間が、実は真夜中から朝までのたった一晩のできごとだったことには驚くばかりだ。

大人たちも哀しい。けれどもそれ以上につらい思いをさせられるのが子どもたちだ。彼らは大人たちに虐げられている。相手の顔色をうかがい、親たちの諍いに胸を痛め、人々の心ない言葉に傷つけられる。”真実を明かさず子どもに不自由を強いる大人” と、”大人が教えないせいで何も知らない子ども” は対のような存在といっていい。白墨しかり、ミモザしかり。(解説より抜粋)

※はじめ、これは一体どこの国の話だろうと。ミモザ、白墨、明石などという (主たる登場人物たちの) 名前からしてうまく馴染めないかもしれません。そして思うはずです。何が伝えたいのだろうと。著者には著者の目論見があるのでしょうが、それより前に、何よりこの手の話はリアルかどうかが問題です。

この本を読んでみてください係数  80/100

◆遠田 潤子
1966年大阪府生まれ。
関西大学文学部独逸文学科卒業。

作品 「月桃夜」「カラヴィンカ」「アンチェルの蝶」「お葬式」「あの日のあなた」「雪の鉄樹」「蓮の数式」「オブリヴィオン」「冬雷」他

関連記事

『初恋』(大倉崇裕)_世界29の映画祭が熱狂! 渾身の小説化

『初恋』大倉 崇裕 徳間文庫 2020年2月15日初刷 あの三池崇史監督が 「さら

記事を読む

『宰相A』(田中慎弥)_書評という名の読書感想文

『宰相A』田中 慎弥 新潮文庫 2017年12月1日発行 揃いの国民服に身を包む金髪碧眼の「日本人

記事を読む

『骨を彩る』(彩瀬まる)_書評という名の読書感想文

『骨を彩る』彩瀬 まる 幻冬舎文庫 2017年2月10日初版 十年前に妻を失うも、最近心揺れる女性

記事を読む

『ボダ子』(赤松利市)_書評という名の読書感想文

『ボダ子』赤松 利市 新潮社 2019年4月20日発行 あらゆる共感を拒絶する、極

記事を読む

『レディ・ジョーカー』(高村薫)_書評という名の読書感想文

『レディ・ジョーカー』(上・下)高村 薫 毎日新聞社 1997年12月5日発行 言わずと知れた、

記事を読む

『ペインレス あなたの愛を殺して 下』(天童荒太)_書評という名の読書感想文

『ペインレス あなたの愛を殺して 下』天童 荒太 新潮文庫 2021年3月1日発行

記事を読む

『偏愛読書館/つかみどころのない話』(林雄司)_書評という名の読書感想文

『偏愛読書館/つかみどころのない話』林 雄司 本の話WEB 2016年5月12日配信 http:/

記事を読む

『ホテル・ピーベリー 〈新装版〉』(近藤史恵)_書評という名の読書感想文

『ホテル・ピーベリー 〈新装版〉』近藤 史恵 双葉文庫 2022年5月15日第1刷

記事を読む

『パッキパキ北京』(綿矢りさ)_書評という名の読書感想文

『パッキパキ北京』綿矢 りさ 集英社 2023年12月10日 第1刷 味わい尽くしてやる、こ

記事を読む

『4TEEN/フォーティーン』(石田衣良)_書評という名の読書感想文

『4TEEN/フォーティーン』石田 衣良 新潮文庫 2005年12月1日発行 東京湾に浮かぶ月島。

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『今日のハチミツ、あしたの私』(寺地はるな)_書評という名の読書感想文

『今日のハチミツ、あしたの私』寺地 はるな ハルキ文庫 2024年7

『アイドルだった君へ』(小林早代子)_書評という名の読書感想文

『アイドルだった君へ』小林 早代子 新潮文庫 2025年3月1日 発

『現代生活独習ノート』(津村記久子)_書評という名の読書感想文

『現代生活独習ノート』津村 記久子 講談社文庫 2025年5月15日

『受け手のいない祈り』(朝比奈秋)_書評という名の読書感想文

『受け手のいない祈り』朝比奈 秋 新潮社 2025年3月25日 発行

『蛇行する月 』(桜木紫乃)_書評という名の読書感想文

『蛇行する月 』桜木 紫乃 双葉文庫 2025年1月27日 第7刷発

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑