『夜はおしまい』(島本理生)_書評という名の読書感想文

『夜はおしまい』島本 理生 講談社文庫 2022年3月15日第1刷

誰か、私を遠くに連れて行って。- 神父の金井のもとを訪れた四人の女性には、秘密があった。

数合わせで出たミスコンの順位は、八人中八位だった。無遠慮に自分の価値を決められた日、琴子は北川に声をかけられる。たいして大事にしてくれない北川でも、誘われると断れないのは、誰かに求められていると安心するからか - 。琴子は神父の金井に、信仰の意味を問う。女性の 「生」 と 「性」 を描いた新たな傑作。(講談社文庫)

これは著者にとって最後の純文学小説です。中々に難しい。
女性の 「生」 と 「性」 を描くのに、金井という名の 「神父」 が登場し、「神」 の存在が問われることになります。

四編に出てくる女性たちは、金井神父との接触によって、キリスト教を身近で感じ、信じることや赦されることを常に逡巡しながら生活している。しかし彼女たちは宗教を信仰しているのかというと、そのコミュニティに深く属することもしない。信仰を軽んじている節もあり、神に向けられた視線は常にどこか懐疑的だ。

彼女たちは傷つくことによって、何を信じるのかを選んでいるのかもしれないのだと、読み進めながら感じたのだった。積極的に不正解らしきものに手を伸ばし、自傷にも近い言動を繰り返す。そのことによって、この身に起こる様々な不条理をあぶり出しているようにも。(解説より)

四人が四人共に、なぜ 「神」 なのか? なぜ金井神父なのかはわかりません。わからないのですが、彼女たちは、図ったように (ある意味非常によいタイミングで) 金井神父と会い、「神」 についてを語り合います。(解説にあるように) それはいささか懐疑的なものではありますが。

四話ある中の第一話を紹介します。

「夜のまっただなか」 で琴子は、大学のミスキャンパスに出て、属する世界において自身の価値の低さを残酷にも突きつけられる。その動揺と失意は相当たるものだろう。ミスキャンパスに出場するアクション自体、傷つくことに手を伸ばしているようにも感じられるのだが、微かな自信すらもくじけた際、とっさに心の穴を埋めてくれる何かを即座に拵えるのは難しい。

そんな時に舞い降りるのは、本来、神 - イエス・キリストであるはずだった。しかし彼女を一時的に救ったのは、どこか胡散臭さの拭いきれない北川であって、まんまと彼の言葉と体の中でころがされる。北川に慰めてもらうことに琴子はすがり、心を傾けていく。その様子からは、どこか自傷行為にも近い憐憫を感じ取って息を呑む。どうしてそっちにいってしまうの、と。

女性がどれだけ主体的に動いているように見えても、受け皿として機能し、搾取されていると世間に鋭敏に感知され、断言されがちな風潮があることは現代社会においても否めない。主体性と搾取とを切り離して語られることは少なく、被害者の立場を課せられることも多い。だからこそ、たとえ自分の目に映る世界であっても、自分の身を粗末にすることと純愛を貫くことの境目は、曖昧になりがちなのだ。

しかしそこで、自分を粗末にすることと、自分の体を好きにさせることは違うのだと、新たな言葉で二択を提案されたらどうだろう。琴子の行いは、罪深いものといえるのだろうか? (解説の続き)

人は時々、間違っているのは百も承知で、それでもそのまま突き進んでしまいたくなるような、理屈では上手く説明できない情動に逆らえなくなるような、そんなことがありはしないでしょうか。琴子のことを言っているわけではありません。彼女は存外、冷静ではないかと。

この本を読んでみてください係数 85/100

◆島本 理生
1983年東京都板橋区生まれ。
立教大学文学部中退。

作品 「シルエット」「リトル・バイ・リトル」「生まれる森」「一千一秒の日々」「大きな熊が来る前に、おやすみ。」「ファーストラブ」「夏の裁断」他多数

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