『カインの傲慢/刑事犬養隼人』(中山七里)_書評という名の読書感想文

『カインの傲慢/刑事犬養隼人』中山 七里 角川文庫 2022年6月25日初版

命に値段はつけられるのか。社会派×どんでん返しの警察医療ミステリ

臓器を抜き取られ傷口を雑に縫合された死体が、都内で相次いで発見された。司法解剖と捜査の結果、被害者はみな貧しい環境で育った少年で、最初に見つかった1人は中国からやってきたばかりだと判明する。彼らの身にいったい何が起こったのか。臓器売買、貧困家庭、非行少年・・・・・・・。いくつもの社会問題が複雑に絡み合う事件に、孤高の敏腕刑事・犬養隼人と相棒の高千穂明日香が挑む、人気警察医療ミステリシリーズ第5弾! (角川文庫)

【カイン】
カイン (Cain) は、アブラハムの宗教における聖書の創世記に登場する人物。彼はアベルの兄であり、聖書の物語における最初の夫婦であるアダムとイブの息子。彼は人類最初の殺人者である。(wikipedia)

【カインの、また別の逸話】
人類最初の嘘を吐き人類最初の殺人を犯したカインは、しかし神から不死を約束される。安住の地から放逐される一方で、どんな悪魔に唆されようと何度でも転生し、神に受け入れられる道を保証される。不老は神からの呪いという考え方もあるが、祝福という見方もできる。人類で最大の罪とされる同族殺しの犯人は、人類最初の長寿者でもあった。

「先刻から聞いていれば、あなたは貧乏人の臓器提供にえらく同情的だが、いやしくも人間の身体いわんや生命はカネで売買できるものではないと信じているのかね。もしそうなら、見識不足と言うより他にない」
「命は売買できないと考えていることが見識不足ですか」
「昨今は経済的格差が教育の格差を生むようになってきたらしいが、同様に貧富の差は生命の価値すらもランクづけするのですよ。貧乏人は短命になり、金持ちは長命になる。金持ちは資産を生む者でもあるから金銭的な存在価値がある。対して、貧乏人が提供できるのは安価な労働力しかない。もっと貧しい者は己の肉体を差し出すしかない。富裕層と呼ばれる者たちはその供給に応えて彼らの肉体および健康を買う。何のことはない、需給バランスの問題だけなのですよ」(本文より)

あなたから見ればわたしは大層不道徳な人間でしょう。しかし不道徳な者が長寿を得るのは珍しい話ではない。諺にもあるように憎まれる者は世に憚るものだ。従って、わたしには長寿を全うする資格がある。口幅ったいことを言わせてもらえば、わたしはカインの末裔になりたいのですよ

まるでカインの業績を称えるように、そう言ったのでした。何という傲慢。人を人とも思わない差別主義者の傲慢に、

唾棄すべき独りよがりだとわかっていても、犬養には返す言葉がありません。返したくても返せない、彼には理由があります。かくして覚悟のうえの面会は、あえなく完敗に終わります。

※元凶は 「貧困」 です。それもハンパない。事は日本国内に止まらず、隣国にまで及びます。臓器売買に絡む、人の命の問題です。

この本を読んでみてください係数 85/100

◆中山 七里
1961年岐阜県生まれ。
花園大学文学部国文科卒業。

作品 「切り裂きジャックの告白」「七色の毒」「さよならドビュッシー」「闘う君の唄を」「嗤う淑女」「魔女は甦る」「連続殺人鬼カエル男」「護られなかった者たちへ」他多数

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