『死刑について』(平野啓一郎)_書評という名の読書感想文
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最終更新日:2024/01/06
『死刑について』(平野啓一郎), 作家別(は行), 平野啓一郎, 書評(さ行)
『死刑について』平野 啓一郎 岩波書店 2022年6月16日第1刷発行
死刑を存置することで、社会は何を失うのか。現代社会の問題群に果敢に挑み続ける小説家が根源から問う
死刑廃止の国際的な趨勢に反し、死刑を存置し続ける日本。支持する声も依然、根強い。しかし、私たちは本当に被害者の複雑な悲しみに向き合っているだろうか。また、加害者への憎悪ばかりが煽られる社会は何かを失っていないだろうか。「生」 と 「死」 をめぐり真摯に創作を続けてきた小説家が自身の体験を交え根源から問う。(岩波書店)
【目次】
・死刑は必要だという心情
・「なぜ人を殺してはいけないのか」 の問いに向き合って
・多面的で複雑な被害者の心に寄り添うとは - 「ゆるし」 と 「憎しみ」 と
・なぜ死刑が支持され続けるのか
・「憎しみ」 の共同体から 「優しさ」 の共同体へ - 死刑の廃止に向けて
付録 死刑に関する世界的な趨勢と日本
(1) 死刑廃止国と存置国
(2) 2020年に死刑を執行した国と件数
(3) 日本の死刑執行者数と確定者総数の推移
(4) 死刑をめぐる日本の世論
※本書は2019年12月6日に開催された、大阪弁護士会主催の講演会 「芥川賞作家 平野啓一郎さんが語る死刑廃止」 の記録をもとに、2021年10月12日に開催された日本弁護士会連合会主催のシンポジウム 「死刑廃止の実現を考える日2021」 での発言等を加えて再構成し、大幅に加筆・修正したものです。
この本は京都新聞の朝刊に載った広告で知り、すぐに隣町にあるジュンク堂まで買いに行き、その日のうちに読みました。
「死刑」 について何か特別な思いがあるのか、あるいは、ごく近しい人の中に 「死刑囚」 がいるのか、と問われたら、そんな思いはありませんし、そんな人はいません。しかし、興味がありました。書いているのが平野啓一郎さんで、彼の主張が死刑の 「廃止」 だったからです。
本日7月20日の京都新聞朝刊に、「死刑廃止論 到達を語る」 と題し、この本についての紹介が大々的に載りました。その前文がこうです。
作家の平野啓一郎さんが講演会の記録をもとにした評論 「死刑について」 を刊行した。犯罪被害者の苦悩に迫った小説 「決壊」 を書く過程で、死刑の問題を突き詰めて考え、廃止論に至ったという。小説の執筆を通して生まれた思索の軌跡を平野さんに聞いた。
よく想像し、よくよく考えなくてはなりません。もしも。もしも、あなたの愛する人やごく親しい人が、まるで知らないアカの他人に、理由にもならない理由で、ある日突然殺された - ルールを無視した粗暴な運転の被害者となり死亡した場合も同様です - としたらどうでしょう?
遺された人の激しい怒りや憤りは、何を以て償えば報われるのでしょう。意味なく命を落とした被害者と同等に加害者も 「死んで償えば」、それですべてが解決するのでしょうか。
わかりません。それが、「そうではない」 と書いてあります。
この本を読んでみてください係数 80/100
◆平野 啓一郎
1975年愛知県生まれ。
京都大学法学部卒業。
作品 「日蝕」「葬送」「滴り落ちる時計たちの波紋」「決裂」「ドーン」「空白を満たしなさい」「透明な迷宮」「ある男」「マチネの終わりに」他
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