『わたしの良い子』(寺地はるな)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2024/01/06 『わたしの良い子』(寺地はるな), 作家別(た行), 寺地はるな, 書評(わ行)

『わたしの良い子』寺地 はるな 中公文庫 2022年9月25日初版発行

誰かのこと、嫌いって言ってもいいよ。家ではね」 注目作家 寺地はるなが描く 良い子 の定義とは。

三十一歳独身、文具メーカーの経理部に勤める椿は、出奔した妹の子ども・朔と暮らすことに。慣れない子育てなうえ、勉強も運動も苦手で内にこもりがちな朔との毎日は、時に椿を追いつめる。自分が正しいかわからない、自分の意思を押しつけたくもない。そんな中、どこかで朔を 「他の子」 と比べていることに気づいた椿は・・・・・・・。(中公文庫)

今がまさに子育て真っ最中という人は言うに及ばず、世の老若男女、すべての人に読んでほしいと思います。

「置き去りにされた妹の息子の面倒を、ある日突然看ることになった姉の日々」 を教材に、

「何かについて、誰かと、いつもあなたは比べていませんか? 」 他人を気にするあまり、「自分の気持ちに嘘をつき、何気に人を傷つけてはいませんか? 」- というようなことが書いてあります。

どうして。どうして。
どうしてちゃんとできないの?
他の子みたいに。

鈴菜は母親でしょ
お姉ちゃんのほうがよっぽど 母親に向いているのかもね
そうね

この物語の核心は、そして読み手の気持ちを揺さぶる震源地は、人間の抱える矛盾 を丁寧に描き出しているところにあると私は思う。もう少し踏み込んで言うならば、己に矛盾せずには生きていけない人間の悲しみや苦しみの話だ。

それはきっと、ほんとはみんなそうなんだ。他でもない自分自身が大事にしている価値観や、正しいと思っている答え から、みんなどこかではみ出しながら生きている。

けれど、そのことを突きつけられる瞬間はやっぱりとても苦しい。認めることが怖くもある。自分で自分の首を締めているような、自分の存在を自分で消し去ろうとしているような、そんな感覚と向き合わないといけないからだ。自分をぶん殴りたい経験は、きっとあなたにもあるだろう。もちろん私にも数え切れないほどあったし、未だにその矛盾から解放されたとも思わない。(解説より/村中直人)

※「普通」 とは何でしょう。「常識」 とは?

それはあなたにとって 「普通」 で、「私が思う普通」 ではありません。あなたにとっての 「普通」 は、もしかしたら、実体のない、今在る社会の規範に縛られた、仕方なく受け入れているものではないですか? まさか、それを誰かに押しつけてはいませんか。

この本を読んでみてください係数 85/100

◆寺地 はるな
1977年佐賀県唐津市生まれ。大阪府在住。
高校卒業後、就職、結婚。35歳から小説を書き始める。

作品 「ビオレタ」「ミナトホテルの裏庭には」「夜が暗いとはかぎらない」「大人は泣かないと思っていた」「水を縫う」「正しい愛と理想の息子」他

関連記事

『孤独論/逃げよ、生きよ』(田中慎弥)_書評という名の読書感想文

『孤独論/逃げよ、生きよ』田中 慎弥 徳間書店 2017年2月28日初版 作家デビューまで貫き通し

記事を読む

『つまらない住宅地のすべての家』(津村記久子)_書評という名の読書感想文

『つまらない住宅地のすべての家』津村 記久子 双葉文庫 2024年4月13日 第1刷発行 朝

記事を読む

『オブリヴィオン』(遠田潤子)_書評という名の読書感想文

『オブリヴィオン』遠田 潤子 光文社文庫 2020年3月20日初版 苦痛の果てに、

記事を読む

『完全犯罪の恋』(田中慎弥)_書評という名の読書感想文

『完全犯罪の恋』田中 慎弥 講談社 2020年10月26日第1刷 「人は恋すると、

記事を読む

『神童』(谷崎潤一郎)_書評という名の読書感想文

『神童』谷崎 潤一郎 角川文庫 2024年3月25日 初版発行 あなたの時間を少しだけ、小説

記事を読む

『悪いものが、来ませんように』(芦沢央)_書評という名の読書感想文

『悪いものが、来ませんように』芦沢 央 角川文庫 2016年8月25日発行 大志の平らな胸に、紗

記事を読む

『盲目的な恋と友情』(辻村深月)_書評という名の読書感想文

『盲目的な恋と友情』辻村 深月 新潮文庫 2022年12月5日9刷 これがウワサの

記事を読む

『愛と人生』(滝口悠生)_書評という名の読書感想文

『愛と人生』滝口 悠生 講談社文庫 2018年12月14日第一刷 「男はつらいよ」

記事を読む

『大人は泣かないと思っていた』(寺地はるな)_書評という名の読書感想文

『大人は泣かないと思っていた』寺地 はるな 集英社文庫 2021年4月25日第1刷

記事を読む

『消された一家/北九州・連続監禁殺人事件』(豊田正義)_書評という名の読書感想文

『消された一家/北九州・連続監禁殺人事件』豊田 正義 新潮文庫 2023年4月15日 27刷

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『我らが少女A (上下)』 (高村薫)_書評という名の読書感想文

『我らが少女A (上下)』高村 薫 毎日文庫 2025年5月10日

『黒猫亭事件』(横溝正史)_書評という名の読書感想文

『黒猫亭事件』横溝 正史 角川文庫 2024年11月15日 3版発行

『一心同体だった』(山内マリコ)_書評という名の読書感想文

『一心同体だった』山内 マリコ 集英社文庫 2025年4月25日 第

『夜の道標』(芦沢央)_書評という名の読書感想文

『夜の道標』芦沢 央 中公文庫 2025年4月25日 初版発行

『フクロウ准教授の午睡 (シエスタ)』(伊与原新)_書評という名の読書感想文

『フクロウ准教授の午睡 (シエスタ)』伊与原 新 文春文庫 2025

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑