『展望塔のラプンツェル』(宇佐美まこと)_書評という名の読書感想文

『展望塔のラプンツェル』宇佐美 まこと 光文社文庫 2022年11月20日初版第1刷

貧困と暴力と不条理がはびこる街で子供たちは・・・・・・・

きっとラプンツェルが助けてくれる。だから生きることをあきらめない。驚愕のラストで話題沸騰の問題作がついに文庫化!

労働者相手の娯楽の街・多摩川市。この地の児童相談所に勤務する松本悠一は、市の 「こども家庭支援センター」 の前園志穂と連携して、問題のある家庭を訪問している。一方、フィリピン人の母親を持つ海は、崩壊した家庭から逃げ出してきた那希沙とともに、倉庫街で座り込んでいた幼児を拾い、面倒をみることにするが。荒んだ街の子どもたちに救いはあるのか? (光文社文庫)

この作品には 「三つのストーリー」 があります。はじめバラバラに思われた三つは、徐々に重なり、やがて結末らしき場面を迎えます。

但し、三つ全てが上手く行くわけではありません。世は変われど、相も変わらず貧困や暴力や不条理は存在し、非力を嘆き、己の運命に涙する人たちがいます。命を落とし、叶わぬ夢に翻弄される夫婦がいます。皆が皆、救われるわけではありません。

「こども家庭支援センター」 の前園志穂は、児童相談所の松本悠一とともに問題のある家庭への対応にあたっている。最近の彼女の気がかりは、親からの虐待が疑われ、五歳児なのに家の外を徘徊することが多いらしい石井壮太だ。

兄と彼の仲間から性的虐待を受けてきた那希沙は、フィリピン人の母を持つ海とともに、街をふらついていた幼児と出会う。自分たちもまだ大人になっていない那希沙と海は、話すことをしないその子を 「晴」 と名づけ、面倒をみるようになる。

不妊治療を続ける落合郁美は、夫の圭吾がそのことに自分のように熱心ではないことを感じとっていた。彼女は、自分たちの住むマンションの向かいの家で小さい子が虐待されていることに気づき、ベランダから見張るようになる。(解説より)

この三つの話が並行して進行し、それぞれが、それぞれに抜き差しならない場面を迎えます。それは絶望的なまでの、生まれてきた運命を呪わざるを得ないほどの、報われない、変えることの出来ない悲惨なものでした。

志穂はその状況を、あらんかぎりに憤慨します。ところが悠一はというと、これが案外冷静で、(志穂からすると) はじめやる気があるのかないのかよくわかりません。二人の間には、問題を解決しようとする姿勢や対処の方法に、時に微妙な差が生じています。

※気を抜かず読んでください。最後に、あっと驚くことになります。

この本を読んでみてください係数 85/100

◆宇佐美 まこと
1957年愛媛県松山市生まれ。
松山商科大学人文学部卒業。

作品 「るんびにの子供」「愚者の毒」「入らずの森」「熟れた月」「死はすぐそこの影の中」「角の生えた帽子」「ボニン浄土」他多数

関連記事

『つまらない住宅地のすべての家』(津村記久子)_書評という名の読書感想文

『つまらない住宅地のすべての家』津村 記久子 双葉文庫 2024年4月13日 第1刷発行 朝

記事を読む

『まずいスープ』(戌井昭人)_書評という名の読書感想文

『まずいスープ』戌井 昭人 新潮文庫 2012年3月1日発行 父が消えた。アメ横で買った魚で作

記事を読む

『報われない人間は永遠に報われない』(李龍徳)_書評という名の読書感想文

『報われない人間は永遠に報われない』李 龍徳 河出書房新社 2016年6月30日初版 この凶暴な世

記事を読む

『タイニーストーリーズ』(山田詠美)_書評という名の読書感想文

『タイニーストーリーズ』山田 詠美 文春文庫 2013年4月10日第一刷 当代随一の書き手がおくる

記事を読む

『楽園の真下』(荻原浩)_書評という名の読書感想文

『楽園の真下』荻原 浩 文春文庫 2022年4月10日第1刷 「日本でいちばん天国

記事を読む

『友が、消えた』(金城一紀)_書評という名の読書感想文

『友が、消えた』金城 一紀 角川書店 2024年12月16日 初版発行 「ザ・ゾンビーズ・シ

記事を読む

『爪と目』(藤野可織)_書評という名の読書感想文

『爪と目』藤野 可織 新潮文庫 2016年1月1日発行 はじめてあなたと関係を持った日、帰り際

記事を読む

『つけびの村』(高橋ユキ)_最近話題の一冊NO.1

『つけびの村』高橋 ユキ 晶文社 2019年10月30日4刷 つけびして 煙り喜ぶ

記事を読む

『生きる』(乙川優三郎)_書評という名の読書感想文

『生きる』乙川 優三郎 文春文庫 2005年1月10日第一刷 亡き藩主への忠誠を示す「追腹」を禁じ

記事を読む

『暗いところで待ち合わせ』(乙一)_書評という名の読書感想文

『暗いところで待ち合わせ』 乙一 幻冬舎文庫 2002年4月25日初版 視力をなくし、独り静か

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『小説 木の上の軍隊 』(平一紘)_書評という名の読書感想文

『小説 木の上の軍隊 』著 平 一紘 (脚本・監督) 原作 「木の上

『能面検事の死闘』(中山七里)_書評という名の読書感想文 

『能面検事の死闘』中山 七里 光文社文庫 2025年6月20日 初版

『編めば編むほどわたしはわたしになっていった』(三國万里子)_書評という名の読書感想文

『編めば編むほどわたしはわたしになっていった』三國 万里子 新潮文庫

『イエスの生涯』(遠藤周作)_書評という名の読書感想文

『イエスの生涯』遠藤 周作 新潮文庫 2022年4月20日 75刷

『なりすまし』(越尾圭)_書評という名の読書感想文

『なりすまし』越尾 圭 ハルキ文庫 2025年5月18日 第1刷発行

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑