『盲目的な恋と友情』(辻村深月)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2024/01/06 『盲目的な恋と友情』(辻村深月), 作家別(た行), 書評(ま行), 辻村深月

『盲目的な恋と友情』辻村 深月 新潮文庫 2022年12月5日9刷

これがウワサの最強どんでん返し! 辻村深月 ハンパない!

タカラジェンヌの母を持つ一瀬蘭花は自身の美貌に無自覚で、恋もまだ知らなかった。だが、大学のオーケストラに指揮者として迎えられた茂実星近が、彼女の人生を一変させる。茂実との恋愛に溺れる蘭花だったが、やがて彼の裏切りを知る。五年間の激しい恋の衝撃的な終焉。蘭花の友人・留利絵の目からその歳月を見つめたとき、また別の真実が - 。男女の、そして女友達の妄執を描き切る長編。(新潮文庫)

私にもみんなにも反対されてるのに茂実さんに執着してるのは、(中略) 蘭花ちゃん自身の欲のせいだよ。好きだからって言うけど、『好き』 って気持ちはそんな、何もかもより一番偉いの? それは蘭花ちゃん自身の快楽と欲だよ。それが周りを苦しめてるんだよ。わかるよね?

留利絵はそう言ったのでした。泥沼にはまっても恋人と別れようとしない蘭花に向かい、 (おそらくは何ほども心に響かないことを承知で) それでも留利絵は言わずにはいられなかったのでした。

本作を読んで私は、いつも以上に驚いた。「これぞ辻村深月」 と思う気持ちより、「これはいつもの辻村深月と違う」 という気持ちが上回った。

本作は、タイトル通りの作品である。
盲目的な恋と、盲目的な友情。このふたつの物語だ。
恋が盲目的というのはよく言われることだが、友情が盲目的になるとはどんな状態だろうか。

物語は、恋のパートと友情のパートに分かれている。
まず前半、ヒロイン・蘭花が自分の恋について語る。
物語の入り口は結婚式だ。蘭花は今まさに式を挙げようとしている。彼女は死んでしまったらしいかつての恋人のことを思い出し、彼の死がなかったら、この穏やかな愛情に満ちた時間はなかったと感慨に浸っている。式に参列している友人たちが 「別れてよかった」 と評するような相手が彼女の恋人だった。

その恋人とは蘭花が大学で所属していたオーケストラの指揮者・茂実星近だ。その名の通り彼は独特のムードを持った美青年である。蘭花はかつて宝塚女優であった母を持ち、やはり飛びぬけた美貌に恵まれている。そのふたりが恋に落ちる様子は、華やかで艶やかだ。それまで感情に乏しかった蘭花が、茂実の手によって初めて性愛の喜びと恋心の恍惚を知る。

(やがて二人は絶頂期ともいえる時期を迎えます。しかし残念ながらそれは、さして長くは続きません。ある中年女性の登場で、蘭花は激しく動揺し、苦悩することになります。その上茂実は落ちぶれて、かつての名誉の全てを失くします。それでも蘭花は、茂実と別れることができません)

後半は、もうひとりのヒロイン・留利絵による友情のパートだ。
留利絵の容姿は蘭花とは対照的だ。幼い頃から美しい姉と比較され、同級生の男の子に揶揄され、彼女はコンプレックスを募らせて生きてきた。

大学でオーケストラサークルに入部し、そこで蘭花に出会った。今時の可愛くて遊び上手な女の子にはうまく接することができないが、群を抜いて美しくて文化的な造詣も深く、どこか浮世離れした蘭花に留利絵はのめりこんでゆく。

前半の蘭花の語りと時間軸はほとんど重なっていて、同じエピソードを留利絵の視点で語っている。すると、蘭花にとって留利絵は女友達のひとりに過ぎないが、留利絵にとってはそうではないことが残酷なほどくっきりと浮かび上がってくる。(解説よりby山本文緒)

蘭花と留利絵は、サークルの入部当初から仲が良かったわけではありません。親しくなるには、あるきっかけがありました。

やがて、二人は同居することになります。茂実との一件で、蘭花の母が娘を心配してのことでした。そしてそれは (蘭花の一番の親友でありたいと思う) 留利絵にとって、願ってもないことでした。

この本を読んでみてください係数 85/100

◆辻村 深月
1980年山梨県笛吹市生まれ。
千葉大学教育学部卒業。

作品 「冷たい校舎の時は止まる」「凍りのくじら」「ツナグ」「太陽の坐る場所」「鍵のない夢を見る」「朝が来る」「ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。」「かがみの孤城」「傲慢と善良」他多数

関連記事

『孤独論/逃げよ、生きよ』(田中慎弥)_書評という名の読書感想文

『孤独論/逃げよ、生きよ』田中 慎弥 徳間書店 2017年2月28日初版 作家デビューまで貫き通し

記事を読む

『まずいスープ』(戌井昭人)_書評という名の読書感想文

『まずいスープ』戌井 昭人 新潮文庫 2012年3月1日発行 父が消えた。アメ横で買った魚で作

記事を読む

『名短篇、ここにあり』(北村薫/宮部みゆき編)_書評という名の読書感想文

『名短篇、ここにあり』北村薫/宮部みゆき編 ちくま文庫 2008年1月10日第一刷 「少女架刑」

記事を読む

『ビオレタ』(寺地はるな)_書評という名の読書感想文

『ビオレタ』寺地 はるな ポプラ文庫 2017年4月5日第1刷 「何歳までに結婚

記事を読む

『雪の練習生』(多和田葉子)_書評という名の読書感想文

『雪の練習生』多和田 葉子 新潮文庫 2023年10月5日 6刷 祝 National Bo

記事を読む

『幻の翼』(逢坂剛)_書評という名の読書感想文

『幻の翼』逢坂 剛 集英社 1988年5月25日第一刷 『百舌の叫ぶ夜』に続くシリーズの第二話。

記事を読む

『ミスター・グッド・ドクターをさがして』(東山彰良)_書評という名の読書感想文

『ミスター・グッド・ドクターをさがして』東山 彰良 幻冬舎文庫 2014年10月10日初版 医

記事を読む

『真夜中のマーチ』(奥田英朗)_書評という名の読書感想文

『真夜中のマーチ』奥田 英朗 集英社文庫 2019年6月8日第12刷 自称青年実業

記事を読む

『スリーパー/浸透工作員 警視庁公安部外事二課 ソトニ』(竹内明)_書評という名の読書感想文

『スリーパー/浸透工作員 警視庁公安部外事二課 ソトニ』竹内 明 講談社 2017年9月26日第一刷

記事を読む

『向こう側の、ヨーコ』(真梨幸子)_書評という名の読書感想文

『向こう側の、ヨーコ』真梨 幸子 光文社文庫 2020年9月20日初版 1974年

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『十字架屋の日常』 (井上荒野)_書評という名の読書感想文

『十字架屋の日常』 井上 荒野 中公文庫 2026年2月25日 初版

『有罪、とAIは告げた』 (中山七里)_書評という名の読書感想文

『有罪、とAIは告げた』 中山 七里 小学館文庫 2026年5月20

『けんぐゎい』 (朝倉かすみ)_書評という名の読書感想文

『けんぐゎい』 朝倉 かすみ 光文社 2026年4月30日 初版第1

『食べると死ぬ花』 (芦花公園)_書評という名の読書感想文

『食べると死ぬ花』 芦花 公園 新潮文庫 2026年6月1日 発行

『滅びの前のシャングリラ』 (凪良ゆう)_書評という名の読書感想文

『滅びの前のシャングリラ』 凪良 ゆう 講談社文庫 2026年5月1

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑