『くもをさがす』(西加奈子)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2024/01/06 『くもをさがす』(西加奈子), 作家別(な行), 書評(か行), 西加奈子

『くもをさがす』西 加奈子 河出書房新社 2023年4月30日初版発行

これはたったひとりの あなたへの物語 祈りと決意に満ちた西加奈子初のノンフィクション

カナダでがんになった。 あなたに、これを読んでほしいと思った。
2021年コロナ禍の最中、滞在先のカナダで浸潤性乳管がんを宣告された著者が、乳がん発覚から治療を終えるまでの約8ヶ月間を克明に描いたノンフィクション作品。(河出書房新社)

まず驚いたのが、現地で彼女の治療に関わる看護師やスタッフ (主に女性) の話し言葉が全編にわたって関西弁 (大阪弁) であるということ。「なんやこれは!? 」 と思い、すぐに 「さすが西加奈子! 」 と思い直し、そのうち、何だかそれが普通に思えてくるのが不思議でした。

泣いていいのか、笑うのか。少し距離を置いて冷静沈着に、襟を正して読むべきか。人の闘病記を読むのは難しい、山本文緒さんの 『無人島のふたり』 (2022年10月 新潮社) を読んだ時もそうでした。人の生き死にに関わるリアルを、他者はどう受けとめればよいのでしょう。ある日何気に宣告された乳がんにかかる闘病は、その後8ヶ月に及びます。

宣告は、電話でされた。

整体師の先生に断って、電話に出た。前回の女性医師とは、また違う男性医師からだった。ウィル、と名乗った。彼は優しい声で、針生検の結果が出ました、と言った。
「あなたの病名はInvasive ductal carcinomaです。」

カルチノーマ、という言葉が、何を表すものなのか、分らなかった。だから、こう聞いた。
「それはがんですか? 」
彼は、
「そうです。」
と言った。

「私から教えられるのはここまでです。来週の月曜日か火曜日に、がんセンターから電話があります。もし、かかってこなければ、クリニックの私のところに、電話をしてください。」

8月17日 今日から日記をつけようと思う。
日記はひさしぶりだから、何を書いていいのか分からない。今日、乳がんと宣告された。自分がこんなことを書かなければいけないなんて、思いもしなかった。乳がん。でも、それ以外は分らない。ステージはどれくらいなのか。私は生きられるのか。タリバンが、アフガニスタンを制圧した。流れてくるニュースは、絶望的なものばかりだ。アフガニスタンの女性のために祈ります。
(本文より)

彼女が罹患したのは、日本語で言うと 「浸潤性乳管がん」 というものでした。担当の医師曰く、それはトリプルネガティブ乳がんで、乳がん全体の15%~20%がそれに当たり、予後が悪く、再発率が高い。ホルモン治療が効かないので、抗がん剤で徹底的に治療をすることが大切だと。

9月2日の時点で、著者の胸のしこりは2.9センチになっています。しこりに気が付いてから4ヶ月で、約2センチ成長したことになります。インターネットで調べてみると、それは自分が、一番なりたくないがんでした。

※自分で決めたこととはいえ、日本からは遠く離れた異国で、まさかがんになるとは。しかも世界はコロナ禍で。移動は制限され、やむなく行ったカナダの病院の、日本とはまるで違うやり方に、よくぞ耐えたものだと。夫や子や、現地でできた友人たちに支えられたとはいえ、時に心細さに震えるあまり、神や仏やあらゆるものに、詮無い恨みをぶつけずにはいられなかっただろうに。

この本を読んでみてください係数 85/100

◆西 加奈子
1977年イラン、テヘラン生まれ。エジプト、大阪府堺市育ち。
関西大学法学部卒業。

作品 「あおい」「さくら」「きいろいゾウ」「漁港の肉子ちゃん」「通天閣」「円卓」「ふくわらい」「サラバ!」「ふる」「 i 」他多数

関連記事

『去年の冬、きみと別れ』(中村文則)_書評という名の読書感想文

『去年の冬、きみと別れ』中村 文則 幻冬舎文庫 2016年4月25日初版 ライターの「僕」は、ある

記事を読む

『高校入試』(湊かなえ)_書評という名の読書感想文

『高校入試』湊 かなえ 角川文庫 2016年3月10日初版 県下有数の公立進学校・橘第一高校の

記事を読む

『樽とタタン』(中島京子)_書評という名の読書感想文

『樽とタタン』中島 京子 新潮文庫 2020年9月1日発行 今から三十年以上前、小

記事を読む

『神様』(川上弘美)_書評という名の読書感想文

『神様』川上 弘美 中公文庫 2001年10月25日初版 なぜなんだろうと。なぜ私はこの人の小説

記事を読む

『変半身/KAWARIMI』(村田沙耶香)_書評という名の読書感想文 

『変半身/KAWARIMI』村田 沙耶香 ちくま文庫 2021年11月10日第1刷

記事を読む

『猫鳴り』沼田まほかる_書評という名の読書感想文

『猫鳴り』 沼田 まほかる 双葉文庫 2010年9月19日第一刷 「沼田まほかる」 という人をご

記事を読む

『もっと超越した所へ。』(根本宗子)_書評という名の読書感想文

『もっと超越した所へ。』根本 宗子 徳間文庫 2022年9月15日初刷 肯定する力

記事を読む

『惑いの森』(中村文則)_書評という名の読書感想文

『惑いの森』中村 文則 文春文庫 2018年1月10日第一刷 毎夜、午前一時にバーに現われる男。投

記事を読む

『円卓』(西加奈子)_書評という名の読書感想文

『円卓』西 加奈子 文春文庫 2013年10月10日第一刷 直木賞の『サラバ!』を読む前に、

記事を読む

『帝都地下迷宮』(中山七里)_書評という名の読書感想文

『帝都地下迷宮』中山 七里 PHP文芸文庫 2022年8月17日第1版第1刷 現代

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『百年と一日』(柴崎友香)_書評という名の読書感想文

『百年と一日』柴崎 友香 ちくま文庫 2024年3月10日 第1刷発

『燕は戻ってこない』(桐野夏生)_書評という名の読書感想文

『燕は戻ってこない』桐野 夏生 集英社文庫 2024年3月25日 第

『羊は安らかに草を食み』(宇佐美まこと)_書評という名の読書感想文

『羊は安らかに草を食み』宇佐美 まこと 祥伝社文庫 2024年3月2

『逆転美人』(藤崎翔)_書評という名の読書感想文

『逆転美人』藤崎 翔 双葉文庫 2024年2月13日第15刷 発行

『氷の致死量』(櫛木理宇)_書評という名の読書感想文

『氷の致死量』櫛木 理宇 ハヤカワ文庫 2024年2月25日 発行

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑