『炎上する君』(西加奈子)_書評という名の読書感想文

『炎上する君』西 加奈子 角川文庫 2012年11月25日初版


炎上する君 (角川文庫)

 

「君は戦闘にいる。恋という戦闘のさなかにいる。誰がそれを、笑うことが出来ようか。君は炎上している」(「炎上する君」より)

これだけでは何のことだか分からないでしょうが、とにもかくにも小説の最後で、主人公の梨田が、無二の親友・浜中(2人は高校の同級生で、共に32歳の女性です)に向かってこう叫びます。

そして、この言葉をして「自分の背中に彫りたいと思えるほど美しく、強い」と解説に記しているのが、ピースの又吉直樹です。
・・・・・・・・・・
いいですねぇ。「自分の背中に彫りたいくらい美しくて、強い」言葉とは、彼が受けた衝撃が如何に本物であったのかがよくわかる、(皮肉でも何でもなく)まことに芥川賞作家らしい名言だと思います。

そして、それくらい「炎上する君」という小説が素晴らしいということです。何でしょうか、こんなのをポンポン(本当はそんなわけないのでしょうが)と書いてしまう西加奈子に、思わず「降参」とでも言ってしまうしかないような気分です。

めずらしく8編もの作品が収められている短編集なのですが、それぞれに趣きが異なっており、一々感心してしまいます。何に感心するかと言えば、やはり彼女の「発想力」に対してなんだろうと思います。それは、もはや誰をも凌駕しているように思えます。

誰が同業の作家の名前を、そのまま小説の登場人物の名前に使おうなんてします? 誰が自分の「お尻」について、ツラツラと短編を書こうとするのでしょうか。

「炎上する君」にしたって、そもそもの発端は「足が炎上している男」が世間を騒がせているという噂から始まっているのです。これは比喩でも何でもありません。本当に足首から下が燃えている男がいるのです。そいつが梨田と浜中の前に現れる、あるいは2人がその男を探し出そうとすることで、物語は予想もつかぬ着地を迎えます。

「足が炎上している男」に出会った浜中は、(すでにこの設定が並みの発想ではないのですが)突然恋という戦場に戦い出て、自ら「炎上」することになります。

まるで冗談みたいな話が、単なる冗談で終わらずに、最後には、又吉をしてあんなに感動的なセリフを言わせてしまう。そこにどんなマジックが潜んでいるのか、ということです。

※ 同業の作家とは「山崎ナオコーラ」のことで、作品名は「甘い果実」。お尻のことは、そのまま「私のお尻」というタイトルで出ています。「私のお尻」には、又吉が愛してやまない「太宰治」も登場します。

 

この本を読んでみてください係数 85/100


炎上する君 (角川文庫)
◆西 加奈子
1977年イラン、テヘラン生まれ。エジプト、大阪府堺市育ち。
関西大学法学部卒業。

作品 「あおい」「さくら」「きいろいゾウ」「窓の魚」「円卓」「漁港の肉子ちゃん」「きりこについて」「通天閣」「ふくわらい」「サラバ!」他

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