『えんじ色心中』(真梨幸子)_書評という名の読書感想文
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最終更新日:2024/01/13
『えんじ色心中』(真梨幸子), 作家別(ま行), 書評(あ行), 真梨幸子
『えんじ色心中』真梨 幸子 講談社文庫 2014年9月12日第一刷
ライターの収入だけでは満足な生活を送れない久保は派遣会社から紹介された職場で働き、糊口を凌いでいた。マニュアル作成の仕事を受けた彼だが、派遣の仕事との両立が難しくなる。折しも16年前の殺人事件が再注目される時、窮地に陥った久保の脳裡にあの光景が重なる。かつてない閉塞感を最大圧縮した凄絶作品! (「BOOK」データベースより)
この小説は、真梨幸子の第二作目の小説です。デビュー作の『孤虫症』を始めとして、後に大ブレークした『殺人鬼フジコの衝動』などのいわゆる〈イヤミス小説〉(読んだ後に嫌な気分になる後味の悪いミステリーの意)の狭間で、今まであまり注目されなかった作品ではないかと思います。
表向きは他の作品と同じような色調なので、いつもの如くドロドロ系の気色悪さを想像し、また期待もしたのですが、どうもそうではないのです。うまく言えませんが、そもそもの狙いどころが他の作品とは別物のような気がするのです。
嫌な気分になるとか後味が悪いと言うよりも、どこにも出口がなくて「気が重くなる」 - そんな小説です。
他の作品と比較してみて感じるのは、読み様によっては、こちらの方がはるかにダークだと言えなくもない、ということです。他の作品は確かに〈イヤミス〉の極みを描いているのですが、それだけにある種の突き抜けた「快感」もあるのです。
しかし、この小説にはそれがありません。解説にある通り「かつてない閉塞感」が描かれており、しかもその「閉塞感」が最後まで解消されることがありません。「息が詰まって、呼吸がうまくできなくなる」・・・、喩えて言うとそんな感じでしょうか。
この小説で真梨幸子が書きたかったのは、まさにその感覚ではなかったのか。そんな気がします。物語では、年代も年齢も異なる2人の人物がその「感覚」をみごとに体現してみせてくれています。行き場のない彼等の、窒息間際の行状をしかとご覧ください。
・・・・・・・・・・
物語の発端となるのが1989年、今から16年前に発生した「西池袋事件」なる出来事です。この小説は、西池袋事件が起きる前と、事件から16年が経った現在が複雑に混ざり合った構成からなる物語です。
一方の語り手は、「僕」という一人称の、小学6年生の少年。そしてもう一方の語り手が、28歳になる食い詰めたフリーライターである久保という男です。
「西池袋事件」の意外な展開を間に挟みながら、一見何の関係もないように思える、一人の少年と久保という男の日常が綴られていきます。それは最後の最後まで別個の物語でしかないように思えるのですが、それこそが真梨幸子の企みであり仕掛けなのです。
途中で惑わされることが何度もあるとあると思いますが、粘り強く読んでみてください。すべての因果、すべての過去は「エピローグ、あるいは真相」と題された最終章で詳らかになります。
この本を読んでみてください係数 80/100
◆真梨 幸子
1964年宮崎県生まれ。
多摩芸術学園映画科(現、多摩芸術大学映像演劇学科)卒業。
作品 「孤虫症」「殺人鬼フジコの衝動」「深く深く、砂に埋めて」「女ともだち」「あの女」「人生相談」「お引っ越し」他多数
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