『これが私の優しさです』(谷川俊太郎)_書評という名の読書感想文
公開日:
:
最終更新日:2024/01/13
『これが私の優しさです』(谷川俊太郎), 作家別(た行), 書評(か行), 谷川俊太郎
『これが私の優しさです』谷川 俊太郎 集英社文庫 1993年1月25日第一刷
1952年のデビュー作『二十億光年の孤独』を始めとして、これまでに発表された谷川俊太郎の全詩集の中から選りすぐりが集められています。日本を代表する偉大な詩人の足跡を辿るにはもってこいの本です。
かと言って、変に気合を入れることはありません。適当にページをめくり、これはと思ったものだけ読んでみるというのはどうでしょう。もし時間があって、そのときにこの詩集のことをまだあなたが憶えていたとしたら、残りはそこで読めばいいことです。
あなたの気に入る詩がひとつでもあればいいなと思いますし、その詩が掲載されている元々の詩集を読んでみたい、などと思ってもらえたら尚嬉しく思います。
表題になっている「これが私の優しさです」という一篇と、あともうひとつ「年頭の誓い」という作品を紹介したいと思います。
「これが私の優しさです」
窓の外の若葉について考えていいですか
そのむこうの青空について考えても?
永遠と虚無について考えていいですか
あなたが死にかけているときにあなたが死にかけているときに
あなたについて考えないでいいですか
あなたから遠く遠くはなれて
生きている恋人のことを考えても?それがあなたを考えることにつながる
とそう信じてもいいですか
それほど強くなっていいですか
あなたのおかげで「年頭の誓い」
禁酒禁煙せぬことを誓う
いやな奴には悪口雑言を浴びせ
きれいな女にはふり返ることを誓う
笑うべき時に大口をあけて笑うことを誓う
夕焼けはぽかんと眺め
人だかりあればのぞきこみ
美談は泣きながら疑うことを誓う
天下国家を空論せぬこと
上手な詩を書くこと
アンケートには答えぬことを誓う
二台目のテレビを買わぬと誓う
宇宙船に乗りたがらぬと誓う
誓いを破って悔いぬことを誓う
よってくだんのごとし
解説のあとに、「鑑賞」と題したさくらももこさんの文章があります。これもためになります。ちなみに、さくらももこさんが大好きなのは、『定義』の中の「私の家への道順の推敲」という作品。彼女はこの詩を読む度に- 居ても立ってもいられぬ笑いに駈られてしまう - らしいのです。
この本を読んでみてください係数 85/100
◆谷川 俊太郎
1931年東京府東京市杉並区生まれ。詩人、翻訳家、絵本作家、脚本家。父は哲学者で法政大学総長の谷川徹三。
東京都立豊多摩高等学校卒業。
作品「二十億光年の孤独」「六十二のソネット」「日々の地図」「よしなしうた」「女に」「世間知ラズ」「シャガールと木の葉」「私」「トロムソコラージュ」他多数
関連記事
-
『わたしの良い子』(寺地はるな)_書評という名の読書感想文
『わたしの良い子』寺地 はるな 中公文庫 2022年9月25日初版発行 「誰かのこ
-
『この世の全部を敵に回して』(白石一文)_書評という名の読書感想文
『この世の全部を敵に回して』白石 一文 小学館文庫 2012年4月11日初版 あなたは子供の頃、
-
『熊金家のひとり娘』(まさきとしか)_生きるか死ぬか。嫌な男に抱かれるか。
『熊金家のひとり娘』まさき としか 幻冬舎文庫 2019年4月10日初版 北の小さ
-
『幸福な遊戯』(角田光代)_書評という名の読書感想文
『幸福な遊戯』角田 光代 角川文庫 2019年6月20日14版 ハルオと立人と私。
-
『コンテクスト・オブ・ザ・デッド』(羽田圭介)_書評という名の読書感想文
『コンテクスト・オブ・ザ・デッド』羽田 圭介 講談社文庫 2018年11月15日第一刷
-
『あの日のあなた』(遠田潤子)_書評という名の読書感想文
『あの日のあなた』遠田 潤子 角川事務所 2017年5月18日第一刷 交通事故で唯一の肉親である父
-
『たまさか人形堂ものがたり』(津原泰水)_書評という名の読書感想文
『たまさか人形堂ものがたり』津原 泰水 創元推理文庫 2022年4月28日初版 人
-
『怪物』(脚本 坂元裕二 監督 是枝裕和 著 佐野晶)_書評という名の読書感想文
『怪物』脚本 坂元裕二 監督 是枝裕和 著 佐野晶 宝島社文庫 2023年5月8日第1刷
-
『欺す衆生』(月村了衛)_書評という名の読書感想文
『欺す衆生』月村 了衛 新潮文庫 2022年3月1日発行 詐欺の天才が闇の帝王に成
-
『ゴースト』(中島京子)_書評という名の読書感想文
『ゴースト』中島 京子 朝日文庫 2020年11月30日第1刷 風格のある原宿の洋