『イモータル』(萩耿介)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2018/04/28 『イモータル』(萩耿介), 作家別(は行), 書評(あ行), 萩耿介

『イモータル』萩 耿介 中公文庫 2014年11月25日初版


イモータル (中公文庫)

インドで消息を絶った兄が残した「智慧の書」。不思議な力を放つその書に導かれ、隆は自らもインドへ旅立った・・・・。ウパニシャッドからショーペンハウアー、そして現代へ。ムガル帝国の皇子や革命期フランスの学者が時空を超えて結実させた哲学の神髄に迫る、壮大な物語。『不滅の書』を改題。(中公文庫)

最近よく行く書店があります。少し時間はかかるのですが、書店は大きな大学の傍にあって、学生らしき若者はもとより、(他では滅多に見かけない)スーツ姿の老紳士や、(如何にもインテリですよと言わんばかりの)ちょっとスカしたご婦人方が大勢います。

文庫コーナーへ行くと、最前列に、この本が山のように積まれていました。

イモータル? 何のことかと思い手に取ると、何やら難しいことが書いてあります。あの佐藤優氏(余計なことですがあまり好きじゃない)が推薦し、5万部も売れ、「とにかく面白い」と帯に書いてあります。(イモータル【immortal】は、不滅の。永久の。不死の。の意)

続きに「古今東西の最良質の哲学を小説に組み込んだ傑作」という言葉を読むにつけ、これはもしかすると自分には(難し過ぎて)読み切れないのではないか、そんな気がしたのですが、その日は他にこれといった本が見つけられずに、つい買ってしまいました。

結果は半分当たりで、半分は外れ。小難しい哲学の理屈や退屈な歴史の話が、あるにはあります。が、但し、むやみに知識がないのを嘆かずに、深くは考えず、筋を追うのに集中すれば、物語自体は案外面白く読むことができます。

本来この手の話 - ある哲学が昔どのような人物によってどんな過程で成文化され今に至ったのかという、まことにお堅い話 - に興味をお持ちの、私よりかは何十倍も頭のいい方ならそうはいかないでしょう。しかし、

ムガル帝国からフランス革命、そして現代へと続く「言語」と「哲学」のファンタジー、と言われて、どれほどの人が興味を持つのでしょう? まず、

ムガル帝国とはどこにあるどんな国なのか、というのがわからない。

説明すると、ムガル帝国とは16世紀初頭から北インド、17世紀末から18世紀初頭はインド南端部を除くインド亜大陸を支配し、19世紀後半まで存続したトルコ系イスラーム王朝(1526年-1858年)のことをいいます。

ムガル帝国こそがこの小説の「肝」となる部分で、「智慧の書」とは古代インドの教典「ウパニシャッド」のことをいいます。ウパニシャッド?  昔何かで聞いたことがあるような、ないような。試験には必ず出たような覚えがありますが、皆さんならどうでしょう。

ウパニシャッドとは、サンスクリット語で書かれたヴェーダの関連書物で、一般には「奥義書」と訳され、約200以上ある書物の総称をいいます。(ヴェーダ:紀元前にインドで編纂された一連の宗教文書のこと)

「近くに座す」というのが語源で、それが秘儀、秘説といった意味になり、ウパニシャッドの中心は、ブラフマン(宇宙我)とアートマン(個我)の本質的な一致(梵我一如)の思想であると言われます。但し、宇宙我は個我の総和ではなく、自ら常恒不変に厳存しつつ、しかも無数の個我として現れると考えられた、などというのですが・・・・

読んで戴いている皆さん、大丈夫ですか? 段々と読む気が削がれてきてはいないでしょうか。ちょっと自信がなくなってきました。山のように積まれていたのに、あれはやっぱり頭でっかちの学生目当てに設えた、書店の見え透いた作為ではないかと。

読んだ私が言うのですから間違いないのですが、たぶん、買った人の半分くらいは勘違いをしている。薄々それを知りながら、(買ったからにはと)意地になって読んでいる。そんな気がします。

紹介しておきながら言うのも何ですが、おそらく、これは(哲学に魅入られた著者の)一般のための「啓蒙」の書ではないかと。興味のある方はそれでよし。但し、無い者にすれば、何やら七面倒くさい、わかったようなわからぬような話であるわけです。

 

この本を読んでみてください係数  80/100


イモータル (中公文庫)

◆萩 耿介
1962年東京都生まれ。
早稲田大学第一文学部ドイツ文学科卒業。

作品 「松林図屏風」「炎の帝」「覚悟の眼」極悪 五右衛門伝」「鹿鳴館のドラクラ」など

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