現実に起こった!小説『後妻業』と京都連続変死事件との奇妙な一致

公開日: : 雑文

gosai

 

「京都で現実に事件は起こった!」

 

いやぁ、驚きました。小説を地で行く事件が本当に起きたのです。場所も大阪と京都、隣り合わせの近所じゃありませんか。

10月に書いた『後妻業』の記事の検索数がすごい勢いで増えていること、それが京都の事件と関係しているんじゃないかと気付いたのは最近で、我ながら自分の鈍感さに呆れます。

昨年12月、京都府向日市で死亡した75歳の男性の血液から青酸反応が出た事件で、男性の妻が殺人容疑で逮捕されました。

逮捕されたのは67歳の妻で、男性が死亡する約2ケ月前に結婚したばかりでした。二人は結婚相談所で知り合い、その後結婚に至っています。

警察によると、逮捕された妻の周辺では少なくとも6人の男性が死亡しており、総額8億円という莫大な額を遺産として相続したとみられているようです。

 

これって、まさしく黒川博行が書いた『後妻業』と瓜二つの事件じゃないのよ..。

初めて新聞で記事を見た時は何気に読み流していたのですが、後から「待てよ、まさか・・」と思い直してじっくり読むと、これがほんとに小説そのままじゃないですか!

黒川さん、これ知ってたの?と一瞬思ったくらい。タイミングもバッチリで、こんな偶然なかなかありませんよね。

京都の事件はまだ未解決で、亡くなった男性の妻はあくまでも容疑者ですから堂々と実名を書くのは遠慮しますが、周辺の状況は不審なことだらけで限りなく疑わしいわけです。

過去の事案も含めて実際に殺人が実行されたのかどうかが最大の関心事なのは言うまでもありませんが、
ここで重要なのは、事が明らかになるまでの経緯がそっくり同じ道筋を辿っていることです。

黒川博行が『後妻業』を書こうとしたのは、作者の身近で実際にあった事件が端緒になっているようです。
知人である90歳代の男性が、70歳代後半の後妻に遺言を書かされていたこと。
遺産の遺留分を争う過程で調べたら、過去9年間で3人の前夫が事故死していたこと。男性の入院中に後妻が見舞いに来ると、点滴が外れていたこと等が実際にあったようです。
黒川博行は、他にも同様の事件をあまた調査した末に小説を書き上げたのです。

ということは(普通に暮らす善良な市民にはとんでもないことですが)、後妻業はすでに立派なビジネスとして裏社会で成立しており、
全国の至るところで似たような事案が発生しているということです。長生きを喜んでばかりいられない、何ともゾッとする話ではありませんか。

小説に出てくる会話の一部です。
「資産を持っている老人を狙うて後妻に入る。その老人が死んだら遺産を相続できるやろ」「寂しい男ほど騙しやすいものはない」
「相談所に来た会員の中で、これという年寄りに小夜子をあてがう。小夜子の手練手管は筋金入りだから、相手はころっと騙される。籍を入れるか入れないかは条件次第だ」

殺されるか死ぬかは別にしても、妻に先立たれ独り寂しい老後を送る(お金を持っている)男性は格好のターゲットなのです。

老いぼれた自分に尽くしてくれる女性が、まさか複数の男性と交際しては結婚と死別を繰り返しているとは夢にも思いませんわな。いや、思いたくない。
残り僅かになった寿命なら、際まで介抱すると言ってくれる女性に財産を残してやろうとするのは人情ですよ。
その人情につけ入るとは、慈悲もない何と荒廃した世情なのでしょう。

『後妻業』の小夜子は69歳。京都の後妻は67歳。黒川さんの知人の相手は70歳代の後半です。男性も高齢なら、騙そうとする女性もまた高齢です。
匂うような色香も今は昔、腰も曲がろうかという年老いた女性が、それでも精一杯に着飾って男に擦り寄る様を想像するのもまた辛く切ないことです。

京都の容疑者は佐賀県で生まれ、小さい頃から学業優秀で可愛い女性だったようです。報道されている写真にもその面影は確かに残っています。
このような罪深き人生の終盤に至るまでの、彼女の半生には一体何があったのでしょうか。聞いてみたい気がします。

 

 

⇩合わせて読んでください。

『後妻業』黒川博行_書評という名の読書感想文(その1)

『後妻業』黒川博行_書評という名の読書感想文(その2)

◆黒川 博行

1949年愛媛県今治市生まれ。6歳の頃に大阪に移り住み、現在大阪府羽曳野市在住。

京都市立芸術大学美術学部彫刻科卒業。妻は日本画家の黒川雅子。

スーパーの社員、高校の美術教師を経て、専業作家。無類のギャンブル好き。

作品 「二度のお別れ」「雨に殺せば」「キャッツアイころがった」「カウント・プラン」「疫病神」「文福茶釜」「国境」「悪果」「破門」「後妻業」他多数

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