『カエルの楽園』(百田尚樹)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2024/01/11 『カエルの楽園』(百田尚樹), 作家別(は行), 書評(か行), 百田尚樹

『カエルの楽園』百田 尚樹 新潮文庫 2017年9月1日発行

平和な地を求め旅に出たアマガエルのソクラテスとロベルトが辿り着いた安住の地 「ナパージュ」。そこでは心優しいツチガエルたちが、奇妙な戒律を守って暮らしていた。だがある日、平穏な国を揺るがす大事件が起こる - 。日本の姿を寓話に託し、国家の意味を問う 「警世の書」。(新潮文庫)

突如現れたダルマガエルに国を荒らされ、安住の地を求めて60匹のアマガエルが国を捨て旅に出ます。その旅は過酷そのもので、安住の地はいっこうに見つかりません。道中ではヘビやイワナ、イタチなどの天敵に襲われ、彼らは徐々に数を減らしてゆきます。

これはと思う沼や池を見つけても、そこにはすでにアカガエルやトノサマガエルがおり、喜ぶどころか、むしろ彼らは食用として命の危険に晒されます。はじめいた60匹が数十匹に減り、アマガエルの集団は、遂にソクラテスロベルトの2匹だけになってしまいます。

その後、ようやくにして2匹が辿り着いたのが、ツチガエルの国 「ナパージュ」でした。ナパージュは平和そのもので、他国から来たアマガエルの彼らにも限りなく優しく、土地は肥沃で、食べ物も豊富にあります。ソクラテスとロベルトは、遂に思い描いていた 「平和の楽園」 に辿り着いたのだと狂喜します。

ナパージュには、平和を守るためのある決めごとがあります。

(1)  カエルを信じろ (2)  カエルと争うな (3)  争うための力を持つな

ナパージュに暮らすツチガエルの全員はこれを 「三戒」 の教えとし、固く守ることを旨としています。この教えがあるからこそ 「争いそのものが起きようがない」「だから平和なんだ」 と説明します。併せて、彼らは日毎 『謝りソング』 を合唱します。

我々は、生まれながらに罪深きカエル
すべての罪は、我らにあり
さあ、今こそみんなで謝ろう

ツチガエルたちは、その「なんだか変わった歌」を何度も繰り返し歌います。何に謝っているんだろうとロベルトは思い、メスのツチガエルのローラに尋ねると、「わたしたちの遠い祖先が過去に犯した過ち」 すなわち 「原罪」 について謝っているのだといいます。

謝ることで争いを避けることができる。わたしたちはこの歌を歌いながら、平和を願っている。これは祈りの歌でもある - ローラはそう言い、『謝りソング』 は 「三戒」 と同じくらいに大切な歌だといいます。

ナパージュにはその教えを説く指導者的なカエルがおり、名をデイブレイクといいます。彼は進歩的かつ物知りなカエルで、ロベルトはたちまちにして彼の教えの虜になります。

ソクラテスはというと、わかりはするもののいまいち合点がいかずに、さらに 「三戒」 が出来上がった背景を調べてみようと思い立ちます。すると、そこには複雑な事情が絡んでいるのがわかってきます。そして他にも、

ナパージュ周辺を警備している年老いた鷲・スチームボートの存在や、沼地に住むウシガエルも恐れる勇敢なツチガエル、ハンニバル(兄弟) の存在を知ることになります。

・・・・・・・ と、ここら辺りまでが物語の前段です。「三戒」 とは? 『謝りソング』 とは? 何を皮肉って書いてあるのか。それをよく想像して続きを読んでください。

このあと、ツチガエルたちにとってかけがえのない 「平和の楽園」、「三戒」 と 『謝りソング』 に守られ、未来永劫 「平和の楽園」 であり続けるべきはずのナパージュに、

(何があっても襲ってはこないと信じて疑わなかった、あの) 巨大なウシガエルが大挙して侵入し、かつてあった 「カエルの楽園」 が、一夜にして地獄のような騒乱へと場面を変えてゆきます。

※ ナパージュの綴りは 「Napaj」。ひっくり返すと 「Japan」 になります。スチームボートがアメリカ合衆国で、ウシガエルが中国、ぐらいはすぐに察しが付きます。

中に登場するカエルに 「ハンドレッド」 という奴がいます。『語り屋』 とか 『物知り屋』 と呼ばれどちらかというと嫌われ者なのですが、これは著者自らを皮肉って付けたネーミングに思われます。他にもたくさんあります。考えながら読んでみてください。

この本を読んでみてください係数 85/100

◆百田 尚樹
1956年大阪府大阪市生まれ。
同志社大学中退。

作品 「永遠の0」「海賊とよばれた男」「モンスター」「影法師」他多数

関連記事

『買い物とわたし/お伊勢丹より愛をこめて』(山内マリコ)_書評という名の読書感想文

『買い物とわたし/お伊勢丹より愛をこめて』山内 マリコ 文春文庫 2016年3月10日第一刷

記事を読む

『火口のふたり』(白石一文)_書評という名の読書感想文

『火口のふたり』白石 一文 河出文庫 2015年6月20日初版 『火口のふたり』

記事を読む

『強欲な羊』(美輪和音)_書評という名の読書感想文

『強欲な羊』美輪 和音 創元推理文庫 2020年4月17日7刷 第7回ミステリーズ

記事を読む

『黒い家』(貴志祐介)_書評という名の読書感想文

『黒い家』貴志 祐介 角川ホラー文庫 1998年12月10日初版 若槻慎二は、生命保険会社の京都支

記事を読む

『検事の本懐』(柚月裕子)_書評という名の読書感想文

『検事の本懐』柚月 裕子 角川文庫 2018年9月5日3刷 ガレージや車が燃やされ

記事を読む

『教場2』(長岡弘樹)_書評という名の読書感想文

『教場2』長岡 弘樹 小学館文庫 2017年12月11日初版 必要な人材を育てる前に、不要な人材を

記事を読む

『空中庭園』(角田光代)_書評という名の読書感想文

『空中庭園』角田 光代 文春文庫 2005年7月10日第一刷 郊外のダンチで暮らす京橋家のモッ

記事を読む

『きりこについて』(西加奈子)_書評という名の読書感想文

『きりこについて』西 加奈子 角川書店 2011年10月25日初版 きりこという、それはそれ

記事を読む

『首の鎖』(宮西真冬)_書評という名の読書感想文

『首の鎖』宮西 真冬 講談社文庫 2021年6月15日第1刷 さよなら、家族

記事を読む

『フォルトゥナの瞳』(百田尚樹)_書評という名の読書感想文

『フォルトゥナの瞳』百田 尚樹 新潮文庫 2015年12月1日発行 幼い頃に家族を火事で失い天涯孤

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『ケモノの城』(誉田哲也)_書評という名の読書感想文

『ケモノの城』誉田 哲也 双葉文庫 2021年4月20日 第15刷発

『嗤う淑女 二人 』(中山七里)_書評という名の読書感想文

『嗤う淑女 二人 』中山 七里 実業之日本社文庫 2024年7月20

『闇祓 Yami-Hara』(辻村深月)_書評という名の読書感想文

『闇祓 Yami-Hara』辻村 深月 角川文庫 2024年6月25

『地雷グリコ』(青崎有吾)_書評という名の読書感想文 

『地雷グリコ』青崎 有吾 角川書店 2024年6月20日 8版発行

『アルジャーノンに花束を/新版』(ダニエル・キイス)_書評という名の読書感想文

『アルジャーノンに花束を/新版』ダニエル・キイス 小尾芙佐訳 ハヤカ

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑