『オオルリ流星群』(伊与原新)_書評という名の読書感想文

『オオルリ流星群』伊与原 新 角川文庫 2024年6月25日 初版発行

星がつないだ、心ふるえる “再生“ の物語。人生の途中で迷い、もがき、燃え尽きそうな大人たちの第二段エンジンを点火させてくれる。

人生の折り返し地点を過ぎ、将来に漠然と不安を抱える久志は、天文学者になった同級生・彗子の帰郷の知らせを聞く。手作りで天文台を建てるという彼女の計画に、高校3年の夏、ともに巨大タペストリーを作ったメンバーが集まった。ここにいるはずだったあと1人を除いて - 。仲間が抱えていた切ない秘密を知ったとき、止まっていた青春が再び動き出す。喪失の痛みとともに明日への一歩を踏み出す、あたたかな再生の物語。(角川文庫)

主たる登場人物たちは元々高校の同級生で、社会人となり時が経ち、現在四十五歳。皆が、“あの頃“ 描いた未来とは違う暮らしをしています。思い通りに事は運ばす、閉塞感は増すばかり。変わるべきか、変わらざるべきか。人生の凡そ半分が過ぎ、残りの半分を思い、何かしら皆が落ち着きません。

科学と共にある人生の機微を、やさしく、やわらかく描き出す。

ブレイク作となった2018年刊の 『月まで三キロ』 (第38回新田次郎文学賞受賞)以降の伊与原新の作風について、そんなふうに表現することができるだろう。伊与原はかつて、地球惑星科学の研究者だった。その経験が、遺憾なく発揮されていると言える。

第164回直木三十五賞候補となった 『八月の銀の雪』 (2020年) でも、科学知識と人間ドラマの見事な融合を味わうことができる。同作は第34回山本周五郎賞にもノミネートされ受賞を逃したものの、選考委員の伊坂幸太郎、三浦しをんは選評で絶賛の言葉を寄せた (「小説新潮」 2021年7月号)。

〈文章には、(感情を煽ってこないという意味で) 清潔感がありますし、各短編ごとに触れられる科学的な話と描かれるドラマの絡まり方も単純ではなく、奥行きがあります。(中略) フィクションに 「何か変わったもの」 「ちょっとした毒」 を求める (僕のような) 読者からすると少し優等生的で、物足りなく感じられる部分もあるかもしれませんが、こういった、「大勢の人に良い読書体験を与える」 「創作に対して細かいところまで神経を行き届かせた」 小説は貴重です〉 (伊坂)

〈何度読んでも、科学の楽しいトピックに胸躍るし、新しい世界に触れた登場人物たちが一歩を踏みだすさまを描きだす繊細な筆致に、静かな昂揚と感激を覚える。科学の負の側面にもちゃんと触れ、小説として昇華させる著者の誠実な姿勢もまた、科学を単なる 「ネタ」 とは思っておらず、登場人物たちを都合のいい 「駒」 とも思っていないのだとうかがわせるに充分だ〉 (三浦)- 解説より

※(対象は異なりますが) 伊坂さんと三浦さんのコメントを読めば、凡そ著者の作風が想像できると思います。二人が言うように、過度な刺激はありません。物足りなく感じるかもしれません。ところが、きっとあなたは読むと思いますよ、最後まで。そして、ちょっと泣くかもしれません。

この本を読んでみてください係数  85/100

◆伊与原 新
1972年大阪生まれ。
神戸大学理学部卒業後、東京大学大学院理学系研究科で地球惑星科学を研究。博士課程修了。

作品 「お台場アイランドベイビー」「月まで三キロ」「プチ・プロフェスール」「ルカの方舟」「青ノ果テ 花巻農芸高校地学部の夏」「八月の銀の雪」他

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