『優しくって少しばか』(原田宗典)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2021/06/18 『優しくって少しばか』(原田宗典), 作家別(は行), 原田宗典, 書評(や行)

『優しくって少しばか』原田 宗典 1986年9月10日第一刷


優しくって少しばか (集英社文庫)

つい最近のことです。「文章が上手い」 といって人から褒められた、と息子が言いました。息子のブログを読んだ人が 「原田宗典か、リリー・フランキーみたいな文章が書けるんじゃないか」 と言ってくれたようなのです。

原田宗典とリリー・フランキー!?・・・・・。微妙な並びですが、言いたいニュアンスは何となくわからなくもありません。そして、その人の年齢も。おそらくは40歳を過ぎたくらいの人ではないかと思います。もうちょっと年輩かも知れませんが、少なくとも若い人ではないでしょう。

久しぶりに原田宗典という名前を聞いたような気がします。今から20年以上も前になりますが、私はこの人が書く小説やエッセイが好きでした。特にエッセイが面白く、刊行されている数もはるかに小説を上回っているのではないかと思います。

その人が息子に言ったのは、きっと原田宗典が書いたエッセイをイメージしてのことだと思います。軽妙洒脱、バカっぽいのですが 「そうだ、そうだ」 と頷いてしまう。バカを装いながら、肝心なところはズバッと決めてみせる。それが痛快で、心地いい。

大人らしくない大人、決して大人ぶらない大人の男、と言えばいいでしょうか。とにかくかっこよかったのです。こんな人になれたらいいと、一時期真面目に思っていました。でもなれんよな、ホントはめっちゃ頭のいい人やもんな、という諦めとともに。

今回、敢えて原田宗典の 「小説」 を読み返してみようと思ったのは、息子の話のせいばかりではありません。息子のことだけなら、何度も言うようですがエッセイでよかったのです。

しかし、原田宗典の現在を思うとき、読むべきはやはり小説ではと思ったのですが・・・・・・・。

が、しかし、うまく読めません。(中身とは別の) 余計なことばかりが頭の中を占領して読んでる気持ちになれません。何もなければガハハと笑えるようなふざけた文章も、「こんなの書くのに、どんだけ辛い思いをしてたんだろう・・・・・・・」と、つい読む手を止めて考えてしまいます。

そんなことの繰り返しでした。元々この人は小説が苦手だと公言していました。そんなことは知っていたし、小説とエッセイでは別人のようなのも承知の上でした。面白かったし、それでいいと思っていました。

「ふざけたことを大真面目にやる」 彼のパフォーマンスは本物で、決し て〈ふざけた〉 だけのものではありませんでした。行動したことは、きちんとエッセイにしてみせる。その作業にはかなりなエネルギーが必要だったろうと思います。

それでも、原田宗典が本当に書きたかったのは、彼が考える 「本物の小説」 だったのでしょう。でなければ、心の病気になどなるわけがありません。ましてや覚醒剤などは論外です。才気溢れる人であるが故の悲劇、というほか言うべき言葉がありません。

『優しくって少しばか』は、ごく初期の6編からなる作品集です。巻頭の 「優しくって少しばか」 だけは別物ですが、あとの5編はサスペンス調で背筋が少々寒くなるような短編ばかりが揃っています。

◆この本を読んでみてください係数 80/100


優しくって少しばか (集英社文庫)

◆原田 宗典
1959年東京都新宿区新大久保生まれ。
早稲田大学第一文学部卒業。妹は、小説家の原田マハ。

作品 「時々、風と話す」「十九、二十」「しょうがない人」「何者でもない」「吾輩ハ苦手デアル」「透明な地図」「劇場の神様」「醜い花」他多数

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