『揺籠のアディポクル』(市川憂人)_書評という名の読書感想文

『揺籠のアディポクル』市川 憂人 講談社文庫 2024年3月15日 第1刷発行

孤立した無菌病棟に取り残された少年と少女。ウイルスすら出入り不能の密室で彼女を殺したのは - 誰?

ジェリーフィッシュは凍らないの著者による甘く切ない青春本格ミステリ

半人形 - それがコノハの最初の印象だ。隻腕義手の痩せた少女が、タケルのただひとりの同居人だった。医師の柳や看護師の若林とともに、病原体に弱い二人を守るはずだった無菌病棟、通称 《クレイドル》。

しかし、ある大嵐の日、《クレイドル》 は貯水槽に通路を寸断され、外界から隔絶される。不安と焦燥を胸に、二人は眠りに就き、- そして翌日、コノハはメスを胸に突き立てられ、死んでいた。外気にすら触れられない彼女を、誰が殺した? (講談社BOOK倶楽部より)

初読。評価は難しい。設定 (死に至る原因と結果) は斬新で、私好みではある。ただ万人受けするかどうかはわからない。(特に前半の) 丁寧が過ぎてくどく感じる描写の連続は、ややもすると読む気を削ぐことにもなりかねはしないだろうか。正直に言うと、何度も飽きて投げ出しそうになった。

死蠟 【しろう】/adipocere』 という言葉が出てくるまで我慢することだ。物語は、そこから俄然面白くなる。

たった二人だけが生活する無菌病棟 《クレイドル》 の中で、紆余曲折を経ながらも徐々に互いの関係を深めていくタケルとコノハ。だが大嵐のため完全に閉ざされた空間となったクレイドルの中で、タケルはコノハの亡骸を見つけ・・・・・・・。

というあらすじのノンシリーズ作品である本書は、叙情的な恋愛要素や謎また謎のスリリングな展開、そして読者の感情を揺さぶる結末が待ち受ける作品で、市川憂人作品の入門にもオススメの逸品である。市川ファン・初市川作品読者のいずれであっても、本書を一読された方は、2016年に 『ジェリーフィッシュは凍らない』 にてデビューしてからわずか4年の “新鋭“ 本格ミステリ作家が生み出したとは思えない、細部まで神経が行き届いた厚みのある構成と、情感溢れる物語に驚かれるのではないだろうか。(解説より)

※細部にこだわるあまり、謎の周囲を行ったり来たり - 延々とそんな描写が続くと、結局何が何だかわからなくなってしまう。大いなる前振りが悪いわけではないが、事の核心に至る手前で飽きられては元も子もない。なるだけ簡潔に、節度を持って臨んでもらえればと。最後は結構、感動するのだから。

この本を読んでみてください係数  80/100

◆市川 憂人
1976年神奈川県生まれ。
東京大学卒業。

作品 2016年 『ジェリーフィッシュは凍らない』 で、第26回鮎川哲也賞を受賞しデビュー。他著に、『ブルーローズは眠らない』 『グラスバードは還らない』 『ボーンヤードは語らない』 『ヴァンプドッグは叫ばない』 (以上、東京創元社)、『神とさざなみの密室』 (新潮文庫) がある。

関連記事

『夜葬』(最東対地)_書評という名の読書感想文

『夜葬』最東 対地 角川ホラー文庫 2016年10月25日初版 ある山間の寒村に伝わる風習。この村

記事を読む

『地獄への近道』(逢坂剛)_書評という名の読書感想文

『地獄への近道』逢坂 剛 集英社文庫 2021年5月25日第1刷 お馴染み御茶ノ水

記事を読む

『Yuming Tribute Stories』(桐野夏生、綿矢りさ他)_書評という名の読書感想文

『Yuming Tribute Stories』桐野夏生、綿矢りさ他 新潮文庫 2022年7月25

記事を読む

『くらやみガールズトーク』(朱野帰子)_書評という名の読書感想文

『くらやみガールズトーク』朱野 帰子 角川文庫 2022年2月25日初版 「わたし

記事を読む

『綴られる愛人』(井上荒野)_書評という名の読書感想文

『綴られる愛人』井上 荒野 集英社文庫 2019年4月25日第1刷 夫に支配される

記事を読む

『ユートピア』(湊かなえ)_書評という名の読書感想文

『ユートピア』湊 かなえ 集英社文庫 2018年6月30日第一刷 第29回 山本周五郎賞受賞作

記事を読む

『愚者の毒』(宇佐美まこと)_書評という名の読書感想文

『愚者の毒』宇佐美 まこと 祥伝社文庫 2017年9月10日第4刷 1985年、上

記事を読む

『EPITAPH東京』(恩田陸)_書評という名の読書感想文

『EPITAPH東京』恩田 陸 朝日文庫 2018年4月30日第一刷 東日本大震災を経て、刻々と変

記事を読む

『工場』(小山田浩子)_書評という名の読書感想文

『工場』小山田 浩子 新潮文庫 2018年9月1日発行 (帯に) 芥川賞作家の謎めくデビュー作、

記事を読む

『私の家では何も起こらない』(恩田陸)_書評という名の読書感想文

『私の家では何も起こらない』恩田 陸 角川文庫 2016年11月25日初版 私の家では何も起こら

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『ミーツ・ザ・ワールド』(金原ひとみ)_書評という名の読書感想文

『ミーツ・ザ・ワールド』金原 ひとみ 集英社文庫 2025年1月30

『みぞれ』(重松清)_書評という名の読書感想文

『みぞれ』重松 清 角川文庫 2024年11月25日 初版発行

『ついでにジェントルメン』(柚木麻子)_書評という名の読書感想文

『ついでにジェントルメン』柚木 麻子 文春文庫 2025年1月10日

『逃亡』(吉村昭)_書評という名の読書感想文

『逃亡』吉村 昭 文春文庫 2023年12月15日 新装版第3刷

『対馬の海に沈む』 (窪田新之助)_書評という名の読書感想文

『対馬の海に沈む』 窪田 新之助 集英社 2024年12月10日 第

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑