『variety[ヴァラエティ]』(奥田英朗)_書評という名の読書感想文
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最終更新日:2024/01/11
『variety[ヴァラエティ]』(奥田英朗), 作家別(あ行), 奥田英朗, 書評(は行)
『variety[ヴァラエティ]』奥田 英朗 講談社 2016年9月20日第一刷
迷惑、顰蹙、無理難題。人生、困ってからがおもしろい。脱サラで会社を興した38歳の社長、渋滞中の車にどんどん知らない人を乗せる妻、住み込みで働く職場の謎めいた同僚・・・・。著者お気に入りの短篇からショートショート、敬愛するイッセー尾形氏、山田太一氏との対談まで、あれこれ楽しい贅沢な一冊!! 蔵出し短篇集! (「BOOK」データベースより)
「セブンティーン」
子供は昔のことなんて少しも憶えていてくれない - 高校2年生の娘・明菜は、幼い頃にあった出来事や、子を思い親がしたあれやこれやをまるで憶えていません。
家族でハワイ旅行に行ったことを「憶えてない」と言われて腹が立ち、ビーチで撮ったビデオテープも、まるで他人を見るように「可愛い」と笑って眺めているだけの様子に、自分はもう少し憶えている気がする - と、母の由美子はそんなことを考えています。
もっとも、元々親子には決定的な温度差があり、自分は人生の半分を過ぎてしまった44歳のおばさんであり、明菜は気の遠くなるほどの未来を持ったセブンティーンだ。若者は過去を振り返らない。いつだって今に夢中だ。- 自分にもあったその頃を思い出し、由美子は、(基本やさしく)17歳になる娘と付き合っています。
ある日、その娘が母をどきりとさせる言葉を口にします。クリスマスイブの晩、友だちの家に泊まると言い出したのです。それは明菜にとって初めての外泊で、その夜処女を捨てる気だな、と由美子はすぐにピンときます。
・・・・明菜はその気でいる。友だちの家なんてうそだ。顔にそう書いてあった。ちゃんと目を見ないし、無理に明るく笑うし、汗をかいているし - 。誰だか知らないが、最近彼氏ができたことも知っている。その彼氏と初めてのセックスをしようとしている。同じ女だからわかってしまうのだ。
由美子ははたと困ります。自分は果たしてどんな態度をとるべきか。昔の親なら、「外泊などとんでもない」と目を吊り上げて許可しなければいいのでしょうが、そんなことをしたら親子関係はたちどころに悪化してしまいます。
問答無用で抑えつけたことはこれまで一度もありません。理解ある親でいたいと、彼女なりに努力していた中での出来事でした。
夫の幸彦には何があっても相談などできません。言おうものなら、怒り出すに決まっています。娘の純潔を信じて疑わない。男親とは総じてそういう種族なのです。説得するか、認めるか。認めるなら、いかにして幸彦を欺くか。残された選択はそれしかありません。
・・・・・・・・・
クリスマスイヴ、か - 。由美子はベランダで洗濯物を干しながら、ため息をついた。17歳の女の子が考えそうなことだ。明菜はきっと下着選びまで済ませていることだろう。その夜は髪をセットして、念入りに化粧をして、どこかの男子高校生に抱かれにいくのだ。
17歳か。あの頃、自分は誰に恋していただろう - 。
高3になってからは、隣のクラスの佐藤君を好きになった。あのときは佐藤君も自分に好意を寄せてくれ、何度かデートをした ・・・・ そうだ、ファーストキスも佐藤君だ。
思うと同時に、由美子は唖然とします。ファーストキスの相手すらも記憶の隅に追いやられるとは・・・四半世紀が過ぎるとはこういうことなのかと思い、改めてそのときしたキスのぎこちなさを思い出し、10年以上も見ていない卒業アルバムが見たくなります。
アルバムを閉じ、また段ボール箱にしまうと、つかの間、由美子は暖かい気持ちになります。あの頃あったあれやこれやを思い出し、由美子は - 心配することはない。みんな自力で青春期を乗り越えているのだ。自分も、そして明菜も - と思います。
一方、そんなことを思う母とは別に、(決行に向け)既に明菜は完璧な準備をし終えています。
この本を読んでみてください係数 80/100
◆奥田 英朗
1959年岐阜県岐阜市生まれ。
岐阜県立岐山高等学校卒業。プランナー、コピーライター、構成作家を経て小説家。
作品 「ウランバーナの森」「最悪」「邪魔」「空中ブランコ」「町長選挙」「沈黙の町で」「無理」「噂の女」「ナオミとカナコ」「向田理髪店」他多数
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