『愚者の毒』(宇佐美まこと)_書評という名の読書感想文

『愚者の毒』宇佐美 まこと 祥伝社文庫 2017年9月10日第4刷

愚者の毒 (祥伝社文庫)

1985年、上野の職安で出会った葉子と希美。互いに後ろ暗い過去を秘めながら、友情を深めてゆく。しかし、希美の紹介で葉子が家政婦として働き出した旧家の主の不審死をきっかけに、過去の因縁が二人に襲いかかる。全ての始まりは1965年、筑豊の廃坑集落で仕組まれた、陰惨な殺しだった・・・・・・・。絶望が招いた罪と転落。そして、裁きの形とは? 衝撃の傑作! (祥伝社文庫)

(2017年) 第70回日本推理作家協会賞長編部門および連作短編集部門受賞作 宇佐美まことの 『愚者の毒』 を読みました。たまたま読んだ 『るんびにの子供』 が面白かったので、著者の代表作の一番にあった本作を読みました。期待以上の出来に只々感動しています。解説の杉江恋松氏ではないですが、「また一冊、よい小説を読んだ。」 そんな気持ちになりました。

目次
第一章 武蔵野陰影
第二章 筑豊挽歌
第三章 伊豆溟海

1985年、35歳の香川葉子は職業安定所で起きた出来事が元で、生年月日がまったく同じという女性、石川希美と出会う。希美は、葉子とは別世界の住人のように洗練された女性だったがなぜかうまがあい、住み込みの家政婦という仕事まで紹介される。

世話をすることになったのは、難波寛和という男性だった。彼は難波家の婿養子であり、いずれは繊維メーカー・ナンバテックの経営者になることが決まっていた。しかし事情があり、彼を飛び越して妻である佳世子が先夫との間に儲けた長男・由起夫がその地位を継承したのである。(以下略)

葉子には達也という扶養家族がいた。自分の子供ではない。借金苦で心中した妹夫婦の忘れ形見である。両親が焼身自殺を遂げたという心的外傷によるものか、四歳になるのに達也はほとんど喋らず、心細いほどの意思疎通しかできない。

しかし、そんな彼に対しても難波家の父子は態度を変えることなく接してくれるのである。まるで本当の家族のように暖かい人間関係、そして邸のある武蔵野台地での穏やかな暮らしによって、疲れ切った葉子の心も次第に癒されていく。

- とここまでなら、この小説は 「葉子と達也」 が中心の話だと思うかもしれません。ところが、そうではないのです。二人は、この物語における 「最も重要な人物」 ではありますが、「主役」 ではありません。

武蔵野陰影と題された第一章は、右の (上の) ような過去の日々と、2015年夏の現在とがカットバックする形で綴られていく。この叙述の形式は第二章筑豊挽歌 においても継承される。ここで語られる過去は、1965年の筑豊地方、鉱山が閉じられたために住民全員が極貧の生活を強いられている集落の物語だ。二つの章、三つの作中時間が第三章 伊豆溟海で合流し、すべての謎が明らかになる。(解説より)

達也は、上手く話すことができません。医者からは 「精神発達遅滞では」 と言われたりもします。返せるあてのない借金を抱えた上に、葉子にとって達也は思った以上の負担になります。そんな状況を救ってくれたのが希美でした。

希美は、法律事務所で秘書のような仕事をしています。(それで十分ではないかと思うのですが) その頃彼女はある訳があり、転職しようと職業安定所に通っています。

生年月日がまるで同じ葉子と希美が出会ったのは、そして、とても “うまがあった” のは、ただの偶然だったのでしょうか? それとも、 “運命” だったのでしょうか。

実は、希美は、葉子のそれとは比較できないくらいの 「過去」 を抱えています。

葉子の過去と、希美の過去。最初葉子は、恥ずかしさのあまり、自分が抱える不幸の中身を隠しています。人目を忍び、目立たぬことで、達也とひっそり生きて行こうと考えています。

一方希美は、葉子が望む暮らしすらも手にすることができません。それには、彼女ともう一人の人物の、長い歴史に貼り付いた、捩れて解けようもない訳があります。そのことが、第二章以降に書いてあります。

この本を読んでみてください係数 85/100

愚者の毒 (祥伝社文庫)

◆宇佐美 まこと
1957年愛媛県松山市生まれ。
松山商科大学人文学部卒業。

作品 「虹色の童話」「入らずの森」「角の生えた帽子」「死はすぐそこの影の中」「熟れた月」「るんびにの子供」「ボニン浄土」他

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