『スリーパー/浸透工作員 警視庁公安部外事二課 ソトニ』(竹内明)_書評という名の読書感想文

『スリーパー/浸透工作員 警視庁公安部外事二課 ソトニ』竹内 明 講談社 2017年9月26日第一刷

母上様、あなたはどうして日本を捨て、北にやってきたのですか - 。

報道記者としても活躍する著者が放つ、リアル諜報ミステリ。

東京で、就活中の大学院生として、ごく普通の生活を送る青年・倉本龍哉。だが、彼の名前や戸籍、経歴は、すべてある国家によって用意され、与えられたものだった。豊かで平穏な日本での日常と、家族の暮らす祖国のギャップ。エリート工作員としての誇り。周囲には決して悟られぬよう、日本社会に「浸透」(チムツ)する緊張・・・・・・・。だが母親から、「日本でしてほしい」と頼まれた、ある願いが龍哉の運命を変えていく。

一方、「公安警察の狂犬」として外国スパイに恐れられながら、日本の上層部に巣食う潜入者=モグラの影に切り込み、警察組織を追われた外事二課のエース・筒見慶太郎は、指令を受けてバングラデシュ・ダッカのスラムで罠にかかり、殺人の嫌疑をかけられる。

交錯する筒見と龍哉の運命。日本と北朝鮮、対立する国家の狭間で引き裂かれた人々の思い。激闘の果てに、ふたりが辿り着いた驚愕の真実とは。

「目を醒ませ。本当のお前は、誰なのか - 」 (講談社BOOK倶楽部/内容紹介より)

龍哉が朝鮮人民軍偵察総局に採用されたのは、金日成総合大学の三年生、二十歳のときでした。金日成総合大学は、主体(チュチェ)思想で徹底的に武装し、党と首領に忠実な民族幹部の骨幹を養成する超エリート大学です。龍哉はその中でももっとも競争率の高い、自然科学部門、それも物理学科の学生でした。

龍哉は子供のころから「神童」(シンドン)と呼ばれて育ちます。高校まで数学、英語、物理、化学はずっと学年の一位か二位の成績。しかし、それでも全国の最優秀学生が集まる金日成総合大学への入学には大きな壁がありました。

端的に言えば、それはカネと出身成分。合格するには何より「血統」がものをいいます。龍哉の父は「高級中学校教師」、いわゆる中流階級で、決して裕福な家庭ではありません。大きなハンデを背負いながら、しかし龍哉は見事一発でこの最難関を突破してみせます。

一週間後、龍哉は平壌市近郊の山間にある小さな村に連れていかれます。鉄条網に囲まれた広大な敷地に、平屋建ての一軒家が点在しています。周囲からは隔離された、それが工作員の密封教育のために作られた「東北里(トンプクリ)三号招待所」だったのです。

「李東植(イドンシク)という本名は金輪際使うでない。おまえの名前はクラモトタツヤだ。誰にあってもこの名前以外使うな。いいな、倉本龍哉同志」- 党の幹部らしき人物からそう言われ、龍哉は訳もわからず頷くほかなすすべがありません。

この日を境に、朝鮮民主主義人民共和国人の李東植は、「日本人・倉本龍哉」に生まれ変わります。東北里三号招待所の十号棟にいて、龍哉は同い年の同僚・アツシと出会い、その後二ヶ月に亘り厳しい訓練を共にします。

そして二人は、海外での諜報活動を担当する第三局に配属されます。彼らの標的は日本 - 彼らの任務は、日本が米帝や南朝鮮傀儡とともに、反共和国の侵略策動に動いたとき、その動きをいち早く察知して、破壊工作によって紛糾すること -

勝利の時に備えて日本社会に浸透(チムツ)せよ」- そう指令が下されたのは、四年前のことです。
・・・・・・・・・
話は変わり、舞台は南アジアの「瘴癘地」(しょうれいち:不健康な開発途上国のこと)・バングラデシュへと場所を変えます。

筒見慶太郎は、在バングラデシュ日本国大使館警備対策官、元は警視庁公安部外事二課のエース(または「狂犬」)と呼ばれた男です。彼はダッカにおいて、ある作為に嵌められた結果、二人を殺した殺人犯として当局に拘束されることになります。

殺されたのは彼の部下のアリ・ホサインともう一人、神林貞夫という日本人男性。(神林貞夫は有名な俳優で、名だたる映画賞を総なめにしてきた名優として日本では誰もが知る人物です)

二人を殺害したとしてバングラデシュ軍参謀情報局(DGIF)に捕えられた筒見は、日本警察(警察庁)外事課理事官・瀬戸口大河の指揮の下、(外交関係に関するウィーン条約に基づき)かろうじて当局の拘束を免れることになります。

ようやくにして日本に戻った筒見は、(自分の嫌疑を晴らそうと)ある事件を追う中で、一人の青年の存在に行き着きます。それが倉本龍哉で、尾行するうちに、筒見は龍哉がただの大学院生ではないのに気付きます。

この本を読んでみてください係数  85/100

◆竹内 明
1969年神奈川県茅ケ崎市生まれ。
慶応義塾大学法学部卒業。

作品 「ドキュメント秘匿捜査 警視庁公安部スパイハンターの344日」「時効捜査 警視庁長官狙撃事件の深層」「マルトク 特別協力者 警視庁公安部外事二課」など

関連記事

『素敵な日本人』(東野圭吾)_ステイホームにはちょうどいい

『素敵な日本人』東野 圭吾 光文社文庫 2020年4月20日初版 一人娘の結婚を案

記事を読む

『グランドシャトー』(高殿円)_書評という名の読書感想文

『グランドシャトー』高殿 円 文春文庫 2023年7月25日第2刷 Osaka B

記事を読む

『改良』(遠野遥)_書評という名の読書感想文

『改良』遠野 遥 河出文庫 2022年1月20日初版発行 これが、芥川賞作家・遠野

記事を読む

『桜の首飾り』(千早茜)_書評という名の読書感想文

『桜の首飾り』千早 茜 実業之日本社文庫 2015年2月15日初版 あたたかい桜、冷たく微笑む

記事を読む

『夜中に台所でぼくはきみに話しかけたかった』(谷川俊太郎)_書評という名の読書感想文

『夜中に台所でぼくはきみに話しかけたかった』谷川 俊太郎 青土社 1975年9月20日初版発行

記事を読む

『その先の道に消える』(中村文則)_書評という名の読書感想文

『その先の道に消える』中村 文則 朝日新聞出版 2018年10月30日第一刷 帯に - 絡まりあ

記事を読む

『事件』(大岡昇平)_書評という名の読書感想文

『事件』大岡 昇平 創元推理文庫 2017年11月24日初版 1961年夏、神奈川県の山林で刺殺体

記事を読む

『砂上』(桜木紫乃)_書評という名の読書感想文 

『砂上』桜木 紫乃 角川文庫 2020年7月25日初版 「あなた、なぜ小説を書くん

記事を読む

『これが私の優しさです』(谷川俊太郎)_書評という名の読書感想文

『これが私の優しさです』谷川 俊太郎 集英社文庫 1993年1月25日第一刷 1952年のデ

記事を読む

『サンブンノニ』(木下半太)_書評という名の読書感想文

『サンブンノニ』木下 半太 角川文庫 2016年2月25日初版 銀行強盗で得た大金を山分けし、

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『錠剤F』(井上荒野)_書評という名の読書感想文

『錠剤F』井上 荒野 集英社 2024年1月15日 第1刷発行

『絞め殺しの樹』(河﨑秋子)_書評という名の読書感想文

『絞め殺しの樹』 河﨑 秋子 小学館文庫 2024年4月10日 初版

『つまらない住宅地のすべての家』(津村記久子)_書評という名の読書感想文

『つまらない住宅地のすべての家』津村 記久子 双葉文庫 2024年4

『悪逆』(黒川博行)_書評という名の読書感想文

『悪逆』黒川 博行 朝日新聞出版 2023年10月30日 第1刷発行

『エンド・オブ・ライフ』(佐々涼子)_書評という名の読書感想文

『エンド・オブ・ライフ』佐々 涼子 集英社文庫 2024年4月25日

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑