『空飛ぶタイヤ』(池井戸潤)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2024/01/14 『空飛ぶタイヤ』(池井戸潤), 作家別(あ行), 書評(さ行), 池井戸潤

『空飛ぶタイヤ』 池井戸 潤 実業之日本社 2008年8月10日第一刷

池井戸潤を知らない人でも「半沢直樹」は今や超が付く有名になりました。続いてTVドラマになった「ルーズベルト・ゲーム」 も個性的な役者が揃い、社会人野球と企業再生の大逆転ゲームに多くの視聴者が喝采したことでしょう。

書店へ行けば「半沢直樹シリーズ」はもとより、”池井戸潤祭り”は今も続いています。そんななかで、この本を手に取った方も多いのではないかと思います。

半沢直樹シリーズ(『オレたちバブル入行組』『オレたち花のバブル組』『ロスジェネの逆襲』『銀翼のイカロス』)が刊行されている同時期にこの小説も店頭に並んでいます。

これは調べてもいない推測ですが、出版当初はどちらかというと『空飛ぶタイヤ』の方が注目されていたような気がします。

出版されて日を置かずにWOWOWで連続ドラマ(主演:仲村トオル)として映像化されてもいるのです。

池井戸作品に共通するのは、働く組織の中で逆境に立たされた主人公が危機的状況を打開しようともがき苦しみ、脅威の粘りとおよそ考えが及ばない逆転の発想でみごとに窮地を脱して

みせるドラマチックな展開にあります。

この物語に登場する町場の小さな会社「赤松運送」の経営者赤松もそういう人物です。

32歳の主婦に走行中のトラックからはずれたタイヤが直撃し、主婦は亡くなってしまいます。

トラックの所有者は赤松運送、製造元は巨大メーカーのホープ自動車。

ホープ自動車が実施した事故原因調査の結果は「整備不良」でしたが、赤松は自社で行う整備に絶対的な自信を持ち調査のやり直しを主張するのですが、事は思うように進んではくれません。

やがて赤松は「整備不良」の見解を曲げないホープ自動車の態度に疑念を抱くようになります。

ホープ自動車が長く業績不振であること、過去に事故調査を実施した結果がすべからく「整備不良」として報告されている事実などが赤松の疑念を確かなものにしていきます。

これは仕組まれた「リコール隠し」ではないか。

ホープ自動車は、部品の不具合イコール製造責任をひたすら回避しようとしているのではないか。

確信に至った赤松は、組織ぐるみの不正を暴き、身の潔白を証明するために巨大企業へ果敢に挑んでいくのです。

追記
10月4日(土)にWOWOWでまた『空飛ぶタイヤ』やりますよ。本が苦手な方は、ぜひ。

この本を読んでみてください係数 90/100


◆池井戸 潤

1963年岐阜県生まれ。

慶應義塾大学文学部および法学部卒業。1988年三菱銀行(現・三菱東京UFJ銀行)に入行。

32歳で銀行を退職、コンサルタント業のかたわらビジネス書を執筆、その後小説家。

作品 「果つる底なき」「M1」「銀行狐」「最終退行」「不祥事」「シャイロックの子供たち」「鉄の骨」「民王」「下町ロケット」「七つの会議」ほか多数

関連記事

『海』(小川洋子)_書評という名の読書感想文

『海』小川 洋子 新潮文庫 2018年7月20日7刷 恋人の家を訪ねた青年が、海か

記事を読む

『あなたの本当の人生は』(大島真寿美)_書評という名の読書感想文

『あなたの本当の人生は』大島 真寿美 文春文庫 2019年8月1日第2刷 「書くこ

記事を読む

『さようなら、オレンジ』(岩城けい)_書評という名の読書感想文

『さようなら、オレンジ』岩城 けい ちくま文庫 2015年9月10日第一刷 オーストラリアに流

記事を読む

『アルマジロの手/宇能鴻一郎傑作短編集』(宇能鴻一郎)_書評という名の読書感想文

『アルマジロの手/宇能鴻一郎傑作短編集』宇能 鴻一郎 新潮文庫 2024年1月1日 発行 た

記事を読む

『夜の側に立つ』(小野寺史宜)_書評という名の読書感想文

『夜の側に立つ』小野寺 史宜 新潮文庫 2021年6月1日発行 恋、喪失、秘密。高

記事を読む

『むらさきのスカートの女』(今村夏子)_書評という名の読書感想文

『むらさきのスカートの女』今村 夏子 朝日新聞出版 2019年6月20日第1刷 近

記事を読む

『笹の舟で海をわたる』(角田光代)_書評という名の読書感想文

『笹の舟で海をわたる』角田 光代 毎日新聞社 2014年9月15日第一刷 終戦から10年、主人公・

記事を読む

『この世の喜びよ』(井戸川射子)_書評という名の読書感想文

『この世の喜びよ』井戸川 射子 講談社文庫 2024年10月16日 第1刷発行 第168回芥

記事を読む

『よみがえる百舌』(逢坂剛)_書評という名の読書感想文

『よみがえる百舌』逢坂 剛 集英社 1996年11月30日初版 『百舌の叫ぶ夜』から続くシリーズ

記事を読む

『ロコモーション』(朝倉かすみ)_書評という名の読書感想文

『ロコモーション』朝倉 かすみ 光文社文庫 2012年1月20日第一刷 小さなまちで、男の目を

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『連続殺人鬼カエル男 完結編』(中山七里)_書評という名の読書感想文

『連続殺人鬼カエル男 完結編』中山 七里 宝島社 2024年11月

『雪の花』(吉村昭)_書評という名の読書感想文

『雪の花』吉村 昭 新潮文庫 2024年12月10日 28刷

『歌舞伎町ゲノム 〈ジウ〉サーガ9 』(誉田哲也)_書評という名の読書感想文

『歌舞伎町ゲノム 〈ジウ〉サーガ9 』誉田 哲也 中公文庫 2021

『ノワール 硝子の太陽 〈ジウ〉サーガ8 』(誉田哲也)_書評という名の読書感想文

『ノワール 硝子の太陽 〈ジウ〉サーガ8 』誉田 哲也 中公文庫 2

『救いたくない命/俺たちは神じゃない2』(中山祐次郎)_書評という名の読書感想文

『救いたくない命/俺たちは神じゃない2』中山 祐次郎 新潮文庫 20

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑