『その愛の程度』(小野寺史宜)_書評という名の読書感想文

『その愛の程度』小野寺 史宜 講談社文庫 2019年9月13日第1刷

その愛の程度 (講談社文庫)

職場の親睦会を兼ねたバーベキュー。娘の菜月が溺れるのを見て、とっさに川に飛び込んだ豊永の腕の中にいたのは、娘ではなく別の女の子だった。「お父さんは菜月をたすけてくれなかったもん」 その日から、血のつながりのない娘は口をきいてくれなくなり、七歳上の妻との関係もぎくしゃくし始めてしまい・・・・・・・。期待の新鋭が描く、新しい家族と愛の形。

愛を証明せよ。
人類最大級の難問に豊永守彦35歳が対峙する。
(講談社BOOK倶楽部)

職場での話。豊永には二人で食事によく行く小池学くんという後輩がいます。小池くんは豊永の7つ下の28歳。彼が豊永を食事に誘うのは、それなりに理由があってのことでした。

食事の最中、小池くんは決まって自分の彼女の話をします。それはそれで構わないのですが、恋愛に関し、小池くんは 「かなり特異な」 考え方の持ち主で、彼の彼女に対する愛情の在り方は、事あるごとに豊永の意表をつきます。

品田くるみは、小池くんと同じ28歳。会社員。すごくきれい、らしい。
小池君が包み隠さず話すので、おれは小池くんと品田くるみのなれそめからこれまでのことを、おそらくほぼすべて知っている。

正直に言えば、小池くんが何故付き合っているのかわからない。
話を聞く限り、品田くるみはひどい女なのだ。二人が付き合っていなかったころでも、雨が降ってきただけで、小池くんを外出先の他県まで車で迎えに来させたりしたらしい。トイレの白熱電球が切れただけで、小池くんをアパートに呼びつけ、LED電球に交換させて、そのまま帰らせたりもしたらしい。その際、高価なLED電球代は払わなかったらしい。うまく立ちまわり、ぼくが出すよ、と小池くんに言わせたらしい。

こんな話を皮切りに、品田くるみは、小池くんに黙って小池くんの親友 (もちろん男性) と二人で飲みに行ったこと、自分の親友 (もちろん女性) とならいざ知らず、その弟と二泊三日の温泉旅行へ行ったこと、等々、およそ考えられない行動を平気でするにつけ、それでも彼女を庇い、彼女 (の言い分) を信じるという小池くんに対し、

豊永は目一杯のもどかしさを込め、心で、小池くん、学べよ。と叫ぶのでした。

二人の会話は微妙にズレたまま (そう感じているのは豊永だけですが)、難なく先へと進んでいきます。

豊永は、残念ながら小池くんが思うようにはいきません。年上の妻や血の繋がりのない娘に対し、(小池くんが品田くるみにするように) 半ば盲目的に愛せるかというと、そうはいきません。

相手を気遣うと、そこには自ずと溝が生じます。一度できてしまうと、溝はなかなか埋まりません。

愛とは、家族とは、親子とは、一体何なのでしょう? どんな愛し方をすれば、人を本当に愛することになるのでしょう。心から愛されていると、人は思うのでしょう。  

 

この本を読んでみてください係数 80/100

その愛の程度 (講談社文庫)

◆小野寺 史宜
1968年千葉県生まれ。
法政大学文学部英文学科卒業。

作品 2006年 「裏へ走り蹴り込め」 でオール讀物新人賞を受賞してデビュー。 「ROCKER」 で第3回ポプラ社小説大賞優秀賞受賞。「ひりつく夜の音」「本日も教官なり」「みつばの郵便屋さん」、本書を第一作目とする 「近いはずの人」「それ自体が奇跡」 の夫婦三部作など。2019年 「ひと」 で本屋大賞2位。

関連記事

『ロコモーション』(朝倉かすみ)_書評という名の読書感想文

『ロコモーション』朝倉 かすみ 光文社文庫 2012年1月20日第一刷 ロコモーション (光文

記事を読む

『私の家では何も起こらない』(恩田陸)_書評という名の読書感想文

『私の家では何も起こらない』恩田 陸 角川文庫 2016年11月25日初版 私の家では何も起こ

記事を読む

『るんびにの子供』(宇佐美まこと)_書評という名の読書感想文

『るんびにの子供』宇佐美 まこと 角川ホラー文庫 2020年8月25日初版 るんびにの子供

記事を読む

『貞子』(牧野修)_書評という名の読書感想文

『貞子』牧野 修 角川ホラー文庫 2019年4月29日初版 貞子 (角川ホラー文庫)

記事を読む

『ある一日』(いしいしんじ)_書評という名の読書感想文

『ある一日』いしい しんじ 新潮文庫 2014年8月1日発行 ある一日  

記事を読む

『百年泥』(石井遊佳)_書評という名の読書感想文

『百年泥』石井 遊佳 新潮文庫 2020年8月1日発行 百年泥(新潮文庫) 豪雨が続い

記事を読む

『推定脅威』(未須本有生)_書評という名の読書感想文

『推定脅威』未須本 有生 文春文庫 2016年6月10日第一刷 推定脅威  

記事を読む

『切羽へ』(井上荒野)_書評という名の読書感想文

『切羽へ』井上 荒野 新潮文庫 2010年11月1日発行 切羽へ (新潮文庫) &nbs

記事を読む

『十字架』(重松清)_書評という名の読書感想文

『十字架』重松 清 講談社文庫 2012年12月14日第一刷 十字架 (講談社文庫) &

記事を読む

『セイレーンの懺悔』(中山七里)_書評という名の読書感想文

『セイレーンの懺悔』中山 七里 小学館文庫 2020年8月10日初版 セイレーンの懺悔 (小

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

『太陽と毒ぐも』(角田光代)_書評という名の読書感想文

『太陽と毒ぐも』角田 光代 文春文庫 2021年7月10日新装版第1

『夏の終わりの時間割』(長岡弘樹)_書評という名の読書感想文

『夏の終わりの時間割』長岡 弘樹 講談社文庫 2021年7月15日第

『スイート・マイホーム』(神津凛子)_書評という名の読書感想文

『スイート・マイホーム』神津 凛子 講談社文庫 2021年6月15日

『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』(ブレイディみかこ)_書評という名の読書感想文

『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』ブレイディみかこ 新潮

『葦の浮船 新装版』(松本清張)_書評という名の読書感想文

『葦の浮船 新装版』松本 清張 角川文庫 2021年6月25日改版初

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑