『殺人者』(望月諒子)_書評という名の読書感想文

『殺人者』望月 諒子 新潮文庫 2022年11月1日発行

連続する猟奇殺人、殺害されたのは・・・・・・・ サスペンス史上に永遠に刻印される衝撃の結末! ベストセラー蟻の棲み家を超える戦慄!!

大阪で相次いだ猟奇殺人。被害者はいずれも男性で、ホテルで血まみれになり死んでいた。フリーのルポライター木部美智子は、警察に先んじて 「謎の女」 の存在に気がつく。綿密な取材を続け女の自宅へと迫る美智子。だが、そこでは信じられない光景が待ち受けていた。そして、さらなる殺人が発生し・・・・・・・事件の背景に隠された衝撃の真実とは!? 承認欲求、毒親、嫉妬など心の闇を描く傑作長編。(新潮文庫)

一見、味も素っ気も工夫もないタイトルに、実は、著者が敢えてそうした理由があります。その意図を汲み取って下さい。これまで 『蟻の棲み家』 『腐葉土』 『神の手』 と読みましたが、これが一番、まぎれもない傑作だと思います。

事件は猟奇的なものだった。大阪市内のホテルで三十二歳の男が全裸で部屋の便器に縛りつけられて殺されるという事件が起こった。続けて、やはり大阪のホテルで、これも三十二歳の男が素っ裸でぐるぐる巻きにされ、部屋の浴槽の中で殺されていた。二人はいずれも、性器を切り取られていた。この二人は同じ高校に通っていた。

我らが主人公のフリージャーナリスト、木部美智子はこの事件の取材依頼を週刊誌の編集長から受ける。そして、神戸へ向かう。彼女は事件に関係するさまざまな人間の話を聴く。事件関係者の周辺にいた人々は当然だが、地元の新聞記者から事情を聴くこともあれば、ライター仲間に情報を教えてもらうこともある。そんなふうにして少しずつ事件の核心に迫っていく。

望月諒子の筆はじっくりと物語を動かしていく。文章は読みやすくさっぱりしているのに、描写は丹念で粘り強い。それがいい。読者もゆっくりと事件と付き合うことになる。その間に、木部と共にさまざまなことを考えるのだ。

冒頭近くで、木部は小説を書こうと試みたことが明らかにされている。取材を続けて、早くも四十歳になった自分。そんな自分の心の空虚を埋めるには、もっと求心的に文章を書くしかないのではないか。自分の外から与えられる事件ではなく、自分が紡ぐ物語で、世界をとらえてみたい。そんな思いが彼女を小説に向かわせたのだろう。

しかし、結果は無惨だった。いくら小説を書こうとしても、空洞が広がる自分の内側からは、物語は生まれてこない。それで、今回の事件の取材をするために神戸へ向かったのだった。
ただ、ここで見逃せないのは、その空虚な心が木部を有能なジャーナリストにしていることだ。木部の獰猛なまでに事件に迫る姿は、この空虚な心がつくりだしているのではないだろうか。心の中の渇きが、旺盛な取材と深い推理の背景にあるのではないか。彼女はいわば捨て身で事件と向かい合っているのだ。
(解説より/重里徹也・元新聞記者・現文芸評論家)

今さらなのですが、「木部美智子」 というキャラクターに出合えたことを、心から感謝したいと思います。有能なライターである前に、彼女は人として信用できます。人を、安易には値踏みしません。その 「旺盛な取材と深い推理」 のもとに 「獰猛なまでに事件に迫る姿」 に、きっと魅了されるはずです。

この本を読んでみてください係数  85/100

◆望月 諒子
1959年愛媛県生まれ。兵庫県神戸市在住。
銀行勤務を経て、学習塾を経営。

作品 「神の手」「腐葉土」「大絵画展」「田崎教授の死を巡る桜子准教授の考察」「ソマリアの海賊」「哄う北斎」「蟻の棲み家」他多数

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