『緑の我が家』(小野不由美)_書評という名の読書感想文

『緑の我が家』小野 不由美 角川文庫 2022年10月25日初版発行

物語の冒頭はこうです。

ぼくこと高校一年生の荒川浩志は、一人暮らしをするためにハイツ・グリーンホーム へ引っ越してくる。父親が転勤を繰り返したため、一つところに長く住んだことのない浩志だったが、その町には一年ほどいたことがあった。ハイツ・グリーンホームで与えられた部屋は三階の九号室、ベランダからは小高い丘が見えて眺めは良かった。しかし、その丘の斜面に神社の鳥居があるのを見つけた途端、浩志は不快な感情を覚えてしまう。理由はわからないが、その神社は彼にとって足を踏み入れたくない禁忌の場所なのだった。

六号室に住む和泉聡という同年代の少年が馴れ馴れしく話しかけてきた。彼は初対面の浩志に出て行ったほうがいい と忠告してくるのである。和泉だけではなくハイツの住人には不可解な点が多く、浩志は幾度も不愉快な思いをする。建物の周囲には地面に奇妙な落書きをする子供が出没する。九号室に引いた電話には何者かが電話をかけてくる。初めは無言だったが、そのうち不気味な一言を呟くようになるのだ。とても快適とは言えない住環境、だが浩志はそこに住むしかない。帰ることのできる家は他にもうないからだ。(杉江松恋氏の解説より)

わけあって高校一年生の少年が一人暮らしをするというかなりレアな設定で、如何に家賃が安いとはいえ、下見もせずに見るからに薄気味悪い、路地のどんづまりにある緑色したアパートに、それでも住むと決めた浩志の決意がどうにも腑に落ちません。

帯に大きく 「なんでこんなに暗いんだ - ひどく嫌な気分がした。」 とあります。「袋小路に建つ幽霊アパートでおこる怪異の数々」 とも。

「本書は小野不由美が作家活動の初期に発表した、ホラー・ミステリーの秀作であり、何度も版元を改めて刊行されている」 らしい。思うに、主に時の少年少女 (若い世代) が好んで読んだのでしょうが、その支持するところは、思うに、ホラーでもミステリーでもないように感じられます。

読んだ多くの人はこの作品を、若かりし日の苦々しい思い出と共に “奇跡の物語” として記憶しているはずです。思うほどには、怖くありません。そして最後は、ハッピーエンドで終わります

この本を読んでみてください係数 80/100

◆小野 不由美
1960年大分県中津市生まれ。
大谷大学文学部仏教学科卒業。

作品 「東京異聞」「屍鬼」「黒祠の島」「残穢」「鬼談百景」「十二国記」シリーズ他多数

関連記事

『眠れない夜は体を脱いで』(彩瀬まる)_書評という名の読書感想文

『眠れない夜は体を脱いで』彩瀬 まる 中公文庫 2020年10月25日初版 自分の

記事を読む

『生皮/あるセクシャルハラスメントの光景』(井上荒野)_書評という名の読書感想文

『生皮/あるセクシャルハラスメントの光景』井上 荒野 朝日新聞出版 2022年4月30日第1刷

記事を読む

『岬』(中上健次)_書評という名の読書感想文

『岬』中上 健次 文春文庫 1978年12月25日第一刷 昭和21年(1946年)8月2日、

記事を読む

『ほどけるとける』(大島真寿美)_彼女がまだ何者でもない頃の話

『ほどけるとける』大島 真寿美 角川文庫 2019年12月25日初版 どうにも先が

記事を読む

『身分帳』(佐木隆三)_書評という名の読書感想文

『身分帳』佐木 隆三 講談社文庫 2020年7月15日第1刷 人生の大半を獄中で過

記事を読む

『もっと超越した所へ。』(根本宗子)_書評という名の読書感想文

『もっと超越した所へ。』根本 宗子 徳間文庫 2022年9月15日初刷 肯定する力

記事を読む

『悪いものが、来ませんように』(芦沢央)_書評という名の読書感想文

『悪いものが、来ませんように』芦沢 央 角川文庫 2016年8月25日発行 大志の平らな胸に、紗

記事を読む

『虫娘』(井上荒野)_書評という名の読書感想文

『虫娘』井上 荒野 小学館文庫 2017年2月12日初版 四月の雪の日。あの夜、シェアハウスで開か

記事を読む

『藻屑蟹』(赤松利市)_書評という名の読書感想文

『藻屑蟹』赤松 利市 徳間文庫 2019年3月15日初刷 一号機が爆発した。原発事

記事を読む

『ほかに誰がいる』(朝倉かすみ)_書評という名の読書感想文

『ほかに誰がいる』朝倉 かすみ 幻冬舎文庫 2011年7月25日5版 あのひとのこと

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『海神 (わだつみ)』(染井為人)_書評という名の読書感想文

『海神 (わだつみ)』染井 為人 光文社文庫 2024年2月20日

『百年と一日』(柴崎友香)_書評という名の読書感想文

『百年と一日』柴崎 友香 ちくま文庫 2024年3月10日 第1刷発

『燕は戻ってこない』(桐野夏生)_書評という名の読書感想文

『燕は戻ってこない』桐野 夏生 集英社文庫 2024年3月25日 第

『羊は安らかに草を食み』(宇佐美まこと)_書評という名の読書感想文

『羊は安らかに草を食み』宇佐美 まこと 祥伝社文庫 2024年3月2

『逆転美人』(藤崎翔)_書評という名の読書感想文

『逆転美人』藤崎 翔 双葉文庫 2024年2月13日第15刷 発行

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑