『流浪の月』(凪良ゆう)_デジタルタトゥーという消えない烙印

公開日: : 最終更新日:2024/01/08 『流浪の月』(凪良ゆう), 作家別(な行), 凪良ゆう, 書評(ら行)

『流浪の月』凪良 ゆう 東京創元社 2020年4月3日6版

せっかくの善意を、わたしは捨てていく。
そんなものでは、わたしはかけらも救われない。

あなたと共にいることを、世界中の誰もが反対し、批判するはずだ。わたしを心配するからこそ、誰もがわたしの話に耳を傾けないだろう。それでも文、わたしはあなたのそばにいたい - 。再会すべきではなかったかもしれない男女がもう一度出会ったとき、運命は周囲の人を巻き込みながら疾走を始める。新しい人間関係への旅立ちを描き、実力作家が遺憾なく本領を発揮した、息をのむ傑作小説。(東京創元社)

2020年 本屋大賞受賞作、凪良ゆうの 『流浪の月』 を読みました。

わたしは文に恋をしていない。キスもしない。抱き合うことも望まない。
けれど今まで身体をつないだ誰よりも、文と一緒にいたい。
ぬるい涙があとからあとから湧いて、文と初めて言葉を交わしたときに降っていた雨のように、わたしのすべてを濡らしてほぐしていった。

私と文の関係を表す適切な、世間が納得する名前はなにもない。(本文より)

当時9歳の少女だった家内更紗は、父が亡くなり母が姿を消したあと、伯母の家で暮らすことになります。公園にいたのは、伯母の家に帰りたくなかったからでした。原因は全て伯母の家にいた中二の一人息子、孝弘のせいです。

「うちにくる? 」 その問いは、恵みの雨のように彼女の上に降ってきたのでした。

頭のてっぺんから爪先まで、甘くて冷たいものに浸されていく。全身を覆っていた不快さが洗い流されていく。

「いく」 と言ったのは、更紗の方でした。

更紗を誘拐し、監禁したとして逮捕されたのは19歳の大学生、佐伯文でした。彼は小児性愛者ではあるものの、その性癖に対し、世間が思う一般的なイメージとは凡そ異次元で生きています。彼は更紗の手さえ触れません。触れるのを、どこか恐れています。

物語は、事実は誤認され、本人たちはそれをそうとは語らぬままに、あるいは語れぬままに進んでいきます。更紗も文も、実は今あることの真実は、二人が起こした事件の前にあります。

この本を読んでみてください係数 85/100

◆凪良 ゆう
47歳。滋賀県生まれ、京都市在住。

作品 「花嫁はマリッジブルー」でデビュー。以降、各社でBL作品を精力的に刊行。主な作品に 「未完成」「真夜中クロニクル」「365+1」「美しい彼」他多数

関連記事

『百瀬、こっちを向いて。』(中田永一)_書評という名の読書感想文

『百瀬、こっちを向いて。』中田 永一 祥伝社文庫 2010年9月5日初版 「人間レベル2」 の僕は

記事を読む

『炎上する君』(西加奈子)_書評という名の読書感想文

『炎上する君』西 加奈子 角川文庫 2012年11月25日初版 「君は戦闘にいる。恋という戦闘のさ

記事を読む

『らんちう』(赤松利市)_書評という名の読書感想文

『らんちう』赤松 利市 双葉社 2018年11月25日第一刷 「犯人はここにいる全員です」 あな

記事を読む

『通天閣』(西加奈子)_書評という名の読書感想文

『通天閣』西 加奈子 ちくま文庫 2009年12月10日第一刷 織田作之助賞受賞作だと聞くと

記事を読む

『眺望絶佳』(中島京子)_書評という名の読書感想文

『眺望絶佳』中島 京子 角川文庫 2015年1月25日初版 藤野可織が書いている解説に、とて

記事を読む

『嗤う淑女 二人 』(中山七里)_書評という名の読書感想文

『嗤う淑女 二人 』中山 七里 実業之日本社文庫 2024年7月20日 初版第1刷発行 連続

記事を読む

『ラスプーチンの庭/刑事犬養隼人』(中山七里)_書評という名の読書感想文

『ラスプーチンの庭/刑事犬養隼人』中山 七里 角川文庫 2023年8月25日初版発行

記事を読む

『八月六日上々天氣』(長野まゆみ)_書評という名の読書感想文

『八月六日上々天氣』長野 まゆみ 河出文庫 2011年7月10日初版 昭和20年8月6日、広島は雲

記事を読む

『夏の終わりの時間割』(長岡弘樹)_書評という名の読書感想文

『夏の終わりの時間割』長岡 弘樹 講談社文庫 2021年7月15日第1刷 小学六年

記事を読む

『もっと超越した所へ。』(根本宗子)_書評という名の読書感想文

『もっと超越した所へ。』根本 宗子 徳間文庫 2022年9月15日初刷 肯定する力

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『ケモノの城』(誉田哲也)_書評という名の読書感想文

『ケモノの城』誉田 哲也 双葉文庫 2021年4月20日 第15刷発

『嗤う淑女 二人 』(中山七里)_書評という名の読書感想文

『嗤う淑女 二人 』中山 七里 実業之日本社文庫 2024年7月20

『闇祓 Yami-Hara』(辻村深月)_書評という名の読書感想文

『闇祓 Yami-Hara』辻村 深月 角川文庫 2024年6月25

『地雷グリコ』(青崎有吾)_書評という名の読書感想文 

『地雷グリコ』青崎 有吾 角川書店 2024年6月20日 8版発行

『アルジャーノンに花束を/新版』(ダニエル・キイス)_書評という名の読書感想文

『アルジャーノンに花束を/新版』ダニエル・キイス 小尾芙佐訳 ハヤカ

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑