『夏の終わりの時間割』(長岡弘樹)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2024/01/07 『夏の終わりの時間割』(長岡弘樹), 作家別(な行), 書評(な行), 長岡弘樹

『夏の終わりの時間割』長岡 弘樹 講談社文庫 2021年7月15日第1刷

小学六年生の祥と放火容疑をかけられた知的障害のある信。二人の少年の友情を綴る表題作はじめ、困難に直面した様々な境遇の人々を描く六編。彼らの不自然な行動に隠された 「想い」 とは? 意外な真相と心に染みる人間模様。短編の名手が贈る、ほろ苦くも優しく温かなミステリ集。〈『救済 SAVEを改題〉 (講談社文庫)

[目次]
1.三色の貌 (かたち)
2.最期の晩餐
3.ガラスの向こう側
4.空目虫
5.焦げた食パン
6.夏の終わりの時間割

本書は2018年に刊行された 『救済 SAVE』 の改題・文庫化である。
収録されている短編は6編。それぞれ関連性のないノンシリーズ作品だ。と言いつつ、実は共通して使われているモチーフがあるのだが、それはのちほど。

震災後に失業した主人公が、かつて働いていた会社の総務課長から再雇用を持ちかけられる 「三色の貌」。ヒットマンがターゲットを殺す前に好きな料理をご馳走するというヤクザの習わしを描く 「最期の晩餐」。元鑑識官という経験を利用し、犯行現場からすべての証拠を除去した男の 「ガラスの向こう側」、介護福祉士が入居者を笑顔にするべく奮闘する 「空目虫」、ノビ師 (空き巣狙い) が以前大金をせしめた家にもう一度侵入を試みる 「焦げた食パン」、そして知的障碍のある19歳の男性と小学6年生の少年の友情を綴った表題作。(解説より)

6編共に、必ずや、あなたの意表を突くことでしょう。誰もにあるべき善意を試すように。胸にしまった内なる声に、気付けとばかりに。

私は先ほど、本書に収録されているのはそれぞれ関連性のないノンシリーズ短編だが、実は共通して使われているモチーフがある、と書いた。いずれもそれが物語の真相に関わっているので具体的には書けないが、本書収録作はすべて主要人物 (視点人物とは限らない) が、自分ではどうすることもできない現実の中にいるということだ。努力でどうにかなるような問題ではなく、ただ受け入れるしかない現実、属性、と言ってもいい。
その属性はいずれも扱い方ひとつで、とても残酷な物語になる。ミステリの仕掛けにその属性が使われる場合、本来なら、どれほどミステリとして優れていても後味の悪さがつきまとうはずだ。
ところが本書では、そうはならない。なぜ登場人物はそんな行動をとったのか、その人物は何を隠しているのかがわかったとき、そこに込められた誰かを思いやる気持ちや、誰かを救いたいと思う情が、浮かび上がってくるから。

空目虫のラストに明かされる真相をご覧いただきたい。なんと残酷で、なんとやるせない結末だろう。だが読者はその中に、一条の光を見るはずだ。(後略/解説の続き)

最終話 「夏の終わりの時間割」 に登場する祥と信の関係、歳の離れた二人の友情の在り処を、ぜひご自身で確かめてください。結末に、泣くかもしれません。

この本を読んでみてください係数 85/100

◆長岡 弘樹
1969年山形県山形市生まれ。
筑波大学第一学群社会学類卒業。

作品 「陽だまりの偽り」「傍聞き」「教場」「教場2 」「線の波紋」「波形の声」「群青のタンデム」「白衣の嘘」「血縁」「にらみ」他

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