『スイート・マイホーム』(神津凛子)_書評という名の読書感想文
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『スイート・マイホーム』(神津凛子), 作家別(か行), 書評(さ行), 神津凛子
『スイート・マイホーム』神津 凛子 講談社文庫 2021年6月15日第1刷
隙間風に苛まれる日々を脱すべく、念願の家を購入した賢二。愛する妻と娘と引っ越したそこは、暖かくて快適な、まさに 「まほうの家」 - だったはずなのに。立て続けに起こる異変と、家中に漂う見知らぬ誰かの気配が、一家を恐怖の淵に追い詰める。そして、とうとう死者が。この悪夢の先に待ち受けているものとは。(講談社文庫)
[目次]
第一章 あたたかい家
第二章 リソウの家
第三章 まほうの家
彼女が狂ってゆく。
それはじわりじわりと彼女を侵食し、
狂気しか持たぬ人間ならざるものに変えた。
間近でそれを見ていた私も直に狂うだろう。
行く着く世界で見るものは一体何だろう。
この世に生を受けた意味も分からぬまま逝ったあの子は
そこにいるだろうか。死んだら逢えるだろうか。
死なねば逢えぬだろうか。死ぬなら我が家へ帰ろう。
かつて信じていたスイート・マイホームへ。 〈本文より〉
第13回小説現代長編新人賞受賞作・神津凛子の 『スイート・マイホーム』 を読みました。
念願が叶い、望み通りに建てた真新しい平屋の一軒家に移り住んでまだ日も浅い、ある日のことでした。賢二とひとみとサチとユキ - 若い夫婦と幼い娘二人の四人家族は、これから始まる 「際立つ恐怖」 の連続とその顛末を、まだ知る由もありません。
日毎聞こえる出所不明の物音に、家中に漂う見知らぬ誰かの気配に - 。
一体この家では何が起きているの?
物語は、家族が抱く疑心暗鬼に始まり、途中紆余曲折を繰り返し、結果背筋が凍るほどの結末を迎えます。震えながら読んでください。
※賢二が建てたのは、長野の厳しい冬の寒さを物ともしない、一風変わった設備の家でした。但し、その家に何か特別な不都合や不具合等があったわけではありません。望んだ通り、一家は快適な暮らしを手に入れたのでした。
あくまでも、問題は 「人」 にあります。家を売った人、買った人それぞれに、事情があります。各々に、弁解や悔恨、譲れない言い分があります。それが節度を超え、狂気を超えて、他人や自分の子供にまで害が及ぶことになります。
この本を読んでみてください係数 85/100
◆神津 凛子
1979年長野県生まれ。
歯科衛生専門学校卒。
作品 2018年、『スイート・マイホーム』 (本作) で第13回小説現代長編新人賞を受賞し、デビュー。他に 『ママ』 がある。
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