『笑え、シャイロック』(中山七里)_書評という名の読書感想文
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最終更新日:2024/01/07
『笑え、シャイロック』(中山七里), 中山七里, 作家別(な行), 書評(わ行)
『笑え、シャイロック』中山 七里 角川文庫 2020年10月25日初版
入行三年目の銀行員・結城が配属されたのは、日陰部署と囁かれる渉外部。落胆する結城はある日、上司である伝説の不良債権回収屋・山賀に伴われ、小さな町工場を訪ねる。多額の負債を抱え破産寸前の工場を、山賀は鮮やかな交渉術で救うことに成功。山賀の美学に惚れ込んだ結城は、彼の背中を追い業務に邁進する。だが、山賀が何者かに殺され - 。巨大銀行の闇に立ち向かう男たちの熱き想いが炸裂する渾身の金融ミステリ! (角川文庫)
帝都第一銀行に勤務する結城真悟は、勤続三年目の春に異動の内示を受けた。それまでは都内の大型店舗で営業部に属し、自分では出世競争で同期に一歩先んじていると認識していた結城は落胆する。移動先が新宿支店の渉外部だったからである。債権を回収し、そのカネをまた融資に回す。営業部が銀行の表道だとすれば、渉外部は裏道である。どちらも必要な業務だと頭で理解はしたものの、心で納得するには程遠い。
そんな挫折感を覚えながら渉外部での仕事を始めた結城だったが、山賀雄平という先輩社員との出会いによって蒙を啓かれる。彼は役職こそ課長代理だが、債権回収に関しては右に出る者のない腕前で、ウィリアム・シェイクスピアの戯曲に登場する金貸しに因んだ 〈シャイロック山賀〉 なる異名を奉られているほどなのだ。
「この世で一番大事なものはカネだ」 と言い放つ山賀は、利息支払いを滞らせた債務者に対して破産申し立てを進めるなど、容赦ない態度に出る。結城の目にもその姿はあだな通りの守銭奴と映ったが、やがて山賀の行動は金融業務についての確固たる思想に貫かれていることを理解するようになる。(解説より)
銀行業務の中で、ある意味 「債権回収」 ほど地味な仕事はありません。成果をあげたとしても、新規で契約を取ったほどには評価されません。褒められもしません。但し、(回収にかかる) 進捗管理に関しては、営業成績同様、日々厳しいチェックを受けます。
中で、最も悩ましいのが 「不良債権」 で、社員の誰もがしたくないのが、その 「回収業務」 です。山賀雄平はそのスペシャリストであり、山賀の仕事に強く刺激を受けた後任の結城真悟は、山賀の意志を継ぐべく、彼が抱えた不良債権の回収業務に乗り出します。
以下は、その明細。
第一章 わらしべ長者 *山賀と結城の同伴案件
・債務者 1 柏田卓巳、51歳。48歳で出版社を早期退職。以後、無職。自称デイトレーダー。負債額 約500万円。
・債務者 2 土屋公太郎、70歳。町工場 〈インダストリア工業〉 代表取締役社長。従業員は土屋を含め全部で6名。高級スピーカーのユニットを製造し、国内のオーディオメーカーに卸している。貸付金1億4,000万円の内、8,000万円が延滞となっている。
第二章 後継者
・債務者 3 海江田物産/二代目社長・海江田大二郎 土地投機による損失。負債残高 約20億円。
第三章 振興衆狂
・債務者 4 奨道館/神農帯刀を教祖と崇める新興の宗教法人 館長 稲尾忠道 負債は支部の建設費用 約20億円。
第四章 タダの人
・債務者 5 前国会議員・椎名武郎 政治資金10億円の負債に対し、評価額100万円の絵画が担保。現在、返済能力なし。
第五章 人 狂 (にんきょう)
・債務者 6 アーカル・エステート 代表取締役・柳場彰夫/指定暴力団宏龍会のフロント企業 市街地再開発による土地買収資金の残債務 55億円。
※回収方法は常に奇想天外。裏に、銀行が抱える大きな闇が隠れています。
この本を読んでみてください係数 85/100
◆中山 七里
1961年岐阜県生まれ。
花園大学文学部国文科卒業。
作品 「切り裂きジャックの告白」「七色の毒」「さよならドビュッシー」「闘う君の唄を」「嗤う淑女」「魔女は甦る」「連続殺人鬼カエル男」「セイレーンの懺悔」他多数
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