『笑え、シャイロック』(中山七里)_書評という名の読書感想文

『笑え、シャイロック』中山 七里 角川文庫 2020年10月25日初版

笑え、シャイロック (角川文庫)

入行三年目の銀行員・結城が配属されたのは、日陰部署と囁かれる渉外部。落胆する結城はある日、上司である伝説の不良債権回収屋・山賀に伴われ、小さな町工場を訪ねる。多額の負債を抱え破産寸前の工場を、山賀は鮮やかな交渉術で救うことに成功。山賀の美学に惚れ込んだ結城は、彼の背中を追い業務に邁進する。だが、山賀が何者かに殺され - 。巨大銀行の闇に立ち向かう男たちの熱き想いが炸裂する渾身の金融ミステリ! (角川文庫)

帝都第一銀行に勤務する結城真悟は、勤続三年目の春に異動の内示を受けた。それまでは都内の大型店舗で営業部に属し、自分では出世競争で同期に一歩先んじていると認識していた結城は落胆する。移動先が新宿支店の渉外部だったからである。債権を回収し、そのカネをまた融資に回す。営業部が銀行の表道だとすれば、渉外部は裏道である。どちらも必要な業務だと頭で理解はしたものの、心で納得するには程遠い。

そんな挫折感を覚えながら渉外部での仕事を始めた結城だったが、山賀雄平という先輩社員との出会いによって蒙を啓かれる。彼は役職こそ課長代理だが、債権回収に関しては右に出る者のない腕前で、ウィリアム・シェイクスピアの戯曲に登場する金貸しに因んだ シャイロック山賀 なる異名を奉られているほどなのだ。

この世で一番大事なものはカネだ と言い放つ山賀は、利息支払いを滞らせた債務者に対して破産申し立てを進めるなど、容赦ない態度に出る。結城の目にもその姿はあだな通りの守銭奴と映ったが、やがて山賀の行動は金融業務についての確固たる思想に貫かれていることを理解するようになる。(解説より)

銀行業務の中で、ある意味 「債権回収」 ほど地味な仕事はありません。成果をあげたとしても、新規で契約を取ったほどには評価されません。褒められもしません。但し、(回収にかかる) 進捗管理に関しては、営業成績同様、日々厳しいチェックを受けます。

中で、最も悩ましいのが 「不良債権」 で、社員の誰もがしたくないのが、その 「回収業務」 です。山賀雄平はそのスペシャリストであり、山賀の仕事に強く刺激を受けた後任の結城真悟は、山賀の意志を継ぐべく、彼が抱えた不良債権の回収業務に乗り出します。

以下は、その明細。

第一章 わらしべ長者  *山賀と結城の同伴案件
・債務者 1 柏田卓巳、51歳。48歳で出版社を早期退職。以後、無職。自称デイトレーダー。負債額 約500万円。
・債務者 2 土屋公太郎、70歳。町工場 〈インダストリア工業〉 代表取締役社長。従業員は土屋を含め全部で6名。高級スピーカーのユニットを製造し、国内のオーディオメーカーに卸している。貸付金1億4,000万円の内、8,000万円が延滞となっている。

第二章 後継者
・債務者 3 海江田物産/二代目社長・海江田大二郎 土地投機による損失。負債残高 約20億円。

第三章 振興衆狂
・債務者 4 奨道館/神農帯刀を教祖と崇める新興の宗教法人 館長 稲尾忠道 負債は支部の建設費用 約20億円。

第四章 タダの人
・債務者 5 前国会議員・椎名武郎 政治資金10億円の負債に対し、評価額100万円の絵画が担保。現在、返済能力なし。

第五章 人 狂 (にんきょう)
・債務者 6 アーカル・エステート 代表取締役・柳場彰夫/指定暴力団宏龍会のフロント企業 市街地再開発による土地買収資金の残債務 55億円。

※回収方法は常に奇想天外。裏に、銀行が抱える大きな闇が隠れています。

この本を読んでみてください係数 85/100

笑え、シャイロック (角川文庫)

◆中山 七里
1961年岐阜県生まれ。
花園大学文学部国文科卒業。

作品 「切り裂きジャックの告白」「七色の毒」「さよならドビュッシー」「闘う君の唄を」「嗤う淑女」「魔女は甦る」「連続殺人鬼カエル男」「セイレーンの懺悔」他多数

関連記事

『ドクター・デスの遺産』(中山七里)_書評という名の読書感想文

『ドクター・デスの遺産』中山 七里 角川文庫 2020年5月15日4版発行 ドクター・デスの

記事を読む

『 i (アイ)』(西加奈子)_西加奈子の新たなる代表作

『 i (アイ)』西 加奈子 ポプラ文庫 2019年11月5日第1刷 (2-1)i (ポプラ

記事を読む

『うつくしい人』(西加奈子)_書評という名の読書感想文

『うつくしい人』西 加奈子 幻冬舎文庫 2011年8月5日初版 うつくしい人 (幻冬舎文庫)

記事を読む

『形影相弔・歪んだ忌日』(西村賢太)_書評という名の読書感想文

『形影相弔・歪んだ忌日』西村 賢太 新潮文庫 2016年1月1日発行 形影相弔・歪んだ忌日 (

記事を読む

『作家刑事毒島』(中山七里)_書評という名の読書感想文

『作家刑事毒島』中山 七里 幻冬舎文庫 2018年10月10日初版 作家刑事毒島 (幻冬舎文庫

記事を読む

『猫鳴り』沼田まほかる_書評という名の読書感想文

『猫鳴り』 沼田 まほかる 双葉文庫 2010年9月19日第一刷 猫鳴り (双葉文庫)

記事を読む

『逃亡刑事』(中山七里)_書評という名の読書感想文

『逃亡刑事』中山 七里 PHP文芸文庫 2020年7月2日第1刷 逃亡刑事 単独で麻薬

記事を読む

『我らが少女A』(高村薫)_書評という名の読書感想文

『我らが少女A』高村 薫 毎日新聞出版 2019年7月30日発行 我らが少女A 一人の

記事を読む

『嗤う淑女』(中山七里)_書評という名の読書感想文

『嗤う淑女』中山 七里 実業之日本社文庫 2018年4月25日第6刷 嗤う淑女 (実業之日本

記事を読む

『夢魔去りぬ』(西村賢太)_書評という名の読書感想文

『夢魔去りぬ』西村 賢太 講談社文庫 2018年1月16日第一刷 夢魔去りぬ (講談社文庫)

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

『おもかげ』(浅田次郎)_書評という名の読書感想文

『おもかげ』浅田 次郎 講談社文庫 2021年2月17日第4刷発行

『ぼくがきみを殺すまで』(あさのあつこ)_書評という名の読書感想文

『ぼくがきみを殺すまで』あさの あつこ 朝日文庫 2021年3月30

『52ヘルツのクジラたち』(町田そのこ)_書評という名の読書感想文

『52ヘルツのクジラたち』町田 そのこ 中央公論新社 2021年4月

『夜空に泳ぐチョコレートグラミー』(町田そのこ)_書評という名の読書感想文

『夜空に泳ぐチョコレートグラミー』町田 そのこ 新潮文庫 2021年

『リバース&リバース』(奥田亜希子)_書評という名の読書感想文

『リバース&リバース』奥田 亜希子 新潮文庫 2021年4月1日発行

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑