『ダンデライオン』(中田永一)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2024/01/10 『ダンデライオン』(中田永一), 中田永一, 作家別(な行), 書評(た行)

『ダンデライオン』中田 永一 小学館 2018年10月30日初版

「くちびるに歌を」 以来7年ぶりの長編小説

11歳の下野蓮司はある日、病院で目覚めると大人の姿になっていた。20年の歳月が流れていた。そこに恋人と名乗る西園小春が姿を現わす。子ども時代と大人時代の一日が交換されたのだ、と彼女は話した。
一方、20年後の蓮司は11歳の自分の体に送り込まれていた。ある目的を達成するために、彼は急いでいた。残された時間は半日に満たないものだった - 。

ミリ単位でひかれた、切なさの設計図。著者だからこそできた、完全犯罪のような青春ミステリーの誕生。(小学館ウェブサイトより)

僕たちは一日を交換した。
そうかんがえるとわかりやすい。
少年時代の僕と、大人になった僕の一日が入れ替わった。
偶然に頭をぶつけた一日が存在して、その日だけ交換されたのだ。
少年時代の一日を借りて、僕にはやりたいことがある。

これはある意味、おそろしく持って回った、とてもややこしい、ある “恋” の物語です。

20年という歳月の後、下野蓮司(かばた・れんじ)は、かつて彼が11歳の少年だった頃、一家を襲ったある凶悪事件によって殺されそうになった一人の少女、西園小春に恋をします。小春はその事件で両親を殺され、彼女だけが生き残ります。

小春の命を救ったのは蓮司でした。但し、大人になった彼の前に彼女が現れた時、最初蓮司は、彼女が “西園小春” だとは気付きもしません。なのに彼女は、蓮司を知っていると言います。その上二人はやがて結婚するのだと。蓮司は何が何だか、訳がわかりません。

(場面は変わり) それは宮城県の海沿いの町にいたはずの蓮司が、突然背後から何者かに殴られ、気絶し、気付くと新宿のとある病院のベッドで眠りから覚めた後のことでした。

目覚める前に蓮司が覚えていた最後の光景は、何より好きな野球をしていた時のものでした。それが、1999年のことです。

ところが医師は 「今は西暦2019年。きみは頭を殴打された衝撃で記憶障害が起きている。いつのまにか自分が大人になってしまったように感じられているかもしれないが、実際はここ20年間のことをおもいだせないのだとおもう」 と診断を下します。

そう言われてもすぐには納得できない蓮司に対し、医師は 「そういえば、きみに渡さなくてはいけないものがある」 と言い、看護婦が持ってきたのは厚みのあるA4サイズほどの封筒でした。

蓮司が病院に搬送されてきた時、彼の腹にはその封筒が貼り付けてあり、中に一枚の便箋、数枚の紙幣、それとテープレコーダーが入っていました。テープレコーダーにはカセットテープがセットしてあり、再生ボタンを押すと、聞こえてきたのは男性の声で、

こんにちは下野蓮司くん。
きみは戸惑っているかもしれないが、その気持ちはよくわかっているつもりだ。
なぜなら僕もずっと以前におなじ状況を体験したから。

説明がむずかしいけど、加藤先生から言われたような記憶障害なんかじゃない。
きみは確かに11歳の下野蓮司なんだ。
練習試合で頭にボールを受けたせいだと思う。
この現象について僕は様々な推測をたててみた。
だけど今はゆっくりと説明することはできない。
なぜならきみのいる病室に、そろそろおむかえが来るからだ。
11歳の下野蓮司、靴を履いて、壁にかけてあるスーツの上着を着てほしい。

さらに続けてテープの声は、

僕はきみだ。大人になった下野蓮司だ。きみの今の状況は11歳のときに体験している。だから、きみの混乱はよくわかっているつもりだ。- と告げます。

すべての始まりは 2019年10月21日零時。その時蓮司は、駅から続く遊歩道の途中にある噴水近くのベンチに腰かけています。手には一枚のメモがあり、彼は  “その瞬間” を待っています。メモにはこう書いてあり、それはその通りに起こり、直後、蓮司は意識をなくします。

2019 – 10 – 21   0:04
ベンチで待機
パトカーの音
犬が三度鳴く
背後から殴られる

この本を読んでみてください係数 85/100

◆中田 永一
1978年福岡県生まれ。本名は安達寛高。
豊橋技術科学大学工学部卒業。別名義で乙一としても執筆している。

作品 「百瀬、こっちを向いて。」「吉祥寺の朝日奈くん」「くちびるに歌を」「私は存在が空気」他

関連記事

『D R Y』(原田ひ香)_書評という名の読書感想文

『D R Y』原田 ひ香 光文社文庫 2022年12月20日初版第1刷発行 お金が

記事を読む

『形影相弔・歪んだ忌日』(西村賢太)_書評という名の読書感想文

『形影相弔・歪んだ忌日』西村 賢太 新潮文庫 2016年1月1日発行 僅かに虚名が上がり、アブ

記事を読む

『ついでにジェントルメン』(柚木麻子)_書評という名の読書感想文

『ついでにジェントルメン』柚木 麻子 文春文庫 2025年1月10日 第1刷 美食 整形 貧

記事を読む

『血縁』(長岡弘樹)_書評という名の読書感想文

『血縁』長岡 弘樹 集英社文庫 2019年9月25日第1刷 コンビニの店員が男にナ

記事を読む

『ちょっと今から仕事やめてくる』(北川恵海)_書評という名の読書感想文

『ちょっと今から仕事やめてくる』北川 恵海 メディアワークス文庫 2015年2月25日初版 こ

記事を読む

『窓の魚』(西加奈子)_書評という名の読書感想文

『窓の魚』西 加奈子 新潮文庫 2011年1月1日発行 温泉宿で一夜をすごす、2組の恋人たち。

記事を読む

『夜がどれほど暗くても』(中山七里)_書評という名の読書感想文

『夜がどれほど暗くても』中山 七里 ハルキ文庫 2020年10月8日第1刷 追う側

記事を読む

『能面検事』(中山七里)_書評という名の読書感想文

『能面検事』中山 七里 光文社文庫 2020年12月20日初版 大阪地検一級検事の

記事を読む

『ぼくは落ち着きがない』(長嶋有)_書評という名の読書感想文

『ぼくは落ち着きがない』長嶋 有 光文社文庫 2011年5月20日初版 両開きのドアを押して入

記事を読む

『ハーメルンの誘拐魔』(中山七里)_書評という名の読書感想文

『ハーメルンの誘拐魔』中山 七里 角川文庫 2022年2月25日11版 刑事犬養隼

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『新しい花が咲く/ぼんぼん彩句』(宮部みゆき)_書評という名の読書感想文

『新しい花が咲く/ぼんぼん彩句』宮部 みゆき 新潮文庫 2025年1

『スピーチ』(まさきとしか)_書評という名の読書感想文

『スピーチ』まさき としか 幻冬舎 2025年9月25日 第1刷発行

『絶対泣かない』(山本文緒)_書評という名の読書感想文

『絶対泣かない』山本 文緒 角川文庫 2025年11月25日 初版発

『13階段/新装版』(高野和明)_書評という名の読書感想文

『13階段/新装版』高野 和明 講談社文庫 2025年11月14日

『あなたにオススメの』(本谷有希子)_書評という名の読書感想文

『あなたにオススメの』本谷 有希子 講談社文庫 2025年11月14

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑