『さよならドビュッシー』(中山七里)_書評という名の読書感想文

『さよならドビュッシー』中山 七里 宝島社 2011年1月26日第一刷

ピアニストからも絶賛! ドビュッシーの調べにのせて贈る、音楽ミステリー。ピアニストを目指す遥、16歳。祖父と従姉妹とともに火事に遭い、ひとりだけ生き残ったものの、全身大火傷の大怪我を負う。それでもピアニストになることを固く誓い、コンクール優勝を目指して猛レッスンに励む。ところが周囲で不吉な出来事が次々と起こり、やがて殺人事件まで発生する - 。第8回『このミス』大賞受賞作品。(宝島社文庫解説より)

言っても詮無い事ですが、私のような門外漢が読むと、少し気後れするというのはあります。素養がないのを棚に上げて言うのも何ですが、(まるで縁がない)別の世界のことのようにも思えます。

ピアノがそうなら、クラシック音楽もそう。弾いたことも、その気になって聴いたこともない私にしてみれば、もしかすると一番の読ませどころをそうとは思えずに、それでも読んだつもりになっているんじゃないかと・・・・

それぞれの演奏シーンには、そう思わせるだけの筆力があります。上滑りの知識だけでは、ああは書けません。それくらいは私にも分かります。

ピアノに絡んだ音楽シーンが半分(この分量が適当かどうかは読み手の力量次第ということになります)、あとの半分がミステリーといった具合で物語は進んで行きます。
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香月家のある一帯はいわゆる高級住宅街で周辺からは「お屋敷町」と呼ばれています。家主の多くは地主で、建築ブームで財を成した土地成金です。遥の祖父・香月玄太郎もまたその一人で、香月家は大の資産家、住宅地の中でも特に高台に建っています。

(ページで言うと50ページ前あたり)始まった矢先のこと、この物語の発端となる不幸が香月家を襲います。被害に遭ったのは、主人公の遥、祖父の玄太郎、遥の同い年の従姉妹・ルシアの3人。

ルシアは、(遥からすると)叔母の娘。日本人なのですが、両親共がインドネシアに移り住み帰化までしている関係でインドネシア国籍になっています。スマトラ島沖地震で両親を亡くした彼女は、今は香月家の一員として暮らしています。

(おそらくは玄太郎の不注意で)3人は大火事に遭います。玄太郎とルシアは焼死、遥だけが一命を取りとめたまではいいのですが、全身に大火傷を負います。顔を含めた皮膚の大部分が焼け爛れ、成形のための移植手術を受けることになります。

手術はみごと成功し、遥は以前と変わらぬ姿を取り戻します。しかし、すべてが元通りというわけにはいきません。顔や指の形は完璧に復元するのですが、他の見えない部分は継ぎ接ぎだらけになります。

おまけに、移植した皮膚は動かさずにいると突っ張ったままで、顔の表情を取り戻すためのリハビリ、思い通りに指を動かすためのリハビリが必要になります。下半身もまた同様で、松葉杖がなければ満足に歩くこともできません。

そんなときに遥の前に現れて、彼女に再起を促すのが、もう一人の主人公である岬洋介という若者 - 彼は新進気鋭のピアニストで、国内の名だたるコンクールを総なめにしている - 真正面から見ると柔らかい笑顔が実に眩しい、まこと〈遥好み〉の男性です。
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さて大きくは、一旦絶望の淵に立たされた遥が、洋介の指導の元みるみるうちに指の動きを取り戻し、遂にはコンクールに出場しようかというところまで進んでいくのですが、その間に、偶然か故意かは分からないのですが、いくつかの不審事が起こります。

階段の滑り止めが剥がれていたり、松葉杖が壊れていたりします。まるで遥を狙ってしたような仕業にも思え、しかし、一体誰がしたのか、何のためにしたかが判然としません。あろうことか、遂には母親が神社の石段から転がり落ちて命を落とすことにもなります。

母親の死は単なる事故なのか、あるいは誰かの手による殺人なのか? 殺人とするならば、犯人の目的は何なのか・・・・

これらの謎を解き明かすのが - ちょっとでき過ぎのようにも思いますが、名古屋検察庁でその人ありと謳われた凄腕の検事正を父に持ち、自らも司法試験にトップで合格している - にもかかわらず、どういうわけでかピアニストになっている岬洋介なのです。

事は相続にかかる問題です。玄太郎の遺した財産の総額が、12億7千万。しかも、亡くなった祖父の遺書には、(実の子供を差し置いて)孫娘の遥に総資産の半分を相続すると書いてあります。そうともなれば、香月家でなくとも揉めごとの一つや二つは起ころうかというものです。最後にあっと驚く結末が待っています。

この本を読んでみてください係数 85/100

◆中山 七里
1961年岐阜県生まれ。
花園大学文学部国文科卒業。

作品 「切り裂きジャックの告白」「贖罪の奏鳴曲」「七色の毒」「おやすみラフマニノフ」「いつまでもショパン」「連続殺人鬼カエル男」他多数

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