『エンド・オブ・ライフ』(佐々涼子)_書評という名の読書感想文

『エンド・オブ・ライフ』佐々 涼子 集英社文庫 2024年4月25日 第1刷

理想の死ってなんだろう。Yahoo! ニュース本屋大賞 2020年ノンフィクション本大賞受賞作

自身が余命宣告をされた看取りのプロ“ は、残された時間をどう過ごすのか。生と死を想う傑作ノンフィクション

死ぬ前に家族と潮干狩りに行きたい - 。死にゆく人の望みを献身的に叶える医師と看護師がいる。その一人、訪問看護師の森山文則は、自身がステージⅣのすい臓がんであることを知る。「看取りのプロ」 は病とどう付き合い、死とどう折り合いをつけるのか。著者は、自らの母の病気とその看病をする父の話を交え、死を迎える人と寄り添う人を活写する。終末期のあり方を問うノンフィクション。(集英社文庫)

滅多にないことですが、最近私は続けて二冊のノンフィクションを読みました。一冊が清武英利著 『アトムの心臓ディア・ファミリー23年間の記録』 で、二冊目がこの 『エンド・オブ・ライフ』 です。

(内容は異なりますが、二冊ともに) 身につまされました。とても他人事とは思えません。いずれ死に逝く間際になって、人は何を思うのでしょう。傍には誰がいるのでしょう。誰か、いるのでしょうか。

訪問看護師、森山文則 (48) が、身体の小さな異変に気づいたのは2018年の8月のこと。この年は猛暑で、京都は鍋の底にでもいるような蒸し暑さだった。

8月9日。彼はCT検査を受けたあと、いつものように訪問看護師として助手席に医師を乗せて市内を巡回した。そして、検査結果の出る午後4時に医療センターに寄り、裏手の駐車場に車を停める。

渡された封筒は、渡辺康介宛だ。だが、診療所の検査結果に最初に目を通すのがいつもの役割だったので、特に躊躇することもなく、車に戻る道すがら、封を切る。

もどかしい思いで書類を出すと、結果報告書は二枚あった。二枚目には画像が添付されている。彼はまず一枚目に目を通した。

CT画像診断報告書

画像診断
一元的には膵頭部腫瘍と多発肺転移を疑う所見です。鑑別は主膵管型IPMNなど。PSCやIgG4関連疾患など総胆管狭窄を来す炎症性疾患も考慮されますが、主膵管の著明な拡張から典型的とは言えません。肺病変に関しては感染症や多発高分化型腺癌も鑑別ではあります。

すい臓がんを原発とする肺移転の疑い。不思議と驚いたり、ショックを受けたりはしなかった。むしろ今までの違和感がようやく腑に落ちた気分だった。

森山の胸ポケットに入っている小さなノートには、縮小コピーした過去のカレンダーが差し込まれている。日付には赤いボールペンで、几帳面に丸印がつけられていた。遠目からだと真っ赤に見える。赤い丸は、患者を看取った日につけられたもので、ここ数年間で彼は200人以上を看取ってきた。週に2,3人。多い時には5人の看取りを経験することもある。がん患者の看護経験は多い。

ж

彼は妻や同僚にがんが見つかった旨の報告をした。
報告しながらも願っていた。
「肺がんであってほしい。それならまだ何とかなるかもしれない」 だが、追って検査した結果は、すい臓原発のがんだった。

彼を担当している呼吸器内科の医師は、森山があまりに冷静なので、こう気遣った。「医療の専門家だからって我慢する必要はないのよ。泣きたかったら、うんと泣いていいんですよ」 彼はその一言が嬉しかった。しかし、さほど涙は出なかった。(本文より)

※「在宅」 を望み、「在宅にこだわった」 多くの人が登場します。「看取る人」 と 「看取られる人」 がおり、その背後には、治療や看護を担うべく多くのスタッフがスタンバイしています。その療養所では、他所とは違う “規範“ がありました。その実践の先頭にいたのが、森山でした。

この本を読んでみてください係数 85/100

◆佐々 涼子
1968年神奈川県横浜市生まれ。
早稲田大学法学部卒業。日本語教師を経てフリーライターに。2012年 『エンジェルフライト 国際霊柩送還士』 で第10回開高健ノンフィクション賞受賞。

著書 「たった一人のあなたを救う 駆け込み寺の玄さん」「紙つなげ! 彼らが本の紙を造っている 再生・日本製紙石巻工場」「ボーダー 移民と難民」など

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