『翼』(白石一文)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2024/01/13 『翼』(白石一文), 作家別(さ行), 書評(た行), 白石一文

『翼』白石 一文 鉄筆文庫 2014年7月31日初版

親友の恋人である、ほとんど初対面の男から結婚を申し込まれた女。10年後、2人は再会する。彼は彼女の親友と子を成し家庭をもっているが、気持ちはまったく変わっていなかった。誰だって真実の人生を見つけられると言う。(「BOOK」データベースより)

久々に血迷って(!?)白石一文の小説を読んでみようと思い、たまたま書店の目立つところにあったのがこの本で、(ネットでみると)「常識と道徳の枠外にあるものが胸に迫り、深い考察を促す新たな代表作の誕生」とあります。

文庫の帯がスゴイ。大きなフォントで「何度も読んで、泣くひと続出・・・」とあり、次に続けて(普通サイズで)「発売前から大反響! Twitterでの小説連載が新聞各紙(讀賣新聞、日本経済新聞)で話題に! 」とあります。

裏に回ると、〈心の底から愛した「運命の人」が隣にいない〉「そんな人生に意味はあるのか!? 」ときて、「予測不能のスリリングな展開に思わず一気読み! これぞ小説! これぞ物語の力! 凄まじい信念で「生きること」の意義を問い続ける白石一文の新傑作! 」とあります。

これは、有隣堂という本屋のヨドバシAKIBA店で働いている梅原潤一さんという人が販促用に書き上げたPOPの文面であるらしい。(文庫の解説も梅原さんが書いています)

もう、やたらと熱い言葉が並んでいます。しかも「! 」とか「!? 」がハンパなく多用されており、ここまでなると、何だか違うんじゃないの、ホントにそうなの? と逆に良からぬふうに想像したりはしないかと・・・、他人ごとながら、余計なことを考えてしまいます。

第一、白石一文の小説は、「何度も読んで」という部分はさておき、「泣くひと(が)続出・・・」するようなものですか、ということ。大いに感心したり、普通ならざる教養の高さに敬服したりするのですが、だからといって泣くような部類の小説だとは思えません。

それなりに読んではいますが、(少なくとも私は)泣いたことも泣きそうになったこともありません。この小説にしたところで、(半ばそうではないかと疑ってはいたのですが)どこをどんなふうに読めば泣けるのでしょう?

さっぱり分かりません。分からないといえば、他にも理解し難いところがいくつかあります。

〈心の底から愛した「運命の人」が隣にいない〉のなら「そんな人生に意味はあるのか!? 」とありますが、私なら「あります」と答えます。そもそも「運命の人」の定義が曖昧過ぎて、真面目に読もうという気になれません。

「予測不能のスリリングな展開に思わず一気読み! 」- 如何にもサスペンス、如何にもミステリアスな展開を思わせますが、そんな箇所はどこにもありません。何か精神的なものの変遷を言いたいのであれば、違う言い方をした方がいい。大きな勘違いをします。

「これぞ小説! これぞ物語の力! 凄まじい信念で「生きること」の意義を問い続ける白石一文の新傑作! 」-(小説は小説で間違いないですが)「これぞ物語の力! 」はいくら何でも言い過ぎでしょう。物語としてリアルじゃないので、文句を言っているわけです。

そもそも主人公のキャリアウーマンである田宮里江子、彼女を唯一人「運命の人」と信じてひたすら求愛する医者の長谷川岳志 - この2人がよく分からない。2人それぞれに、何をもって己の生きる真実とするかの根拠が理解できないのです。

ジョエル・ミュラーが描いた板絵のタイトルを記したプレートにある「わが心にも千億の翼を」という文字を読んだとき、里江子の背筋に電流のようなものが流れ、全身の力が抜け、へたり込んでしまいそうになります。

里江子は激しく動揺し、次の瞬間には岳志を「助けなくちゃ」と心で叫んだというのですが、これもよく分からない。つらつらと理由めいた(里江子の)記述はあるのですが、それでも「千億の翼」が何を意味するのか、彼女が何に触発されたのかが分かりません。

珍しく分からないこと尽くめの話を読んでしまいました。明晰な白石さんのことですから、何か伝えたいことの一点の為にこの物語を創り上げたということは分かります。

この小説は光文社が企画した、「死様」をテーマにした競作の中の一編であるようで、確かにそんな場面が中にあるにはありますが、残念ながら何ほどの印象も残りません。

梅原さんのようには理解できないし、新聞で取り上げられるほどの話題作なのかとも思います。自分の読み様の拙さを棚に上げて書きたいように書いてまだ言うかと思われるでしょうが・・・、ちっともよくなかった。何だか読んで損をした、そんな気持ちになりました。

この本を読んでみてください係数  70/100


◆白石 一文
1958年福岡県福岡市生まれ。
早稲田大学政治経済学部卒業。父白石一郎は直木賞作家。双子の弟白石文郎も小説家。

作品 「一瞬の光」「不自由な心」「すぐそばの彼方」「僕のなかの壊れていない部分」「心に龍をちりばめて」「ほかならぬ人へ」「神秘」ほか多数

関連記事

『泣いたらアカンで通天閣』(坂井希久子)_書評という名の読書感想文

『泣いたらアカンで通天閣』坂井 希久子 祥伝社文庫 2015年7月30日初版 大阪

記事を読む

『地下鉄に乗って〈新装版〉』(浅田次郎)_書評という名の読書感想文

『地下鉄に乗って〈新装版〉』浅田 次郎 講談社文庫 2020年10月15日第1刷 浅

記事を読む

『寝ても覚めても』(柴崎友香)_書評という名の読書感想文

『寝ても覚めても』柴崎 友香 河出文庫 2014年5月20日初版 謎の男・麦(ばく)に出会いたちま

記事を読む

『不連続殺人事件』(坂口安吾)_書評という名の読書感想文

『不連続殺人事件』坂口 安吾 角川文庫 1974年6月10日初版 戦後間もないある夏、詩人・歌川一

記事を読む

『家族じまい』(桜木紫乃)_書評という名の読書感想文

『家族じまい』桜木 紫乃 集英社 2020年11月11日第6刷 家族はいったいいつ

記事を読む

『伝説のエンドーくん』(まはら三桃)_書評という名の読書感想文

『伝説のエンドーくん』まはら 三桃 小学館文庫 2018年6月11日初版 中学校の職員室を舞台に、

記事を読む

『個人教授』(佐藤正午)_書評という名の読書感想文

『個人教授』佐藤 正午 角川文庫 2014年3月25日初版 桜の花が咲くころ、休職中の新聞記者であ

記事を読む

『東京奇譚集』(村上春樹)_書評という名の読書感想文

『東京奇譚集』村上 春樹 新潮社 2005年9月18日発行 「日々移動する腎臓のかたちをした

記事を読む

『戸村飯店 青春100連発』(瀬尾まいこ)_書評という名の読書感想文

『戸村飯店 青春100連発』瀬尾 まいこ 文春文庫 2012年1月10日第一刷 大阪の超庶民的

記事を読む

『ビタミンF』(重松清)_書評という名の読書感想文

『ビタミンF』重松 清 新潮社 2000年8月20日発行 炭水化物やタンパク質やカルシウムのよ

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『曾根崎心中/新装版』(角田光代 原作 近松門左衛門)_書評という名の読書感想文

『曾根崎心中/新装版』角田 光代 原作 近松門左衛門 リトルモア 2

『枯木灘』(中上健次)_書評という名の読書感想文

『枯木灘』中上 健次 河出文庫 2019年10月30日 新装新版3刷

『僕の女を探しているんだ』(井上荒野)_書評という名の読書感想文

『僕の女を探しているんだ』井上 荒野 新潮文庫 2026年1月1日

『この本を盗む者は』(深緑野分)_書評という名の読書感想文

『この本を盗む者は』深緑 野分 角川文庫 2025年11月5日 8版

『いつも彼らはどこかに』(小川洋子)_書評という名の読書感想文

『いつも彼らはどこかに』小川 洋子 新潮文庫 2025年11月25日

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑