『ひとでちゃんに殺される』(片岡翔)_書評という名の読書感想文 

公開日: : 最終更新日:2024/01/07 『ひとでちゃんに殺される』(片岡翔), 作家別(か行), 書評(は行), 片岡翔

『ひとでちゃんに殺される』片岡 翔 新潮文庫 2021年2月1日発行

表紙の絵とタイトルに、軽いノリで買ってみました。新潮文庫のための書き下ろしだそうです。可愛い顔をしたひとでちゃんが人を殺す!? いいえ、そうではありません。死ぬのは、彼女が選んだ人です。

悪魔から逃れるためには生贄を選ぶしかない

宙を舞うスキー板が、地下鉄の鉄扉が、墜落する信号機が、次々と呪われた生徒の首を断つ・・・・・・・。怪死事件が相次ぐ教室に、謎の転校生がやって来た。「縦島ひとで、十六歳です」 圧倒的な美貌で周囲を虜にし、匂い立つような闇を纏う彼女の正体は!? 助かるためには誰か一人を生贄に差し出すしかない - 悪魔に魅入られた高校生たちが迫られる究極の命の選択。戦慄の学園サスペンスホラー 。(新潮文庫)

黒い女を見たのは、昨日の早朝だった。
真っ黒な顔と身体に、足元まで伸びた髪。細い体躯にひょろ長い手脚。顔には渦巻きのような目があって、それが人間じゃないのは一目瞭然だ。その女は美味しそうに、人間の生首をぺろぺろと舐めていた。

ハッと目を覚まし、すぐに夢だということに気がついた。
けれどただの夢じゃない。トラウマのように刻まれた古い記憶が蘇る。幼い頃、境内の奥にある蔵で、その女の絵を見たことがあったのだ。

そして今日、一條は死んだ。

奴があの黒い女に殺されたのは、疑いようのない事実。
天が裁きを下したのだ。
そう思うと清々しかった。

仁志と三ツ橋。さらに率先して葵を馬鹿にしていた海老原と花田、玉井の名前を刻み込む。葵のスタンプを作った脇と、陰で全員を煽っている美園。そこまで彫ったところで、我に返った。

※物語の前半、全てはクラスの優等生・鷹守清史郎が仕組んだことでした。

チャイムが鳴ると、すぐに (担任の) 若宮が入ってきた。

「えぇっと、こんなタイミングだけど、我らが1年4組に転校生が来ました」
教室がざわつく。なんでこの状況のうちのクラスに。と思ったが、2人も生徒が減ったからかもしれない。

とてつもなく美人だった。
男子も女子も、その容姿に釘付けになっている。
若宮がドヤ顔をしながら、黒板に名前を書く。チョークの音に重ねるように、彼女は自ら話し出した。

「お父さんの転勤が多くて色んな街に住んできたけど、生まれは熊本です。9歳まで住んでいました。小さい頃から、ひとでなしのひとでちゃんって呼ばれています。仙台も、宮城県も初めてです。色々教えてください。どうぞ、よろしくお願いします」

※この人物こそが、物語の主人公・縦島ひとで、その人でした。彼女がこの学校の、このクラスに転校してきたのには、実は、訳があります。それを、今は誰も知りません。

後半になり、クラスののけ者の佐藤水色だけがひとでの正体を知ることになります。彼女が自分をひとでなしだという本当の理由を、身をもって知ることになります。

この本を読んでみてください係数 80/100

◆片岡 翔
1982年北海道生まれ。

作品 2014年に映画 「1/11」 を監督。脚本家として 「町田くんの世界」 「I”s」 「トーキョーエイリアンブラザーズ」 「きいろいゾウ」 などを手がける。‘17年、初の小説 『さよなら、ムッシュ』 を刊行。他に 『あなたの右手は蜂蜜の香り』 がある。

関連記事

『不思議の国の男子』(羽田圭介)_書評という名の読書感想文

『不思議の国の男子』羽田 圭介 河出文庫 2011年4月20日初版 年上の彼女を追いかけて、お

記事を読む

『雨のなまえ』(窪美澄)_書評という名の読書感想文

『雨のなまえ』窪 美澄 光文社文庫 2022年8月20日2刷発行 妻の妊娠中、逃げ

記事を読む

『夏物語』(川上未映子)_書評という名の読書感想文

『夏物語』川上 未映子 文春文庫 2021年8月10日第1刷 世界が絶賛する最高傑

記事を読む

『夫の墓には入りません』(垣谷美雨)_書評という名の読書感想文

『夫の墓には入りません』垣谷 美雨 中公文庫 2019年1月25日初版 どうして悲し

記事を読む

『走ル』(羽田圭介)_書評という名の読書感想文

『走ル』羽田 圭介 河出文庫 2010年11月20日初版 なんとなく授業をさぼって国道4号線を

記事を読む

『続・ヒーローズ(株)!!! 』(北川恵海)_書評という名の読書感想文

『続・ヒーローズ(株)!!! 』北川 恵海 メディアワークス文庫 2017年4月25日初版 『 ヒ

記事を読む

『僕らのごはんは明日で待ってる』(瀬尾まいこ)_書評という名の読書感想文

『僕らのごはんは明日で待ってる』瀬尾 まいこ 幻冬舎文庫 2016年2月25日初版 兄の死以来、人

記事を読む

『センセイの鞄』(川上弘美)_書評という名の読書感想文

『センセイの鞄』川上 弘美 平凡社 2001年6月25日初版第一刷 ひとり通いの居酒屋で37歳

記事を読む

『新装版 人殺し』(明野照葉)_書評という名の読書感想文

『新装版 人殺し』明野 照葉 ハルキ文庫 2021年8月18日新装版第1刷 本郷に

記事を読む

『夜の公園』(川上弘美)_書評という名の読書感想文

『夜の公園』川上 弘美 中公文庫 2017年4月30日再版発行 「申し分のない」

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『オーラの発表会』(綿矢りさ)_書評という名の読書感想文

『オーラの発表会』綿矢 りさ 集英社文庫 2024年6月25日 第1

『彼岸花が咲く島』(李琴峰)_書評という名の読書感想文

『彼岸花が咲く島』李 琴峰 文春文庫 2024年7月10日 第1刷

『半島へ』(稲葉真弓)_書評という名の読書感想文

『半島へ』稲葉 真弓 講談社文芸文庫 2024年9月10日 第1刷発

『赤と青とエスキース』(青山美智子)_書評という名の読書感想文

『赤と青とエスキース』青山 美智子 PHP文芸文庫 2024年9月2

『じい散歩』(藤野千夜)_書評という名の読書感想文

『じい散歩』藤野 千夜 双葉文庫 2024年3月11日 第13刷発行

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑