『百年と一日』(柴崎友香)_書評という名の読書感想文

『百年と一日』柴崎 友香 ちくま文庫 2024年3月10日 第1刷発行

朝日、読売、毎日、日経各紙で紹介。第1回みんなのつぶやき文学賞 国内篇第1位 「こんな小説、読んだことないと話題の一冊が、待望の文庫化!

人間と時間の不思議がここにある。新感覚の34の物語。1篇を増補!

学校、家、映画館、喫茶店、地下街の噴水広場、島、空港・・・・・・・さまざまな場所で、人と人は人生のひとコマを共有し、別れ、別々の時間を生きる。屋上にある部屋ばかり探して住む男、戦争が起こり逃げて来た女と迎えた女、周囲の開発がつづいても残り続ける 「未来軒」 というラーメン屋・・・・・・・この星にあった、誰も知らない34の物語。1篇を増補し、待望の文庫化。解説 深緑野分 (ちくま文庫)

どこの、誰の話かはわかりません。時代はバラバラで、場所も不明で - それでも人は人と出会い、人生のひとコマを共有し、やがて別れ、それぞれ別の時間を生きることになります。切ないような、空しいような ・・・・・・・ それほどではないような。そんな話が、縷々書いてあります。

収録作のひとつ 「ラーメン屋未来軒 は、長い間そこにあって、その間に周囲の店がなくなったり、マンションが建ったりして、人が去り、人がやってきた」 は中でも優れた一編である。

駐車場の真ん中にぽつんと建つ 「未来軒」 は、トタンの波板で囲われた安普請の建物だが、以前は両隣も似たような造りの店で、裏手には木造の長屋があった。日陰の路地にはよくどこかの家のじいさんが座っていて、たまにラーメンを食べに来た。次第に未来軒のある区域で土地開発がはじまり、土地を売って引っ越す者も出てくる。立ち退かない者への嫌がらせもはじまって誰も彼もいなくなっていく。それでも店主は意地でも店を売らなかった。

Ж

未来軒が迎える結末は、何も良くはなっていないのに、どこか小気味良い。みんなそれぞれの選択をし、場所から離れて 「未来」 に進んでいるが、未来軒の未来はここにあり続け、周囲もその選択の結果を生きている。

場所と、人と、時間。『百年と一日』 に収録されている作品はいずれも、この三点のポイントによって立体的に立ち上がっている。(以下略/解説より)

※目次だけで8ページもあります。ちなみに増補された作品のタイトルは、こうです。

その人には見えている場所を見てみたいって思うんです、一度行ったことがあるのに道がわからなくなってしまった場所とか、ある時だけ入口が開いて行くことができる場所のことを考えるのが好きで、誰かが覚えている場所にもどこかに道があるんじゃないかって、と彼は言った」 (125ページ、19番目に載っています)

どうでしょう? 何だか抽象的に過ぎるでしょうか。一生懸命自分が過去にした経験を思い出すと、実はあなたにも似た出来事があったのではないでしょうか? そんなふうに感じる、ふとしたことの断片ばかりが綴られています。

この本を読んでみてください係数  85/100

◆柴崎 友香
1973年大阪府大阪市大正区生まれ。
大阪府立大学総合科学部国際文化コース人文地理学専攻卒業。

作品 「きょうのできごと」「次の駅まで、きみはどんな歌をうたうの?」「青空感傷ツアー」「フルタイムライフ」「寝ても覚めても」「その街の今は」「春の庭」「千の扉」他多数

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