『揺籠のアディポクル』(市川憂人)_書評という名の読書感想文
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『揺籠のアディポクル』(市川憂人), 作家別(あ行), 市川憂人, 書評(や行)
『揺籠のアディポクル』市川 憂人 講談社文庫 2024年3月15日 第1刷発行
孤立した無菌病棟に取り残された少年と少女。ウイルスすら出入り不能の密室で彼女を殺したのは - 誰?
![](http://choshohyo.com/wp-content/uploads/2024/04/61q1n0JRytL._AC_UL320_-3.jpg)
『ジェリーフィッシュは凍らない』 の著者による甘く切ない青春本格ミステリ
半人形 - それがコノハの最初の印象だ。隻腕義手の痩せた少女が、タケルのただひとりの同居人だった。医師の柳や看護師の若林とともに、病原体に弱い二人を守るはずだった無菌病棟、通称 《クレイドル》。
しかし、ある大嵐の日、《クレイドル》 は貯水槽に通路を寸断され、外界から隔絶される。不安と焦燥を胸に、二人は眠りに就き、- そして翌日、コノハはメスを胸に突き立てられ、死んでいた。外気にすら触れられない彼女を、誰が殺した? (講談社BOOK倶楽部より)
初読。評価は難しい。設定 (死に至る原因と結果) は斬新で、私好みではある。ただ万人受けするかどうかはわからない。(特に前半の) 丁寧が過ぎてくどく感じる描写の連続は、ややもすると読む気を削ぐことにもなりかねはしないだろうか。正直に言うと、何度も飽きて投げ出しそうになった。
『死蠟 【しろう】/adipocere』 という言葉が出てくるまで我慢することだ。物語は、そこから俄然面白くなる。
たった二人だけが生活する無菌病棟 《クレイドル》 の中で、紆余曲折を経ながらも徐々に互いの関係を深めていくタケルとコノハ。だが大嵐のため完全に閉ざされた空間となったクレイドルの中で、タケルはコノハの亡骸を見つけ・・・・・・・。
というあらすじのノンシリーズ作品である本書は、叙情的な恋愛要素や謎また謎のスリリングな展開、そして読者の感情を揺さぶる結末が待ち受ける作品で、市川憂人作品の入門にもオススメの逸品である。市川ファン・初市川作品読者のいずれであっても、本書を一読された方は、2016年に 『ジェリーフィッシュは凍らない』 にてデビューしてからわずか4年の “新鋭“ 本格ミステリ作家が生み出したとは思えない、細部まで神経が行き届いた厚みのある構成と、情感溢れる物語に驚かれるのではないだろうか。(解説より)
※細部にこだわるあまり、謎の周囲を行ったり来たり - 延々とそんな描写が続くと、結局何が何だかわからなくなってしまう。大いなる前振りが悪いわけではないが、事の核心に至る手前で飽きられては元も子もない。なるだけ簡潔に、節度を持って臨んでもらえればと。最後は結構、感動するのだから。
この本を読んでみてください係数 80/100
![](http://choshohyo.com/wp-content/uploads/2024/04/61q1n0JRytL._AC_UL320_-1.jpg)
◆市川 憂人
1976年神奈川県生まれ。
東京大学卒業。
作品 2016年 『ジェリーフィッシュは凍らない』 で、第26回鮎川哲也賞を受賞しデビュー。他著に、『ブルーローズは眠らない』 『グラスバードは還らない』 『ボーンヤードは語らない』 『ヴァンプドッグは叫ばない』 (以上、東京創元社)、『神とさざなみの密室』 (新潮文庫) がある。
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