『いつか、アジアの街角で』(中島京子他)_書評という名の読書感想文
公開日:
:
『いつか、アジアの街角で』(中島京子他), 中島京子, 書評(あ行)
『いつか、アジアの街角で』中島 京子他 文春文庫 2024年5月10日 第1刷
あの街の空気が呼びおこす遠い記憶と、かすかな希望、そして・・・・・・・ 人気女性作家6人の競作! |文庫オリジナル

台湾出身だと語る風変わりな青年、探偵屋に漂うルーロー飯の香り、動けなくなったあの日に作った一皿、生まれ育った香港を離れた彼女の迷い、異国の地でひっそりと暮らす男性に打ち明けた思い、夢に出てきた愛猫に呼ばれた街でふいに蘇った懐かしい記憶・・・。人気女性作家6人による、心に沁みる珠玉のアジアン・アンソロジー。(文春文庫)
韓国、中国・香港、台湾、タイにマレーシアに、シンガポール。少し南のバリ島などにも行きました。三十代の頃のことです。特に旅行が好きだったわけではありません。就いた仕事上、致し方なくのことでした。
それでも刺激はありました。赤や緑の原色看板に。肌を露出した若い女性の檳榔売りに。屋台で食べる、日本とはちょっと違う焼き鳥に。うず高く積まれたドリアンの山に。甘辛く濃い味のルーロー飯に。しかし、大抵のことは忘れました。どうでもよさそうな、些細なことだけを今も覚えています。
書いてあるのは、主に台湾、中に香港にまつわる諸々です。思うほど “海外海外“ してはいません。舞台の大方は日本国内で、主人公は普通の人で。普通に暮らす中に、ふと “アジア“ が交ります。入り込む、あるいは既に入り込んでいる、といっていいかもしれません。6作品共に味わい深く、どれが気に入るかはあなた次第だと思います。
1 中島京子 「隣に座るという運命について」 文芸サークルで偶然出会ったエイフクさんは幽霊?・・・・・・・
2 桜庭一樹 「月下老人」 火事を出した台湾料理屋が探偵屋の1階に転がり込んで・・・・・・・
3 島本理生 「停止する春」 勤続15年目のある日、会社を休んだ。次の日もその翌日も・・・・・・・
4 大島真寿美 「チャーチャンテン」 1997年の夏、お腹のなかにいたあの子は2022年に・・・・・・・
5 宮下奈都 「石を拾う」 わたしの身体の中には活火山があって、ときどき噴火する・・・・・・・
6 角田光代 「猫はじっとしていない」 1年前にいなくなった愛猫のタマ子が、夢の中に出てきて・・・・・・・
※私の一番は、冒頭の 「隣に座るという運命について」 でしょうか。何せ、中島京子さんの文章が素晴らしい。こんな文章が書けたらと、読むたび思います。
この本を読んでみてください係数 85/100

◆中島京子 (なかじま・きょうこ)
1964年東京都生まれ。『小さいおうち』 『長いお別れ』
◆桜庭一樹 (さくらば・かずき)
1971年島根県生まれ。『赤朽葉家の伝説』 『私の男』
◆島本理生 (しまもと・りお)
1983年東京都生まれ。『夏の裁断』 『ファーストラブ』
◆大島真寿美 (おおしま・ますみ)
1962年愛知県生まれ。『ピエタ』 『渦 妹背山婦女庭訓 魂結び』
◆宮下奈都 (みやした・なつ)
1967年福井県生まれ。『田舎の紳士服店のモデルの妻』 『羊と鋼の森』
◆角田光代(かくた・みつよ)
1967年神奈川県生まれ。『対岸の彼女』 『八日目の蝉』
関連記事
-
-
『憧れの作家は人間じゃありませんでした』(澤村御影)_書評という名の読書感想文
『憧れの作家は人間じゃありませんでした』澤村 御影 角川文庫 2017年4月25日初版 今どき流
-
-
『荒地の家族』(佐藤厚志)_書評という名の読書感想文
『荒地の家族』佐藤 厚志 新潮社 2023年1月20日 発行 あの災厄から十年余り、男はその
-
-
『いかれころ』(三国美千子)_書評という名の読書感想文
『いかれころ』三国 美千子 新潮社 2019年6月25日発行 「ほんま私は、いかれ
-
-
『心淋し川』(西條奈加)_書評という名の読書感想文
『心淋し川』西條 奈加 集英社文庫 2023年9月25日 第1刷 「誰の心にも淀み
-
-
『あなたの燃える左手で』(朝比奈秋)_書評という名の読書感想文
『あなたの燃える左手で』朝比奈 秋 河出書房新社 2023年12月10日 4刷発行 この手の
-
-
『雨の鎮魂歌』(沢村鐵)_書評という名の読書感想文
『雨の鎮魂歌』沢村 鐵 中公文庫 2018年10月25日初版 北の小さな田舎町。中
-
-
『泳いで帰れ』(奥田英朗)_書評という名の読書感想文
『泳いで帰れ』奥田 英朗 光文社文庫 2008年7月20日第一刷 8月16日、月曜日。朝の品川駅
-
-
『悪逆』(黒川博行)_書評という名の読書感想文
『悪逆』黒川 博行 朝日新聞出版 2023年10月30日 第1刷発行 過払い金マフィア、マル
-
-
『アカペラ/新装版』(山本文緒)_書評という名の読書感想文
『アカペラ/新装版』山本 文緒 新潮文庫 2020年9月30日5刷 人生がきらきら
-
-
『朝が来る』(辻村深月)_書評という名の読書感想文
『朝が来る』辻村 深月 文春文庫 2018年9月10日第一刷 長く辛い不妊治療の末