『しゃもぬまの島』(上畠菜緒)_書評という名の読書感想文

『しゃもぬまの島』上畠 菜緒 集英社文庫 2022年2月25日第1刷

それは突然やってくる - 。美しい少女たちの記憶と、呪われた家系の秘密。しゃもぬまによって、あの世へと誘われるのは一体誰か。

「迎えに来ました」 そう言って “しゃもぬま” は祐 (たすく) のもとにやってきた。特産品の夏みかんと並び地元の島で有名なその生き物は、人を死へ誘うという。逃れる方法は一つ、しゃもぬまを誰かに譲ること。微妙な距離感の幼馴染姉妹や、父親を教えない母へのわだかまりを抱え、生と死の狭間で揺れる彼女が導き出した答えとは。心に傷を持つ女性の葛藤と再生を描く幻想奇譚。第32回小説すばる新人賞受賞作。(集英社文庫)

しゃもぬまを知っているだろうか〉。
実に魅力的な口上で幕をあける本作もまた、人ならざるものとの邂逅を通じて、私たちをめぐる不穏な現実を蠱惑的にあぶり出していく。

夏みかんの名地として知られる、人口1,000人ほどの小さな島にひっそりと生息する生き物・しゃもぬま。彼らは死期が近づくと、島の人間からひとりを選んで一緒に天国へ連れていってくれると信じられてきた。物語は、本土にある港町でひとり暮らしをしている若い女性・祐のもとへ、しゃもぬまが唐突に 「迎えに来た」 ことで動きはじめる。

幻獣、と形容してしまうと、なにやら観念的で高尚なものを想像するかもしれない。だが実際の 「しゃもぬま」 像はそうしたイメージとはまるで異なり、絶妙にしょっぱいディテールの数々で構成されている。

例えば、サイズは中型犬くらいで見た目はロバ似。頭部がややアンバランスに大きくたてがみはない。なんとも曖昧な色味の体毛はところどころムラがあって、尻尾はさながら陰毛のよう。伏せられた目に項垂れた頭と丸まった背中が組み合わさり、けれど 〈耳だけはピンと立って、上を向いている〉。

彼らは大人しく、とても静かな生き物である。よく言えば忍耐強く、悪く言えば頑固で、人の言うことは聞かない。荷を引いたり、人を乗せたり、そういったこともしない。蹄が小さいから、速く走ることもできない。

こうした細部の豊かさと確かさ。命あるものとしての輪郭の濃さ、圧倒的なリアリティ。おそらく最初のページを繰った読者の心には、もうしゃもぬま が棲みついているはずだ。(解説より)

そんな 「しゃもぬま」 が、ある日 「迎えに来た」 先が、祐が暮らす部屋でした。

中学校進学を機に島を出た祐は、専門学校を卒業した後、アダルト雑誌やエリア情報誌を制作している小さな出版社に就職します。働き出して三年、一人暮らしの彼女は、日々の仕事に特段不満はないのですが、なぜか彼女は 「すかすかに消耗し」 「あらゆる欲求が抜け落ちた」 状態にあります。「自信も、野望も、大志も、やる気も、とにかく何かするために必要だと思われるものすべて」 が欠落しているのでした。「しゃもぬま」 がやって来たのは、彼女の、そんな頃のことです。

この本を読んでみてください係数 85/100

◆上畠 菜緒
1993年岡山県生まれ。
島根大学法文学部言語文化学科卒業。

作品 「しゃもぬまの島」 で第32回小説すばる新人賞を受賞しデビュー。

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