『四月になれば彼女は』(川村元気)_書評という名の読書感想文

『四月になれば彼女は』川村 元気 文春文庫 2019年7月10日第1刷

四月になれば彼女は (文春文庫)

4月、精神科医の藤代のもとに、初めての恋人・ハルから手紙が届く。だが藤代は1年後に結婚を決めていた。愛しているのかわからない恋人・弥生と。失った恋に翻弄される12か月が始まる - なぜ、恋も愛も、やがては過ぎ去ってしまうのか。川村元気が挑む、恋愛なき時代における異形の恋愛小説。(文春文庫)

April Come She Will / 4月になれば彼女は  Simon & Garfunkel

April Come She Will
When streams are ripe and swelled with rain;
May,she will stay,
Resting in my arms again.

June,she’ll change her tune,
In restless walks she’ll prowl the night;
July,she will fly
And give no warning to her flight.

August,die she must,
The autumn winds blow chilly and cold;
September I’II remember.
A love once new has now grown old

四月になれば、彼女はやってくる。小川に水が満ち、雨で潤う頃。
五月、彼女は僕のそばにいる。僕の腕のなかで、ふたたび安らぐ。

「サイモン&ガーファンクルといえばやっぱ 『卒業』 でしょう。フジさん観たことあります? この曲と、ミセス・ロビンソン。スカボロー・フェアにサウンド・オブ・サイレンス」
「ああ、ラストが印象的だった」
「そう! 駆けつけたダスティン・ホフマンが白い教会に飛び込む。ウエディングドレスを着た花嫁を奪って逃げる。そして黄色いバスに乗り込んで、最後尾に座って笑い合う。そこにサウンド・オブ・サイレンスが流れはじめる」(P247)

六月、彼女の様子が変わる。落ち着きなく歩き、夜に彷徨う。
七月、彼女は去っていく。なんの予告もなく、突然に。

「映画史に残るハッピーエンドだ」
「・・・・・・・ って、思うでしょ? 」 タスクがにやりと笑って続ける。「あの映画もう一度観直してくださいよ。ぜんぜん印象変わるから」
「どういうこと? 」
「駆け落ちしてきたふたりが、バスに乗り込む。興奮した様子で笑い合う。けれどもバスが走り出し、しばらくすると、ふたりがふっと真顔になりバスに揺られはじめる。不安げで、焦点が合わない目で俯く。さっきまでの希望に満ちた笑顔は、そこには無いんです」(P247.248)

八月、彼女はきっと死んでしまう。秋の風が肌寒く、冷たく吹くなかで。

藤代は、二年ぶりに弥生のベッドに横たわった。柔らかい羽毛の布団が体を包み込む。けれどもその表面は冷たく、思わず身震いする。身体の熱がゆっくりと布団に広がっていくのを感じながら、天井を見つめる。

九月、僕は忘れない。生まれたばかりの愛も、やがて移ろい過ぎてゆくってことを。あの長髪の男の歌声がよみがえる。後頭部になにかを感じ、枕元を見ると、一通の手紙が封を切られて置かれていた。それは知らぬ間に届いていた、ハルからの手紙だった。(P250.251)

手にした愛はやがて愛ではなくなってしまう。気付くと恋は、恋とは呼べないものへと姿を変える。

永遠に続くわけではないと知りながら、それでも人は人を愛せずにはいられません。気持ちを抑えることができません。

この本を読んでみてください係数 85/100

四月になれば彼女は (文春文庫)

◆川村 元気
1979年横浜生まれ。
上智大学文学部新聞学科卒業。

作品「世界から猫が消えたなら」「仕事。」「理系に学ぶ。」「億男」「百花」など
他に、絵本「ティニーふうせんいぬのものがたり」「ムーム」など

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